開業医のミカタ

医療法人化は開業医の方にとって、人生設計に非常に重要な影響を及ぼす検討課題

2019.07.12

利益率を基に法人化を考える

我々がドクターの方を専門にコンサルティングを行う中で、1番多いご相談は節税に関するものですが、それに次いで多いのが「医療法人化って売上げがいくらになればした方が良いの?」というご質問です。今回はそのようなお問い合わせをいただいた時に私がどのようにお答えしているのかをご紹介します。

医療法人化する際のメリット・デメリット

 医療法人にした方が良いかどうかを検討するタイミングや法人化のメリット・デメリットを教えて欲しいというご質問をくださる方の多くが抱かれているのが、売上がいくらになったらメリットが大きいのだろうという疑問です。その疑問に対して、私がお答えしているのは、法人化を検討するのであれば売上ではなく利益額や利益率を基に検討した方が良いということです。
 一般的に売上で考えられることが多い理由には、売上が大きくなればそれだけ利益額が多く残る可能性が高く、税金も高くなる傾向にあることが考えられます。しかし再度お伝えすると、法人化のポイントは利益額と利益率です。
 例えばわかりやすく説明するために少し極端な例で示しますと、売上1億円で利益率が28%の医院(医院A)と売上7000万円で利益率が40%の医院(医院B)とでは所得は同じ2800万円ですが、7000万円の医院のほうが法人化のメリットが大きくなります。
 それは、2つの医院では売上が100万円上がるごとに利益として残る金額に12万円の差が出るからです。これらの医院の売上が上下し、例えば売上が1億2000万円になると、医院Aに残る利益は3360万円ですが、医院Bの場合は4800万円にも上ります。逆に、売上が5000万円に下がったと仮定すると、医院Aの利益は1400万円ですが、医院Bにはまだ2000万円の利益が残る計算になります。これは依然として所得税率40%の範囲内にあります。
 このように法人化は売上ではなく利益率で考えることにより、売上が落ちた際にもそのメリットが残りやすい状態ができます。次に法人化のメリット・デメリットも見てみましょう。
 一般的に法人化を検討する理由としては「税金が高いこと」「生命保険が個人事業の限界である12万円を超えて経費化できること」「効率的に退職金を準備できること」などが挙げられます。
 以下に法人化のメリット・デメリットを簡単にまとめましたが、そういったメリットを享受しながら、デメリットを小さくできるのは売上が大きい医院ではなく利益が大きい医院なのです。その理由をメリット・デメリットの面から説明します。

医療法人化のメリット

①税種目の変更による税額の軽減
②生命保険一部の経費化
③退職金などの制度構築
④所得分散の拡大(専従者給与
を超える役員報酬の支給)
⑤事業継承や相続がしやすくなる
 他にも給与所得控除の適用や金融機関への信用向上による資金繰りのしやすさやスタッフ採用力の向上などが挙げられます。反対にデメリットを記します。

医療法人化のデメリット

①平成19年度4月以降設立の
医療法人は解散時の残余財産
が設立者に帰属しない
②社会保険への強制加入
③配当や投資行為などの禁止
④交際費の制限
⑤決算や登記など事務手続きに掛かる費用の増加
 などが挙げられます。

 しかしデメリットを見ると、利益に影響を及ぼす項目は少ないのに対して、メリットは主に税金を安くしたり、可処分所得を増やしたり、個人資産の増加が期待できたりと金銭的に良い影響が出る項目ばかりです。奥様が医師・歯科医師等の有資格者で個人事業のままでも所得分散が上手くできている方やリタイアまでの期間の短く事業継承の予定もない方、概算経費率によって所得計算されている方など、一部の方を除くとその効果は非常に魅力的なものです。
 もう少し詳しくお伝えすると、メリット①の税額の軽減では個人事業時の課税所得から所得税と住民税合わせてその最高55.945%支払うのに対して、法人化すると役員報酬を年次で自由に設定したうえで法人に残った利益に最高33.59%の法人税等の税金が課されます。更に法人に残す利益は生命保険や設備投資、スタッフや家族への上手な所得分散を行うことによってコントロールすることが可能です。このように、個人事業の場合と比較すると、より多くの選択肢の中から、対策を打つことが可能になるのです。
 つまり、個人への報酬と法人に残す利益を上手にコントロールすることで、長期的に世帯の可処分所得を増やすことに繋がり、リタイア資金や個人のQOLの充実に振り向ける分も多くなります。
 具体的には自身の役員報酬以外にも、ご家族に個人事業時よりも多く報酬の分散支給することにより世帯の可処分所得を増やしながら納税額を抑えたり、医療法人で死亡保障や介護・病気への備え、退職金の積み立てなど用途に合わせた保険を活用し、経費計上しながら保障を構築することで個人資産から支払う生命保険料を削減したり、より税金の安い退職金として受け取れるようにすることもできます。このように年次で個人と法人のお金をコントロールすることで、納税額を抑え長期的に資産が残る仕組みにしていくのです。
 よくデメリットで気にされている方が多いのはデメリット①の法人の残余財産の解散時の帰属先の限定、俗にいう「国や県に没収される」ことですが、先述のように法人に残す資金をきちんとコントロールし、リタイア時期に利益余剰金が退職金等や役員貸付金などの範囲内になるようにしていれば、例え後継者が不在で解散することになったとしても多額の資金を没収される心配は不要です。仮にご子息や親族などに継承されない場合でも、昨今は立地や利益率の良い医院であればM&Aや売却などが成約する事例も多く見られるようになってきています。私もそういったご相談も受けたことがありますが、適切な専門家と協議することで売却が成約した事例も経験しています。
 先ほどのメリット・デメリットの解説からみてもメリットの効果を大きくできるのは売上ではなく利益です。そして法人化はお金の面だけでなく患者さまやスタッフの方の信用にもつながり、集患や採用面においてもメリットが多いといわれています。私のようなライフプランを多く担当している立場から申し上げると、法人化することで長期的に人生設計をしやすくなるというメリットも見逃せません。実際に長期的なリタイアメント計画を上手に運用されている先生方には医療法人化をされている方が多い印象です。

まとめ

 医療法人化は開業医の方にとって、人生設計に非常に重要な影響を及ぼす検討課題です。
 そのような問題だからこそ、デメリットや手続きの煩雑さなどを理由に検討課題から外すのでなく、目先の医院経営の課題を解決していくため、将来の理想的な人生設計のために、積極的にシミュレーションや比較検討を行い、そのうえでご自身にとって取り入れるべきものかどうか判断されることを、開業医の方のコンサルティングを数多く行ってきた経験からお勧めしたいと思います。一度ぜひ検討してみてください!

■プロフィール
山下 晃司(やました こうじ)

シニアコンサルタント。500件以上の医師のコンサルティング実績を誇る。資産形成プランニング、ライフプランニング、財務改善、リタイア・相続プランニングなど医師の人生設計のワンストップ・プラットフォームサービスを手掛けている。

 

458件の開業医を成功に導いた成功事例集