話題のティール型組織で成功する医療・福祉チームとは?
2019.10.18
おすすめの書籍『ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現~』
「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現~」はマッキンゼーで10年以上も組織変革コンサルタントとして活躍したフレデリック・ラルー氏が執筆した全く新しい組織論に関する書籍です。ティール組織を構成する要素は「自主経営(セルフマネジメント)」「全体性(ホールネス)」「存在目的」の3つに大きく分けられますが、その全てを兼ね備える組織が実在するわけではありません。だからと言って、頭の中の理想の組織をただ記述した書籍ということでもありません。
ティール型組織の要素の一部を持っている企業の事例を多く紹介し、そういった組織が大きな成果をあげていることに着目し、ティールという新しい組織感を提示しているのがこの書籍なのです。
医療・福祉分野にもティールの要素を持った組織がある
「ビュートゾルフ」が挙げられています。ビュートゾルフは、従業員数7万人の非営利組織で、2006年創業と歴史は浅いながらも、現在はオランダ最大の地域看護師の組織として高齢者・病人の在宅ケアサービスを提供しています。
ビュートゾルフでは看護師10名程度が1チームとなり、担当地域に住む50名の患者を担当します。驚くべきことにケアサービスの提供だけでなく、プランの作成、自分たちの勤怠管理、現地病院との連携方針まで全てこのチーム単位で意思決定を行なっているそうです。このように、上司も階層も無い組織でケアサービスがきちんと提供できるということは医療・福祉分野の方ならなおのこと驚かれるのではないでしょうか。
上司がいなくても意思決定できる看護師のチーム
上司がいなくても、それぞれのチームが自主経営(セルフマネジメント)をし、適切にサービスを提供するためにはいくつかのチーム運営上の「コツ」があります。
コツ①教育訓練
看護師のメンバーは全員チームで意思決定するためのスキルとテクニックを学ぶ研修を必須で受講するそうです。ミーティング時のファシリテーションのやり方や他人の意見をきちんと聞くことなどを学ぶそうです。事業会社の社員でも、なかなかそのようなミーティングのノウハウを学ぶことはありません。こういった見落としがちですが大切な部分を全員が学んでいることで、建設的なミーティングによって意思決定が進むと考えられています。
コツ②指導
地域マネージャーのような中間管理職はおらず、その代わりコーチという職があるそうです。コーチは言葉の通りコーチングを行う役割であり、売上目標やその責任を負ったりすることもありません。チームに対して考えるヒント等を与える役割に徹する相談役のような存在とのことです。
コツ③ツール
イントラネットが準備されており、そこでは全員が情報を検索したり発信したりすることができるようになっています。例えば、成績の悪いチームがあればそのチームは他の成績の良いチームに助けを求めて、ベストプラクティスを学びます。また他のチームの専門性の高い看護師に相談することもできます。このように、全員で情報共有するツールを活用してチーム同士の助け合いを促進させることで、上司がいなくても組織として成り立っているのです。
自主経営のポイントは助言プロセス
例えば一般的な組織の意思決定は、階層的な組織に基づいて上位者の判断で行われるか、全員の意見の一致を図るコンセンサス方式で行われてきました。一方で正式な階層が無いティール組織では助言プロセスによって意思決定を行います。助言プロセスとは基本的に組織内の誰がどんな決定を下してもかまわない。しかし、その前にすべての関係者とその問題の専門家に助言を求めなければならないというものです。
「ビュートゾルフ」の例でもこの助言プロセスと同じようなメカニズムが機能しています。チーム内で相談しても解決できない問題等はイントラネットでその分野に詳しい他の看護師に相談し決めていくのです。
開業医と看護師チーム
医師としてだけではなく、経営者としても判断を求められることが多いのが開業医です。問題が次から次へと看護師達から投げかけられているといった悩みをお持ちの先生方も多いのではないでしょうか。
そのような問題も、今回中心的にご説明してきた自主経営ができるチームを作っていくことで解決することが可能です。
まずは、院長先生が自ら行なっている医師でなくてもできる仕事を棚卸しし、それを看護師や受付スタッフ全員と共有し、各人が何を担当するかも自分たちで決めてもらう仕組みをつくりましょう。そして、担当する仕事だけではなく、シフトなども自分たちで決めてもらうようにしていきます。
しかし、これまで院長先生が担当されていた経営に関する事柄を、いきなり現場に投げると困惑してしまう可能性がありますので、まずはビュートゾルフの事例でもあったようにミーティング時のファシリテーションの方法など、経営に関わる研修を全員で受け、スタッフ一人ひとりが主体的に医院経営に関われるようにしていくことをお勧めします。その上で、助言プロセスをチームに実装させていく努力をします。例えば経理について難しいことがあれば顧問税理士に聞くという風にチームが直接調べたり、直接専門家から説明を受けたりできる状況を作っていくのです。
まとめ
先述のとおり、完全なティール組織は存在していないため、より良いチーム医療のために少しでも取り入れられそうなところは取り入れていき、ティール組織の要素を持ったチームにしていくという発想が大切です。
人々をその気にさせて実力以上の能力を引き出し、自分だけではできなかったはずの結果を成し遂げさせてしまうことこそが組織の真髄だと著者は言います。皆様の手間や心配事が減る状態がつくるため、今回ご紹介した手法を医院経営に取り入れてみてはいかがでしょうか。