開業医のミカタ

法人設立前に押さえておきたい 4つのステップ

2019.03.12

勤務医でもできる節税

~なぜ勤務医の節税には法人設立が良いと言われているのか?~
近年、勤務医の方から「節税」に関するご相談を受けることが多くなりました。特に多いのが、「法人をつくると節税できると聞いたんですが…」といったご相談です。確かに、法人を上手に活用して、節税に成功されている勤務医の方はいらっしゃいますが、これは万人に向く方法ではありません。今回は、勤務医が法人を活用して、税金をコントロールできるようになるまでの理想的な4つのステップをご紹介します。

勤務先からの給料をコンサルティング料、講師料の名目で受け取るための法人設立を検討しています。どのように考えていけばよいのでしょうか?

 大前提として、医師の派遣や、医療行為の対価としての報酬を一般法人で受け取ることは労働者派遣法で禁じられています。給与の半分を法人にそのまま移すことを検討されているといったお話もお聞きしますが、銀行の口座はマイナンバーで国税に監視されていて、今までの給与所得が減り法人の収入が増えているとなると税務調査が入る可能性もあるため、あまりお勧めできる手法ではありません。また、美容外科や矯正歯科、麻酔科など一部の診療科や、執筆や講演など実際に医療行為以外からの収入が多い方を除くと一般法人を活用した節税スキームを認めない医療法人の方が圧倒的に多いのが現状です。そのため、考えるべき順番を無視して法人を設立したがために、配偶者に所得分散しようと法人を作ったものの、勤務先の了承が得られず、法人運営費だけが発生し続けているといった失敗事例を耳にすることもよくあります。そうならないためには、医療行為以外で法人が収益を上げられる仕組みが必須となります。

step1 公的制度を活用する

□確定拠出年金 □医療費控除
□住宅ローン控除 □ふるさと納税   など
 一度は聞かれたことのあるものばかりかと思いますが、これらの公的な制度を活用する方法は比較的リスクを低く抑えながら、効率的に節税していくことを可能とします。どれも一度検討されてみる価値のあるものです。このstep①で税金対策が完了する方も少なくありませんので、まず始めに検討しましょう。

step2 退職金で受け取る

退職金は退職所得(分離課税)となり、給与所得(総合課税)と比べて節税することができます。
例えば、年収2000万円、勤続20年の方が退職金で受け取る場合と給与で受け取る場合を比較すると、

上記のように、退職金で受け取ることで500万円以上の節税になることがわかります。

step3 事業所得として受け取る

 給与所得者の場合、給与を受け取る時には、既に税金や社会保険料が差し引かれていることがほとんどかと思いますが、事業を営むことによって、その事業に必要なものであれば、税金を支払う前に経費として計上し、課税所得を圧縮することが可能になります。
 冒頭でお伝えしたように、医療行為の対価を法人で受け取ることはできませんが、事業からの利益は法人で受け取ることが可能です。その方法の一例として、太陽光発電事業、レンタルコンテナ事業、コインランドリー事業などが挙げられます(飲食業などでも可能ですが、忙しい医師の方々が営むには、比較的手間が掛かり、投資回収のリスクも高いため、節税目的の事業には向きにくいと考えられます)。
 このような事業の場合、創業当初は設備投資による減価償却の計上などにより、帳簿上の赤字を計上することができます。事業による赤字は、給与所得と損益通算ができ、課税所得を下げることが可能になるのです。
 ただし、設備の減価償却費は年々減少し、数年後に帳簿上で黒字化した場合には給与所得と合算され、逆に増税してしまいますが、黒字化した事業収入の税率は法人の実効税率(約33%)が適応されるため、個人の税率よりは低くなります(課税所得900万円超の方に限る)。
 このように、事業所得があることで、法人を有利に運営していきやすくなりますので、是非検討して頂きたいところです。

step4 所得を分散する

 個人事業の収益を法人で受け取ることによって、給与収入ではできなかった所得分散も可能となります。ご家族へ所得を分散することで、課税所得を平準化して節税することができ、世帯の可処分所得を上げることにつながります。
 個人事業主でも青色申告の届出をすることでご家族に専従者給与として所得分散することは可能ですが、法人を活用した方が、別で所得のあるご家族にも給与を支払うことが可能になるなど、より効率的に所得分散を行えるようになります。(法人保険を活用した節税スキームに関しましては、2019年2月末現在、保険業界に激震が走った今月14日の国税庁の通達以降、未確定要素が多いため割愛させて頂きます)。

まとめ

 法人設立の失敗事例をお聞きしていると、短期的な目線で節税を考えてしまっていたことが原因となっていることがよくあります。正直、単年で大きく税金が減ったように見せることは簡単です。しかし見誤ってはいけないのが、節税の先にある設立目的です。弊社で一般法人の設立をサポートした方の中には、「後進のための教育機関」や、「奥様の夢であったカフェ」、「待機児童問題に悩む地域のための保育園」等々、様々な節税以外の目的を持って法人を活用されている方が多くいらっしゃいます。
 法人設立を考えられる際には、『法人を活用して何がしたいのか?』を併せて考え、目的を達成するのにベストだと思われる方法を選んでいただければと思います。
 本記事が、皆様が新しい一歩を踏み出すきっかけとなれれば幸いです。

■プロフィール
吉田 奈央(よしだなお)

31歳 兵庫県出身
[ ●2級ファイナンシャルプランニング技能士 ●宅地建物取引士]
大学卒業後、某地方銀行に5年勤務した後、2014年インベストメントパートナーズ入社。星の数ほどある金融商品の中から、将来ビジョンの実現のために必要なものが選択できる「資産形成の検討環境」を提供したいという想いを持って仕事をしています。

 

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