マネジメント

病院経営視線で読み解く~Think CIVILITY「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である~

2020.08.10

費用負担ゼロ!最新研究が導き出す好循環経営への戦略とは?

ジョージタウン大学准教授クリスティーン・ポラス氏によって書かれた本書は、礼儀正しさと無礼の功罪を多数の実験によって実証した内容です。
礼節ある言動を「心から相手を尊重し、相手を丁寧に扱う言動」と定義し、礼節ある言動を受けた人は他者に対しても同様に自然と礼儀正しい行動ができる点を強調しています。また、無礼な言動が引き起こす様々な悪影響も客観的な実験結果として紹介しています。
今回は、「Think CIVILITY「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である」の中から、組織で取り組むことのメリットや、その方法などを紹介します。

礼節が組織にもたらすメリット

研究の結果、礼節は企業にもメリットをもたらすことが分かりました。本書では米国の大手小売り「コストコ」の事例が紹介されています。
コストコの創業者ジェームズ・シナガル氏は頻繁に店舗に行き、感謝の気持ちを伝える為に頻繁に従業員に挨拶をしたそうです。加えて、同業他社のウォルマートと比較して65%も高い時給を支払い、賃金面でも従業員の努力に報いる姿勢を示したのです。一般的に高い人件費は利益を圧迫する要因です。しかし、コストコの従業員は同業他社比2倍もの金額の売り上げを立てました。十分人件費を上回る売り上げです。加えて離職率を低く抑えることにも成功しました。離職率が低いと、求人、面接、トレーニングなどの採用コストも僅かで済みます。これは年間数億ドルものコスト削減と同じ意味を持ちます。
このような一連の取り組みの成果は株価にも現れましたコストコの株価は2003年から2013年の間に200%の上昇したのに対し、ウォルマートは50%の上昇にとどまったそうです。
コストコの事例では、礼節は単なる「マナー」や「お行儀」の枠で語られるテーマではなく、「企業業績」という客観的な数値に好影響を与えることが証明されました。本書での記載はありませんでしたが、低い離職率は「高い時給」だけがもたらしたのではなく、挨拶が交わされる健全な職場環境故、従業員自身が「ここで働き続けたい」という選択を積極的にしたことも大きな要因の一つと推察されます。創業者の従業員への姿勢が「高業績」「従業員への安心感醸造」、「株価上昇」を達成させたのです。

無礼がもたらす悪い事例

本書では新生児ICUに勤務する医療チームが治療品質向上を目的とした研修に招かれたという設定での実験の様子が報告されています。チームを半分に分け、双方のチームに「治療の専門家(実は本調査の研究者)」を一人ずつ配置します。片方の「専門家」は時々感想を述べ、助言を行ったのに対し、もう片方の「専門家」はチームメンバーの仕事ぶりがいかに酷いものであるか、国の医療水準の低さの象徴であるといった発言をしました。その結果、「専門家」から屈辱的な発言を受けたチームは診断が適切でないことが増え、治療行為も不正確でミスが多い結果になったそうです。
クリスティーン・ポラス氏は上記と同種の実験を4,500名の医師、看護師を対象行い、同様の結果が出たとしています。その理由として、仕事ぶりに対してネガティブな言葉を投げかけられたチームでは、他のメンバーに手助けを求めず、できるだけ自分の力だけで仕事をこなそうとし始める点にあるのではないでしょうか。加えて、ミスをしても誰にも話さなくなり、問題発生の可能性に気づいても指摘しなくなるとも記されています。
治療品質向上の衣を借りた「実験」であれば、大きな問題にはならないかもしれませんが、実際の医療現場でこうした事例が発生する事態は厳に避けなければなりません。

礼節ある組織になる為の4つのステップ

では、どのような取組をすれば礼節ある組織になるのでしょうか?本書では4つのステップとして以下を挙げています。

《ステップ1: 無礼な人を採用しない》

面接の際には、過去実際におきた出来事にその人がどのように対応したのかを尋ね、その対応法が組織の価値観にフィットしているかを確認することが効果的です。この確認の為の質問を複数事前に用いて、他の候補者にも同じ質問を同じ順序で質問して採用すると、入社後の仕事ぶりがかなり正確に予想できるそうです。質問は次のようなものが考えられます。
「あなたがカッとなるのはどういう時ですか?また、最近どういうことでカッとなりましたか?」
「仕事上でストレスをかけた時、葛藤がある時はどのように対応しますか?」
アマゾンのジェフ・ベゾスはこのようにコメントしています。「誤った人間を雇うくらいなら、50人面接して一人も雇わない方がいい」。人材は「人財」。妥協を許さずセレクトすることが、礼節ある組織へのファーストステップとなるのです。

《ステップ2: コーチングを採用する》

これは、専門のコーチを雇ったり、新しい外部講師の研修を受講するなどに限定しているわけではありません。むしろ、本書では従業員がみずからガイドラインを策定した事例や、「部屋に入る時は、あとから入る人の為にドアを押さえて閉まらないようにする。開けたドアから今週中に少なくとも5人は入ってもらう」などと指令の書かれたカードをゲームのように取り入れ、楽しみながら職場の礼節を高めたNASAの事例などが印象的に描かれています。「自律」と互いに「取組具合が確認できること」「適切なフィードバック」がステップ2で示す「コーチング」の主旨です。

《ステップ3: 人事評価システムを改善する》

所謂360度評価を拡充することによって、目立たないけれど陰で頑張る人に報いる評価システム、同僚を助ける人を評価するシステムを目指していきます。

《ステップ4: 無礼なメンバーへの対応を行う》

侮辱的な言動が目立つが有能な人物の対応として、改善の見込みがある人物であれば、他社と交わらないように仕事場を隔離し、その後改善のプログラムを進めていくことが考えられます。しかし、手を尽くしたものの、改善がみられない場合は毅然と、しかし丁寧に解雇することを推奨しています。前述の事例で紹介したように、無礼な言動のメンバーは好ましくない結果がもたらされる可能性が高まるからです。また、他のメンバーに対する心理的な職場環境悪化や、それに対するパフォーマンス低下につながるためです。

これらに共通するのは、リーダーしか行えない、もしくは、リーダーが率先して行うことが最も効率的である点です。医療行為とマネジメントという二つの高難易度の業務をこなすことが求められることになりますが、コストコの事例でみたように、業績、労働環境両面での好結果が見込まれるため、着手すべき価値が高い取組と言えるでしょう。

メンバーが楽しみながら礼儀正しい所作を実践した病院での取り組み

リーダーではなく、メンバーが主役となって展開された良い事例もあります。
ルイジアナの大病院で展開された「10/5ウェイ」というガイドラインです。これは、誰かと10フィート(約3メートル)以内に近づいたら、目を合わせ微笑みかけ、5フィート(約1.5メートル)以内に近づいたら「こんにちは」と声をかけるガイドラインです。従業員だけでなく、患者の満足度も上がり、推薦を受けて来院する患者数が増加したそうです。簡単なガイドラインですが、病院経営の向上に明らかに効果のあった取組です。

まとめ

今回は、「他者を見下した言動、侮辱した言動」が医療ミスの誘因となった事例がある一方で、「礼節ある言動」は患者様の満足度向上はもちろんのこと、スタッフ労働環境の良化、定着率向上などメリット多いことを説明いたしました。これらの取組はモノ相手が多い工場より、「人」相手が中心の職場の方がより効力を発揮することは明らかです。病院は、患者様、医師、看護師など多くの「人」で成り立っています。一人の礼節ある行動は、受けた人の心を解き、受けた人の礼節ある行動を呼び起こします。
コロナウィルス感染拡大下において医療関係者は「エッセンシャルワーカー」と敬意をこめて呼ばれるようになりました。従来以上に皆さんの影響力が高まっている時期であるといえるでしょう。経営業績の向上を図りたい、従業員定着度を高めたい、そのように希望される方は、「礼節」の連鎖をあなたからスタートさせてみてはいかがでしょうか。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
458件の開業医を成功に導いた成功事例集