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医院スタッフといえども労働者!「患者様のために」は通用しない!

2018.08.29

院長のための労働法解説 Vol.1

医師や看護師を始めとする医院スタッフは有資格者であることも多く、替えの利かない極めて専門性の高い職業です。診療科によってはいつ生じるかわからない患者の容態の急変に対応しなければならず、以前は医院スタッフが労働者としての権利を主張する機会も多くはなかったため、これまで労働者としての側面は注目されてきませんでした。
しかし、最近は売り手市場となってきたこともあり、労働者としての権利を主張する方が増えています。それは医院のスタッフであっても同様です。この記事では、2回に分けて院長先生方が知っておくべき労働法について解説します。

1 休日に関係する事項

労働基準法では、従業員に所定の休日を与えなければならない「休日付与義務」が課せられています。原則として1週間に1日、または4週間に4日の休日を与えなければいけません。

この休日は暦日、つまり朝の0時からの連続した24時間を与えなければいけませんが、8時間3交代制の場合や旅館業・自動車運転者などの場合には例外があります。8時間3交代制を採用している場合には、連続した24時間を休日として与えればいいことになっています。

<休日の振替>
業務の都合上、ある従業員に、本来休日だった日にどうしても労働してもらう必要が生じるかもしれません。その際には、休日振替と休日労働の方法があります。

休日振替とは、事前に代わりの休日を指定して、その日の代わりに本来休日だった日に労働してもらう方法です。この方法を採る場合には変更後に1週間に1日、または4週間に4日の休日を与えており、かつ1週間の法定労働時間を超えていない限り、36協定の締結も時間外労働・休日労働の割増賃金を支払う必要もありません。

一方、休日労働とは、代わりの休日を与えることなく本来休日だった日に労働してもらう方法です。この方法を採る場合には、36協定の締結と、休日労働の割増賃金を支払う必要があります。

<有給休暇>
有給休暇は雇用形態にかかわらず、雇った日から6ヶ月以上継続して勤務しており、全労働日の8割以上出勤している労働者には必ず与えなければいけません。フルタイムで勤務している従業員の場合には雇ってから6ヶ月が経過した時点で10日の有給休暇が与えられます。フルタイムではない場合や、1年6ヶ月を超えて継続勤務している場合に付与される有給休暇の日数、その他の細かなルールについては以下のリンクをご参照ください。

年次有給休暇の付与日数
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf

有給休暇は2年間で時効となり、消滅します。逆に言うと2年間は休暇を請求される可能性がありますから、最大40日分の権利を持つ労働者がいる可能性があります。特別な資格を持つスタッフがまとまった日数の有給休暇を取得した場合には、業務が滞ってしまう可能性がありますから、十分に注意しましょう。

なお、原則として労働者が指定した日に有給休暇を与えなければいけませんが、業務の都合上どうしても有給休暇を与えることが困難な場合には時期を変更することができます。また、有給休暇を取得しやすくするために、経営者と労働者が同意すれば半日単位の有給休暇を付与することができます。

2 残業に関係する事項

従業員に労働をさせる場合には、原則として1日8時間、週に40時間を超えてはいけません。業務の準備時間や、業務上受講せざるを得ない研修なども労働時間に含まれます。また、従業員が10人未満の病院や診療所は「特例措置対象事業場」とされ、その病院や診療所で働く従業員の労働時間は1日8時間、週に44時間を超えてはいけません。

どうしても残業をしてもらう必要がある場合には、経営者と労働者代表が36協定を結ばなければいけません。36協定を結んでいない場合には、そもそも残業をさせることができませんから注意しましょう。

36協定を結んでいるからといって、無制限に残業をお願いできるわけではなく、原則として月に45時間が上限となります。例外として、36協定に特別条項を設けることで45時間を超える残業をお願いすることができます。

特別条項とは、36協定に事前に記載しておくことで、一定の理由が生じた場合に45時間を超える残業をお願いすることができる制度です。医院の場合には、たとえば感染症が流行し、多くの患者が診察を求めた場合などが「一定の理由」として挙げられるでしょう。

また、最近ではスタッフが退職する際に、医院に対して過去2年分の未払い残業代を請求する事例が多いです。残業代をきちんと支払うことはもちろん、出退勤の時間についてもタイムカードを利用するなどして記録を残しておきましょう。

「残業代を支払うことを前提とした低廉な基本給の求人を出しても応募がないが、残業が恒常化しているため高い基本給を提示できない」と悩んでいる院長のお話をよく耳にします。このような場合には、固定残業代の制度を導入しましょう。

固定残業代の制度とは、例えば「月給は40万円(40時間分の固定残業代8万円を含む)」というように提示する方法です。このように提示した場合、そのスタッフの労働時間が月に40時間となるまでは、固定給の40万円を支払うことで足り、追加の残業代を支払う必要がありません。一方、もし40時間を超える残業をお願いした場合には、超えた部分の残業代を支払う必要があります。

固定残業代の制度を利用することで、院長にとっては事前に提示した残業時間さえ超えなければ追加の給与負担が生じませんし、スタッフや求職者にとっては残業時間にかかわらず一定額の収入が毎月見込めます。

3 就業規則を作成する必要性

就業規則とは、労働時間や休日、賃金の支払い方などを取り決めるルールブックです。常時10人以上の従業員を雇っている場合には、就業規則を作成して届け出ることが法令で義務付けられています。しかし、常時10人未満の従業員しか雇っていない場合であっても任意に作成することは可能ですし、実際に作成することを強くお勧めします。

たとえば、新たに採用したスタッフの手癖が悪く、病院の備品や患者さんの持ち物をたびたび盗んだとします。もちろん院長としては懲戒解雇処分としたいところですが、就業規則がなかったり、就業規則に解雇事由の記載がなかったりする場合にはその懲戒解雇処分が必ずしも認められるとは限りません。また、大幅な遅刻や無断欠勤が続くなど、勤務態度が悪かったとしても、就業規則に記載のない懲戒処分をすることは原則として困難です。

このような大きな事例の他にも、医院には従業員に守ってもらいたいルールがあるでしょう。例えば、医院という場所柄、女性スタッフのアクセサリーの着用は禁止したいところですが、このような常識的かつ細かな内容についても就業規則に記載しておかないと「そんな禁止事項は聞いていない」とスタッフに反論されてしまうことがあります。

労使間のトラブルが生じた場合、就業規則の内容がとても重要な判断材料となります。労働局でも標準的な就業規則のテンプレートを準備してくれていますが、ぜひそれぞれの医院の実情に合わせた就業規則を、専門家と相談しながら作成されることをお勧めします。

今回は、あまり正確に理解されていない労働者の権利の概要についてお伝えしました。次回は具体的な制度を利用した労働問題の解決策についてお伝えします。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部