MANAGEMENT

脳の抵抗に打ち勝って新しい行動を身に付ける~千里の道も一歩から~

2018.09.19

スティーブン・ガイズに学ぶ“小さな習慣”

「三日坊主」という言葉があるように、新しいことを始めようとしたときにすぐに挫折してしまった経験は誰にでもあるでしょう。それは医院経営においても例外ではなく、新しい仕事や計画に尻込みをしてしまったり、習慣化する前に頓挫してしまったりといった苦い経験をお持ちの方も多いかもしれません。その原因を単に意志の力の欠如だと大多数が考えているようですが、実は新しい習慣が身に付くまでには、もう少し複雑なメカニズムがあります。今回はそのメカニズムとそれを克服する方法についてご紹介します。

千里の道も一歩から

スティーヴン・ガイズ氏は2004年より自己成長ストラテジーの調査と執筆を行っています。2011年に立ち上げたブログが翌年、自己啓発ブログの第1位に選ばれ、2013年には『Mini Habits:Smaller Habits,Bigger Results』を出版、2017年に『小さな習慣』というタイトルで日本語版が刊行されました。

この本で述べられている理論は象牙の塔から生まれたものではなく、彼自身の実体験から導き出されたものだけに説得力があります。彼は高校時代の終わりから運動を習慣にしようと努力してきましたが、10年経ってもそれは身に付かなかったと回想しています。しかし、ある年の暮れ、腕立て伏せを1回だけやることを考えつき、馬鹿げていると思いながらも実行していたものが、30分の筋トレに発展し、最終的にはスポーツジムに通う習慣になったと述懐しています(彼はそれを“黄金の腕立て伏せ”と名付けています)。また運動だけでなく、文章の読み書きや食事にまで習慣を定着させることに成功したのです。

自分を変える習慣がうまく身に付くと、ほかの分野にも応用でき、生活や人生がどんどん良い方向に向かっていきます。老子は「千里の道も一歩から」という言葉を遺しましたが、その一歩を確実に踏み出すための方法が“小さな習慣”なのです。

三日坊主のメカニズムと対処法

脳の二つの主要部分について理解をしておくと、新しい習慣を築くのがかなり楽になると彼は述べています。この書籍の中で彼は、どんな人であっても人間の脳には間抜けな部分と賢い部分があり、間抜けな部分のことを「大脳基底核」、賢い部分のことを「前頭前野」と呼んでいます(実際には脳の働きはもっと複雑ですが、習慣が定着するメカニズムを説明するためにはこれで十分なのだそうです)。大脳基底核は特定のパターンを認識し、別の指示を与えない限りそれを繰り返します。一方、前頭前野は意識の領域をつかさどる“脳の司令塔”です。行動の結果や長期的な利益を理解することができ、大脳基底核を抑え込む力を持っています。一般的な概念でいえば、大脳基底核は潜在意識、前頭前野は顕在意識といえるでしょう。

前頭前野は重要な仕事をすることが多く、エネルギーを早く消耗します。その代わりに同じことを自動的に繰り返し、エネルギーを効率的に使うのが得意な大脳基底核が主導権を得てしまいます。そうなると、残念なことに、その間抜けな部分が脳の中で最も大きな力を持って、脳全体を支配している時間が長くなってしまい、古い習慣がしゃしゃり出てきてしまうというわけです。

彼は「新しい行動を取り入れようとするのは、トレーニングなしで重量挙げの大会に出場するようなもの」とたとえています。経験も実力も勝る大勢のライバルたちとの競争になるからです。このことを意識している人は少ないようで、ほとんどの人は同じ過ちを犯してしまいます。生活にすでにすっかり根付いている習慣に対して、新しい行動を真正面から挑ませようとしてしまうのです。結果は火を見るよりも明らかでしょう。これが三日坊主に終わる意識内のメカニズムです。

「人は常に自分の自己管理能力を過大評価している」と彼は書いていますが、裏を返せば、脳の間抜けな部分の力を過小評価しているといえるでしょう。このことに気づくと、新しい行動が三日坊主に終わる確率をかなり下げることができます。

習慣の定着を「やりたくない」と抵抗する力と「やり遂げよう」とする意志の力との相克と彼は考えています。脳の抵抗にあらがって新しい習慣を定着させるには、同じ行動を何度も繰り返し、特定の行動をつかさどる脳の神経回路を強化することであると結論付けています。その具体的な方法が「小さな習慣」を毎日続けるということです。たとえば、ジョギングを習慣にしたいなら毎日1メートル走る。本を出版したいなら毎日1行書く。部屋を片付けたいなら毎日不用なものをひとつ捨てるといったように、失敗が有り得ないと思えるレベルまで行動を小さくするのです。

黄金の一歩

彼の理論は、「行動によってやる気が生まれる」という心理学の「作業興奮の原理」やライフハック(仕事術)などでよく紹介される「細分化技法」と本質的には同じであり、特に目新しいわけではありません。しかし彼の考え方の優れているところは脳の抵抗に打ち勝つために、常識では考えられないくらいに行動を極小化したことです。これはコロンブスの卵といえるでしょう。勿論、腕立て伏せを1回したくらいで筋骨隆隆の体になるわけではありません。ただ達成できない目標を設定して消化不良におちいり、自己否定にさいなまれるよりも、たとえ小さな目標であってもそれを達成することで次の達成につながり、自己肯定感が強まっていきます。このサイクルをどんどん回すことにより、最初の一歩は小さな習慣で終わることはなく、やがては大きな習慣に育っていくでしょう。

彼の原著のサブタイトルを直訳すると、「より小さな習慣が、より大きな結果に」となりますが、ここにこそ“小さな習慣”のエッセンスが凝縮されています。良い習慣がなかなか身に付かないときや、やらないといけないのはわかっているが、なかなか着手できないことがあるときには、彼の理論やアイデアを参考にして、小さな一歩を踏み出してみてください。それは“黄金の一歩”となるでしょう。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部