なぜ日本ではキャッシュレス文化が定着しないのか?
2018.11.12
日本のキャッシュレス化の現状と課題
最近は、電子マネー・デビットカード・クレジットカードを初め、LINE payやApple payなどの決済手段が登場し、コンビニなどでも電子マネー専用のレジなど見かけるようになりました。
これらは現金を使わずに、カードやQRコードを使って支払いができるため「キャッシュレス決済」とも呼ばれています。
海外では、このようなキャッシュレス文化は広く普及しています。しかし、それに対し日本は圧倒的に現金払いの人が多いのが現状です。海外と日本でなぜこのような差が出ているのでしょうか?そもそも、なぜ現金を使わない決済方法が増えているのでしょうか?
■キャッシュレス文化とは?
キャッシュレス文化とは、共通に認識されている定義は存在していませんでした。
そのため、経済産業省はキャッシュレスについて「物理的な現金(紙幣・硬化)を使用しなくても活動できる状態」と、2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」に明記しています。
参考:経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」
http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-1.pdf
つまり、現金を使わなくても商品の売買など経済的活動を行うことができる状態であり、その形式はカード・スマホなどに限定されていないということになります。
その1つである「LINE Pay」が今年の8月から3年間決済手数料を無料化することを発表しました。LINE Payの店舗用アプリで簡単に決済を行え、店舗側の初期費用もかからず気軽に使用することができるようになったのです。それもあってスマートフォンでできる決済方法も徐々に拡大しつつあります。とはいえ、世界的に見るとキャッシュレス決済の比率はかなり低いのが現状です。
■キャッシュレス文化が普及するメリット
キャッシュレス文化が普及することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
①現金のハンドリングコストの削減
国が現金を作製・保管・流通させるにはかなりの費用がかかります。これは、企業においても言えることです。
現金であれば釣り銭を用意し、売上金の管理やATMの使用などの手間も発生しています。
銀行が設置しているATMは全国でおおよそ20万台が設置されていて、それらを運営するために年間約2兆円もの経費がかかっているようです。(2017年12月 日本日経新聞より)
それをキャッシュレス化することで、今までかかっていたコストを削減でき国民や企業に取って必要な部分に資金を回すことが可能です。
②決済の記録がデータ化される
キャッシュレス化では、決済の時にどこで・何を・いくら使ったかという情報を詳しく記録でき、年齢や性別ごとの消費行動パターンが統計化しやすいというメリットがあります。そのため企業は商品戦略や客のニーズを明確化し、売り上げにつながると考えられています。国としても、日本の経済成長を望んでいるためこの「ビックデータ」を有効的に活用したい意向があるようです。
ビックデータによって消費者の行動が丸わかりになるため、個人情報の保護なども今後の課題としてあがっています。
③外国人観光客増加への対応
日本の外国人観光客は近年増加傾向にあり、2018年上半期で前年度よりも15.6%多い約1589万人と過去最高を更新しています。この背景には、 LCCの東アジア方面への増便などがあります。
最近は、主要都市だけでなく地方も中国・韓国人観光客が多くなり、それぞれの地域の文化や生活を体験に来ているようです。また、2020年に開催されるオリンピック・パラリンピックでは世界各国から多くの外国人の訪日が予想されています。
海外では、キャッシュレス化がかなり進んでいて、現金を使わない人もいるため、キャッシュレス決済が出来ないと購買意欲が減少し大きな損失が発生する可能性があります。それを防ぐために、国はキャッシュレス化を進めインバウンド消費(外国人観光客による消費活動)の増加を狙っているのです。
2016年の「日本再興戦略」では2020年に向けてキャッシュレス化を推進することを明記し、さらに2017年に「未来投資戦略 2017」においてカード決済のコスト削減・Fin Techの活用・2027年を目標にキャッシュレス決済比率を4割程度とすることを宣言しています。このことからも、日本政府のかなり早急な対応が求められていることがわかります。
④犯罪抑制
テロ組織の犯罪行為はニュースでも良く見かけます。テロ組織の運営費用や武器の購入費用は、高額紙幣使われていることが多いため、テロ対策として紙幣の製造を廃止し地下経済への資金流入を防ぎたい考えがあります。
■なぜ日本ではキャッシュレス文化の普及が遅れているのか?
引用:経済産業省「キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識」
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoryu/credit_carddata/pdf/009_03_00.pdf
2016年の経済産業省の調査によると、日本のキャッシュレス比率は19.8%で、最も比率の高い韓国をはじめとする他の先進国と比較し、かなり低い水準にあります。
日本は世界的にも非常に治安が良いことはご存知だと思います。現金を持っていても強盗にあったり、ATMから偽札が出てきたり、ということもほとんどないため、現金に対する信頼が高い国であることも、現金への信頼が低い海外とは違い、キャッシュレス化の必要性をそこまで感じていないことが、普及が進まない理由に挙げられます。
また、全国各地で相次いで起こっている豪雨や地震による自然災害も理由の一つとして考えられています。電気を使えないため、現金が手元にないと困ったという方が多く、自然災害が起こっても、現金は必要のない状態を作らなければ完全にキャッシュレス化は難しいと言えます。
そして、普及遅延の要因の一つとして「キャッシュレス決済の手段が多すぎる」ことも挙げられます。日本には、クレジットカード・電子マネーなども数多く存在しているため、おそらく皆様の財布にも数種類のカードが入っていることでしょう。
それら全てに対応しようとすると、企業や店舗側は複数種類の決済端末を用意しなくてはなりません。端末を導入するにもコストが掛かりますので、企業側もすんなりとキャッシュレス化に踏み切れない状況です。
■普及への取り組み
キャッシュレスを普及させるために、政府や企業はどのようなことに取り組めばいいのか考えてみましょう。
まずは、日本にキャッシュレス決済方法が溢れているが、どの媒体でも決済できるように統一化していく必要があります。決済方法を全て集約し1つにすることは難しいですが、あらゆる決済方法に対応した端末があれば店舗側も様々な種類の端末を導入せずに済み、各企業や店舗の端末導入コストを抑えられるように検討することも普及につながるのです。
2019年10月に消費税が10%に増税すると発表されましたが、その際、キャッシュレス決済を行うことで2%分をポイントで還元という対応を検討しているようです。この背景には、キャッシュレス決済をする人を優遇することで利用者を増やしたい考えがあります。ただし、店舗側には手数料や・導入費用・スタッフの業務増加などの懸念もあるため、どう折り合いをつけるかが今後の鍵にもなりそうです。
また、先にもあげましたが個人情報を取り扱うことになりますので、情報の保護の強化を図ることも必要になってきます。
いかがでしたでしょうか。目前に迫った東京オリンピック・パラリンピックに向けて、政府も本腰を入れて取り組み始めています。
現金主義の日本がキャッシュレス化の波に乗り、キャッシュレスが当たり前の時代になる日も遠くないかもしれません。