MANAGEMENT

労災の定義と労災保険がカバーする範囲

2018.10.31

院長のための労災対応の基礎知識vol.1

ここ数年、「労災」という言葉を耳にする機会が多くなりました。院長先生方の場合は、ご自身の医院のスタッフに労災が発生してしまうというより、診療の際に「労災で怪我をしてしまった、病気になってしまった」という患者様の声を聞く機会の方が多いかもしれません。

しかし、医院は事務職などの業種より労災が発生する可能性が高い環境にあります。この記事では、3回に分けて院長先生方が知っておくべき労災への対応策について解説します。

1 労災とは-業務災害と通勤災害-

仕事中の事故によって健康上の被害を受けてしまう事故を業務災害といいます。労災と聞いて一番思い浮かべやすい事故はこの業務災害ではないでしょうか。

特に、医師や看護師を始めとする医院スタッフは、患者様と日常的に接するために病気に空気感染してしまうリスクと隣り合わせです。使用済み注射針をうっかり自分に刺してしまったり、患者様の体液が目に入ってしまったりしたことによる健康被害も通常の業種より発生しやすい環境にあります。

また、業務災害はこのようなどう見ても業務上の病気・ケガというものばかりではありません。お茶くみの際に熱湯を手にこぼしてしまった、床が濡れていて転んでしまったというような、一見必ずしも業務による災害とは言えないような病気・ケガであっても、業務中の事故であれば広く業務災害と認定されます。

また、職場への往復中に健康上の被害を受けてしまう事故を通勤災害といいます。通勤中の病気・ケガが労災になることをご存じない方も少なくありませんが、軽微なものを含めれば業務災害より発生頻度は多いかもしれません。

医院は勤務時間が不規則ですし、街中にある医院ばかりではありません。したがって、電車を利用することができず、深夜に自転車やバイク、車で通勤しているスタッフもいらっしゃることでしょう。

「深夜、自転車で帰宅途中に路面が凍っていて転倒してしまい、ケガをしてしまった」というような、明らかに通勤による災害はもちろん「帰宅途中に酔っぱらいに暴力を振るわれ、ケガをしてしまった」というような、一見必ずしも通勤による災害とは言えないような災害まで、通勤中の事故であれば広く通勤災害と認定されます。

労災とは、業務災害と通勤災害の2つを併せたものを指します。

2 労災保険の対象となる方の範囲

労災が発生してしまった場合には、労災保険により様々な補償が行われます。労災保険では十分に対応できないケースもありますので過度の期待は禁物ですが、労災により発生した損害を幅広くカバーしています。

原則として正社員だけではなくパートや1日だけのアルバイトまで、労働者であれば全員が労災保険の対象となっています。また、派遣会社から医院に派遣されている派遣労働者は、医院では労災保険に加入しませんが、派遣元の会社の労災保険に加入しています。

このように、あらゆる労働者が加入している労災保険ですが、3つの例外があります。

<個人経営の医院の院長>

個人事業主として医院を経営されている院長先生が医院で働いている場合には労災保険の対象外となり、業務災害・通勤災害が発生してしまっても労災保険を使うことができません。

ただし、医療法人の役員とは異なり、万一病気・ケガが発生した場合には、国民健康保険を利用することができます。また、一人でも他人を雇っている場合(同居している親族は対象外。雇われている方が労災保険に加入していなければいけません)には、労災保険の特別加入制度を利用して労災保険の対象となることができます。

労災保険の特別加入制度とは、本来は労災保険の対象ではない方が一定の条件を満たした場合に、掛金を支払って労災保険に加入することができる制度です。

第2回で詳しく解説しますが、労災保険には病気・ケガで働けなくなってしまった場合の休業補償など、国民健康保険にはない様々な制度があります。危険の多いお仕事をされる院長先生は、可能であれば労災保険に特別加入されることをお勧めします。

<医療法人の理事・監事>

医療法人の理事・監事など、一般の会社の役員にあたる方々は労災保険の対象となりません。また、業務の遂行に伴って病気・ケガをした場合、健康保険も適用されませんので、全額自己負担で治療を受けなければならなくなってしまうため、十分な注意と対策が必要です。

個人事業主として医院を経営されているときと同様、医療法人の理事も労災保険の特別加入制度を利用できます。しかし、雇用している労働者数によっては対象とならないこともあります。

労災保険も健康保険も適用されない方のために、民間の保険会社が様々な保険商品を提供しています。雇用している従業員数が多く、労災保険の特別加入制度を利用できない場合には、そのような保険を活用しましょう。

肩書は理事・監事であっても、事実上は通常の労働者と同様の労働に従事している場合には、例外的に労災保険の対象となることもあります。その場合には手続きが必要ですので、労災保険の対象となるかどうかの確認も含めて管轄の労働基準監督署に確認しましょう。

また、その医療法人で健康保険に加入している方が5人未満の場合で、代表者の方が従業員と同じような業務に従事している最中に病気・ケガをしてしまった場合には健康保険を利用できるという特例があります。通常、医療法人では院長先生がスタッフと共に診療を行っていると思われますので、診療中の病気・ケガには健康保険を利用できるケースが多いです。イザというときのために覚えておくといいでしょう。

<同居している親族>

個人事業主の院長先生や医療法人の理事・監事と同居されている親族の方が医院で働いている場合には、原則として労災保険の対象とはなりません。

ただし、親族以外の労働者を使用している場合で、その労働者と同じ就労環境・賃金で働いている場合には、例外的に労災保険の対象となります。その場合には手続きが必要ですし、本当に労災保険の対象となるのかどうか判断が難しいケースも多いため、管轄の労働基準監督署に確認されるといいでしょう。

今回は、あまり知られていない労災の概要と、労災保険の対象となる方についてお知らせしました。次回は労災保険の具体的な給付内容、その次は労災が発生してしまった場合に医院が請求される可能性がある損害賠償についてお伝えします。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部