マネジメント

「従業員は家族である!」という信念が生みだした信頼関係

2018.08.08

出光佐三に学ぶ経営論

映画や小説で有名な出光佐三氏は、出光興産の創業者として有名で、戦前と戦後の混乱と動乱の中を逞しく生き抜き、出光興産を、日本を代表する企業に育て上げた人物で、その経営手法にから学べることは少なくありません。
今回は、彼の「社員は家族である」という言葉から生まれた社員との信頼関係を、医院経営に当てはめて経営のヒントを見ていきましょう。

出光佐三氏の名言に「従業員は家族。家計が苦しいからと言って家族を追い出すのか」というものがあります。これは、太平洋戦争が終結して間もないころに、戦争で失った出光興産海外部門の社員をリストラしようとした経営陣に対して出光佐三氏が放った言葉です。

そして出光佐三氏は本当に1人の社員もリストラしなかったといいます。これは、戦後の混乱期にリストラしなかったという単なる美談ではなく、経営という観点から見たときに学ぶべきヒントとなります。

信頼関係があるからこそ成功した過酷な作業とは

出光佐三氏は、「従業員は家族だから」とリストラをしなかったわけですが、それは単に「甘かったから」ではありません。

1人の社員もリストラをせずに会社を維持するために出光佐三氏は、今まで全く携わっていなかったラジオの修理など幅広く事業を展開しただけでなく、「旧海軍タンク底油集積事業」という過酷な仕事を社員に課したのです。

それは、大きなガソリンタンクの底に入って、溜まっているガソリンを回収するというもので、ガソリンまみれになるだけでなく、臭いがきつくそして常に事故の危険が伴う非常に過酷な作業でした。このどの会社も受けなかった作業を請け負って、家族であると言った社員にこの作業を命じたのです。

このように、出光佐三氏の「家族だからリストラしない」というのは、ただ社員を甘やかしていたわけではなく、家族だからこそ信頼し、過酷な作業を課すこともいとわなかったのです。そして、命がけの過酷な作業を命じられた社員は、出光佐三氏の期待と信頼に応えるべく懸命にその作業をこなしたのです。この作業は、その後の出光興産の発展を支えるものとなっています。

家族という姿勢を持つことで生まれる一体感

このような出光佐三氏の経営論から見えてくるものとは何でしょうか。

出光佐三氏が、「社員は家族である」という姿勢を社員に見せることで、社員には、会社を守るために懸命に努力し働こうとする意識が生まれたといいます。

命の危険が伴う作業を懸命にこなした出光興産の社員は、大切にされているからこそその作業を完成させたのであり、大切な家族だからこそ出光佐三氏は危険で過酷な作業ができると信じていたのです。そこにあるのは、会社を守るために社員を危険な目に合わせるという経営判断ではなく、「社員は家族」という姿勢を持ち、それを実行することで会社と社員との間に生まれた、あたかも本当の家族であるかのような信頼関係だったのです。

そして、この信頼感こそが出光興産の経営を下支えするものとなり「出光興産の社員はよく働く」と評判になり、社員と経営陣の信頼関係が第三者からの高評価につながったのです。

医院経営においてこの一体感は重要なポイントに

医院経営においても、経営陣とスタッフの一体感は極めて重要なポイントとなります。医療は患者さんの健康や命を預かるわけですから、患者さんは少しでも親身になってくれる医院に治療を任せたいと考えるのが自然です。そして、命と向き合う医療現場は常にリスクと責任が発生する過酷な現場ともいえます。

そのような場所だからこそ、信頼関係はとても重要なポイントなるのです。

実際に現場で患者さんと接する医師や看護師を、ただのスタッフではなく“医院というひとつの大きな家族”という姿勢を持って接すること、信頼関係を築くことにつながります。

そして、そのような信頼関係は、患者様に対する対応にも表れるものとなるでしょう。

医療スタッフが自身の務める医院を信頼することは、心にゆとりをもち、そして自分を大切にしてくれる医院の名に恥じないように精進することにもなるでしょう。つまり、信頼関係の構築は、医療サービスの質の向上やスタッフの意識の向上に…ひいては患者様からの信頼につながるのです。

むしろ、スタッフから信頼されない医院を患者様に「信頼してください」といっても説得力はありません。つまり、信頼関係は医院の経営にとって大きな好影響を与えるものなるのです。また、大きな医院になるほど、内部のいざこざや悪評が外部に漏れて医院のイメージが悪くなるというリスクもあります。スタッフと経営陣の間に信頼関係があれば、そのようなリスクも低くなります。

どんなに技術や知識、経験が豊富な医療スタッフであっとしても“スタッフの医院に対する信頼”が医療サービスの質や患者様への対応に影響を与えることは否定できません。その精神の健康を下支えするヒントが、出光佐三氏の「社員は家族である」という姿勢とそこから構築された信頼関係にあります。スタッフを家族のように守り、信頼関係を構築し、患者様からの信頼につなげてください。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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