ドクターの人生設計の新たな可能性
2019.05.24
プライベートバンキングとファミリーオフィス
欧米式〝専門家活用〟のススメ
医師の残業の許容基準は年間残業時間が1860時間。これは過労死の可能性のある残業時間といわれる基準の2倍の時間です。
この長時間労働の問題は、地方では地域医療の質と量の維持のため、東京や大阪などの都心部ではクリニックの乱立による競争の激化により、診療時間を長期化せざるを得ないなど、開業医といえども無関係ではありません。
厚生労働省も報告書で言及していますが、日本の医療はドクターや医療従事者の方の自己犠牲的な長時間労働に支えられています。忙しい診療に加えて、ドクターの方は最新の医療知識や薬剤・治験情報、技術習得など本業に必要なスキルなどに時間を割かねばならず、そのためには学会参加なども必要となってきます。
開業医の方であれば、医療のみならず経営やスタッフなどのマネジメント、経理財務やレセプトなどやらなければいけないタスクが満載です。私もドクターという職種の方々は非常に多忙で勤勉でないと務まらないなと日々のお付き合いの中で痛感することが多くあります。日々のコンサルティングでは人生設計のゴールを設定し、進捗を確認しながら、次の戦略などを共に共有しているのですが、その目的の中にQOLの向上やワークライフバランスを掲げるドクターの方も大勢いらっしゃいます。
では時間や精神的な余裕を生み出し、悠々自適な人生を送れるようにするためにはどのように考え、行動すればよいのでしょうか? そこで私がいつも考えるのは、欧米の富裕層のような専門家の活用です。ただそれも各専門家とドクター個人が個別に打ち合わせなどしていれば更なる負荷になります。
そこで参考になるのがプライベートバンキングサービスとファミリーオフィスサービスです。
耳慣れない言葉かもしませんが、プライベートバンキングサービスとは、主に金融機関が提供する資産管理、資産運用、事業継承、税務・法律相談などを包括的にサポートするサービスのことで、現在の日本では、企業間での顧客情報の共有が法的に難しく、銀行や証券会社など、各機関の業務の範囲内で行えるサービスに留まっているのが実情です。
また、ファミリーオフィスサービスとは、ロックフェラー家やカーネギー家のものが有名ですが、一族の恒久的な繁栄を主目的とし、資産の運用や保全など一族の財務計画の立案と遂行を行う税理士、弁護士、FPなどからなる専門家集団のことで、中心的なディレクション業務を担うプロジェクトマネージャーが各クライアントの要望に沿う形で専門家や事業会社などプロフェッショナル集団を形成し、目的完遂のために長期伴走方式でプロジェクトを運営します。アメリカにはこの様なファミリーオフィスが3000以上あるそうです。
ここから見えるのは欧米の富裕層は企業創業者や大企業の経営者層、代々の富裕一族が多く、個人としても多忙なのはいうまでもありません。そして課題なども資産保全や後継者育成、税務や慈善活動、資産継承など多岐にわたります。
そこにお金のこともソリューションが必要な課題にもプライベートに近い専門家チームを入れることにより質の高いソリューションやスキーム導入をしながらも自身は意思決定などに立ち会うのみという効率化も図れています。
しかし日本ではこういったサービスが富裕層に浸透し、有効活用できているとは必ずしもいえません。先述のような国の規制が存在するため、メガバンクや大手証券会社、外資金融会社も中々富裕層に支持されるサービス構築が出来ずにいる背景があり、そしてこういったサービスを日本で定着させるにはきめ細かい顧客理解やサポートによる信頼構築が不可欠です。しかし日本の事業会社は個別自社の商品のメリット強調タイプの販売手法から脱却できておらず、そういったことが日本人の投資への警戒感を醸成しているのは否めません。
これまでは上記のような日本の環境であるがゆえに、海外では浸透しつつある有効なサービスが構築できていませんでした。しかし人生一〇〇年時代と叫ばれるようになった現在金融庁は顧客目線でのサービス構築を金融機関に指導するようになってきましたし、IT企業がAIの活用などで新サービスを打ち出したりしています。
具体的にプライベートバンキングやファミリーオフィスが行っているサービスは大まかには以下の4つに分別されます。
①資産運用・投資代行
②事務管理代行
③高度なプランニングサービス
④ライフ・スタイルサービス
富裕層の多様なニーズやウォンツに応えていくためには、資産運用で利益を上げるだけでなく、確定申告やデータ集約、諸手続きを、国をまたいで行う事務代行や、税務や諸規制を分析しながら運用実績を上げ資産保全や慈善寄付活動などを実行するプランニング、旅行の手配や子息の教育の支援、その他あらゆるニーズや好みに対応するコンシェルジュ的役割も果たしています。
我々が目指すのは信頼できる「執事さん」
ラス・アラン・プリンスというアメリカのコンサルタントは著書「ファミリーオフィス」でそのサービス内容をこう述べています。
「富裕層のさまざまな悩みを受け止める『執事さん』がいれば、きっと彼らの人生はもっとすばらしいものになるだろう」
私も同感です。
私が思うに、多忙で社会貢献度の高いお仕事に従事するドクターにこそ医業とご自身のプライベート以外には時間を割かず専念できる環境が必要だと捉えています。
しかし現実は前段で述べたように、医療に割く時間は増え続けドクターの方のQOLが高まっている環境とはいえません。ドクターの方々が人生設計をしっかりとプランニングを立て、プランを実現するソリューションの過程でより人生が豊かになっていることを実感することで、ようやく地域医療や技術の発展に専念できるのだと思っています。
そのためにこそ、税務や法律・制度活用、資産運用や相続などのファイナンシャルな諸問題、ライフプランやリタイア、必要な保障構築などを安心して任せられるご自身が信頼できる「執事さん」を見つけ、解決していく環境を作ることが我々の使命だと心に置きながら我々コンサルタントは仕事をしていくべきだと私は思います。
- ■プロフィール
- 山下 晃司(やました こうじ)
シニアコンサルタント。500件以上の医師のコンサルティング実績を誇る。資産形成プランニング、ライフプランニング、財務改善、リタイア・相続プランニングなど医師の人生設計のワンストップ・プラットフォームサービスを手掛けている。