ヨーロッパ諸国が世界の覇者になれたのはただの環境要因だった!?
2021.03.10
逆境で人は強くなる!「銃・病原菌・鉄」が人類に対するエールを送る
この謎に迫る書籍がアメリカの生物学者、ジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄~1万3000年にわたる人類史の謎~」です。この書籍から、逆境にさらされると人類は強く進化するということを読み取ることができます。
著者のジャレド・ダイアモンド氏とは
著者のジャレド・ダイアモンド氏はアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授で、生物学や生理学の専門家です。
同氏の著書である「銃・病原菌・鉄~1万3000年にわたる人類史の謎~」は歴史を検証する書籍ではあるのですが、生物学的な視点から書かれた病原菌という部分が他とは異なるオリジナリティがあり、多くの人が読むきっかけとなりました。その内容には学説的には仮説の部分も含まれているのですが、ジャレド・ダイアモンド氏の専門分野である生物学的視点を入れた内容は説得力があります。
ヨーロッパの環境が世界への進出を進めた
ヨーロッパはEUを結成する前までは、アフリカやアメリカ、オーストラリアなど広い大陸に一つの国があるという状況とは少し違って、古代ではローマ帝国が多くの国を支配していたものの、各国が州のような独立国家の状態だったと言われています。結局は、ヨーロッパは太古の昔から小さな国の集まりだったと言うことができます。
こうした小さな国の集まりだったことと、ヨーロッパの環境が世界への進出を進めたと同著では語られています。
ヨーロッパでは早くから農耕が行われた
古代の人たちは狩猟を行って生活をしていました。狩猟を行うとその日に採れる獲物も不安定で、成果ゼロの時は疲れ切った状態でもう一度狩りに出かけなければなりません。
ヨーロッパでは、たまたま農業に適した小麦などが自然に群生していたことで農業を行うことができるようになりました。
小麦の良いところは魚や肉と比べて長期保存が可能であることです。さらに作付面積から、およその収穫量の予測も行えます。それでも天候不良で不作などもありましたが、狩猟とは比較にならないぐらいの進化です。そのため、狩猟を行っていた時よりも、先を見通すことができ余裕のある生活を行うことができるようになりました。
さらに、ヨーロッパの国々はほぼ同じ緯度に位置していたため、気候が同じ国が多くありました。例えばドイツとフランスは横並びになっているため、農作物が同じものを作ることができ、その農業技術を応用し転用することができたのです。これによって、ヨーロッパ諸国で競い合うように農業技術を高めていき、農業が発達したと考えられています。
家畜化できる動物が偶然身近にいた
農業の際と同じなのですが、豚や牛などの家畜化するのに適した動物がたまたま近くにいたというのも大きな要因と考えられています。
さらに、国土が小さく、川や山が多いため、広い牧草地に家畜を放牧するのではなく、家の近くに家畜と一緒に生活していたと言うことも世界を制覇するのに必要不可欠だったと語られています。
家畜は人間とは異なる動物なのですが、同じ哺乳類です。ヒトが持ってない病原菌を家畜が持っているということもあります。天然痘やペストなどが代表的な動物由来のウイルスなのですが、ヨーロッパでは国土が狭いため、家畜と近くでの生活を行うことで動物由来の流行病が何度も起こりました。ウイルス性の病気に感染すると人の体内には免疫ができるのですが、ジャレド・ダイアモンド氏は早くから家畜と生活していたヨーロッパ人のウイルスに対する免疫が世界制覇に重要な役割をもたらしたと語っています。
食糧事情が安定したことで技術革新が進んだ
農業や動物を飼うことで、ヨーロッパでは食糧事情が安定します。そうなると、食べることに必死だった狩猟の時代とは全く異なった生活を送ることになります。暇ができたことで、様々な学問が発達し、技術分野では鉄の製造方法などの開発も始まります。
また、ヨーロッパでは小さな国が多く隣り合っていたことにより、争いも絶えない状態が続き、銃などの戦争に使われるような道具も発達していきます。
他の地域と比較すると、同時期のアフリカではまだ狩猟が行われ、アメリカでも先住民が狩猟の生活を送っていました。
アメリカ大陸にヨーロッパ人が上陸した際にウイルスも持ち込んだ!?
ヨーロッパ人たちが狭い国土から広い新大陸を求めて、次々と航海を始めた大航海時代に、コロンブスがアメリカ大陸を発見します。
ヨーロッパ人はアメリカ大陸に進出をしていきますが、この時にジャレド・ダイアモンド氏は重要な仮説を提唱します。
アメリカの先住民がヨーロッパ人との戦いで命を落とした人よりも、疫病で命を落とした人の方が多く、戦いよりも疫病で劣勢に立った先住民がヨーロッパ人に支配されていったという説です。
当時の明確な統計データはないため、これはあくまでも仮説なのですが、船で上陸したヨーロッパ人たちが家畜も一緒に連れていったことで、もともと免疫のあるヨーロッパ人が先住民と交流することで、天然痘などの流行り病が先住民に感染していったということも十分考えられます。
ヨーロッパ人がアメリカ大陸に上陸した際には、戦いでは先住民の方が人数も多く、有利であったことは間違いありません。しかし、ある意味家畜という生物兵器を持ってきたことで、数では劣勢のヨーロッパ人が偶然戦いに勝てたことも十分に考えられます。
アメリカ大陸をヨーロッパ人が支配できたのには、武力による効果よりもこうした免疫力による病気への耐性も主要要因だった可能性が考えられるのです。
ヨーロッパ人が世界を制覇できたのは環境要因による偶然!?
よくヨーロッパ人などの白人の方が遺伝子的に優れているから、世界の覇権を取ることができたと言われることがありますが、ジャレド・ダイアモンド氏は同著でこの説を完全に否定しています。
環境的に恵まれていて、狭い国土であったために切磋琢磨した結果、世界でも通用する力を手に入れただけに過ぎないと言っているのです。
仮にアフリカが同じ環境であったらアフリカが世界で覇権を取っていた可能性もあるのです。
逆境で人は強くなる! 「銃・病原菌・鉄」が人類に対するエールを送る
ヨーロッパ人は、恵まれたものが少ない環境下で、活用できるものに気が付き、それを高めることで世界の覇権を取れるほどに強くなりました。
これは、一朝一夕にできることではありませんが、他の人たちが現状に甘んじている時に先進的なことを行うことで、他の追従を許さないほどの力を手に入れることができます。
昨今、新型コロナウイルスによる影響が大きく出てきていますが、これを逆境ととらえることができれば、それを乗り越えた時に明るい未来が待っていると言うことができるのではないでしょうか。