お金の基本~医師の資産形成入門編~
2020.01.15
「貯金や保険、税金のことはよく分からない」では大損する!忙しい医師にこそ必要なのが「お金を賢く増やす」知識
年末年始は、年末進行や忘年会などの行事やイベントでお忙しい日々を送られていた方が多いのではないでしょうか。
この時期は出費も重なる時期で、同時に、個人の税金が特に気になる時期でもあります。私も多くの先生方から、年末調整や税理士からの指摘に頭を悩ませているというお話をお聞きしています。
そのような方に向けて、今回の開業医のミカタは、お金の基本~医師の資産形成入門編~として書いていきたいと思います。
高所得の医師でも資産形成は難易度が高いと言われる理由
医師は一般的に高収入です。厚生労働省が2017年に実施した「医療経済実態調査」によると、勤務医の平均年収は1,252万円、開業医は2,745万円となっています。日本人の平均年収は440万円程度、高収入とされる弁護士でも1,100万円程度と言われていますので、医師の方がいかに高所得なのかが分かります。
高所得であるが故に、私の経験上、医師の方にはお金に鷹揚な方も多いように思われます。それは専門領域の最新情報や最新技術の導入、経営についての知識やスキル獲得のために時間が必要なため、医業以外に時間を割くことが難しい状況にあることが原因と考えられます。その結果、医師の資産額は多くなく、500万円未満の世帯が全体の4分の1を占めているようです。さらに驚くことに、貯蓄がないという世帯は7%にも上ります(リクルートドクターズキャリア「医師のお金大アンケート」2015年より)
高所得者特有の2大支出に要注意!
これは医師の方が贅沢をしているということではなく、それらの要因の一つに税金の負担が大きいということが挙げられます。所得が2,000万円あっても、所得税、住民税、年金や健康保険などの社会保険料を差し引くと手元に残る、俗にいう可処分所得は1,300万円程度というケースも珍しくありません。
そして手元に残るお金を増やそうと時間を削って働く量を増やしても、累進課税制度によって思ったほど可処分所得は増えていかないのです。
これからも日本の税制は高額所得者には税金や社会保障費など更なる負担増が予想されます。実際に2018年度の税制改正では年収850万円以上の給与所得者の給与所得者控除が減額されました(2013~2015年は1,500万円超245万円、2016年は1,200万円超230万円、2017~2019年は1,000万円超220万円、2020年~850万円超195万円と上限額が段階的に下がってきているのです)。
大半の医師はこの上限を超えているため、2020年度の年末には、2015年と比較して、給与は同じでも20万円以上税負担が増えるケースも多く出てくるでしょう。こういった様々な制度や仕組みを理解し、予め対策を打っていないと、お金のために働くことから抜け出せず、医療で貢献したいというモチベーションが下がるなど、心理的な問題につながることも懸念されます。
また、不必要なほど多額の保険に加入されている方もたくさん見てきました。
例えば45歳の医師が、入院日額1万円の医療保険に加入した場合、保険料は月3,000~10,000円程度です(保険会社の商品により異なる)。仮に平均余命までの37年間7,000円の保険料を支払い続ければ合計で300万円以上の出費となります。大きな病気や怪我もなく人生を全うできること自体はすばらしいことなのですが、お金の面から言うといらなかった出費ということになります。
原則、一時的に収入が途絶えたとしても、治療に専念できるだけの蓄えがあれば加入する必要のない保険も数多く存在します。保険の営業の人に、「先生くらいであればこの位の保険に入っておくべきですよ」と言われるがままに保険に加入していると、後々保険に入りすぎだったと後悔することがあるかもしれません。
現代において資産形成の必要性が増している理由
頑張って手元に残したお金も、銀行に預金しているだけでは、この低金利が常態化した日本では一生増えません。それどころかAIやフィンテックなどの新しいテクノロジーの発展でこれまでの銀行業は危機にさらされています。メガバンクも続々と人員削減や経営改革を唱えていますし、地方銀行や信用金庫に至っては統廃合が金融庁からも推進されていて、2030年代には今の半分の銀行数になると言われています。
つまり、銀行に預けていること自体が非常なリスクになっていると言えます。もし銀行が破綻すれば預貯金は1,000万円とその利息しか保証されません。
更には2030年以降人口の大幅減少時代に突入する日本では、円そのものがインフレになるのではないかとの懸念も経済学者などから出ています。必死にためた円貯金がリタイアするころには2/3の価値になっているということも起こりうるわけです。ではどのようにしてこのようなお金の問題に対処していけばよいのでしょうか?
2014年に世界的に反響を呼んだ書籍「21世紀の資本」の著者トマ・ピケティは、著書の中でこう主張しています。「歴史的に見て近年は、人々の経済格差が拡大している」と。その原因をピケティは資本主義社会では資産運用による所得の伸びが、労働による収入の増加を上回るためと述べています。つまり、お金の問題に対処するには、労働による資産増加だけでなく、資本を資産運用によって増加させる取り組みも同時に必要であるということです。
しかし日本人は代々受け継がれてきた「貯金至上主義」と「バブル崩壊後の投資は危険」という考えから資産運用は近しい人との会話でもタブーにしてきました。
そういった結果が今日の日本人の金融リテラシーの低迷に繋がっています。しかし金融リテラシーとは投資に詳しいということではなく、本来はお金についての情報を正しく理解し、自身が主体となって判断できる能力を指します。
例えば金融庁では「家計管理」「生活設計」「金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」「外部の知見の適切な活用」の項目を、一般人が最低限身につけるべきスキルとして推奨しています。
これらのスキルを身につけ、金融リテラシーを向上させることが未来の安心かつ豊かな生活の実現につながるのではないかと私は思います。
今後は医療の世界でも診療報酬の引き下げや人材不足による職場崩壊など多くの問題に直面しています。確実にやってくる多難な時代を乗り切るために、医師の方も高収入である今のうちに資産を築いていく努力が必要になります。
まとめ
今回は資産形成入門編ということで誰もが考えていく必要のある基本的なお金の問題を取り上げました。人生100年時代や働き方改革、AIの進化など一般の方だけでなく、高所得者で社会インフラを担う貢献度の高い職業である医師だからこそ、理想や夢の実現などの幸福度の高い人生設計のために金融リテラシーを向上させる取り組みを始める必要があるのです。
- ■プロフィール
- 山下 晃司(やました こうじ)
シニアコンサルタント。500件以上の医師のコンサルティング実績を誇る。資産形成プランニング、ライフプランニング、財務改善、リタイア・相続プランニングなど医師の人生設計のワンストップ・プラットフォームサービスを手掛けている。