MANAGEMENT

労災で医院が損害賠償を支払わなければならないケースと対応策

2018.11.14

院長のための労災対応の基礎知識vol.3

これまで、労災の定義や労災保険について解説してきました。労災保険は国が運営しているだけあって手厚い補償が準備されていますが、労災保険があるからといって医院が全く労災の責任を負わなくていいということにはなりません。特に、スタッフが亡くなったり重度の後遺障害が残ってしまったりというような重大な労災が発生し、医院に責任があると判断された場合には、多額の損害賠償を請求されてしまい、医院の存続にも関わることがあります。
今回は、医院が損害賠償を支払わなければならないケースや、損害賠償への対応策について解説します。

■医院が損害賠償を支払わなければならないケース

使用者は労働者への安全配慮義務を負っています。これは医院であっても同様ですから、院長はスタッフの安全に十分な配慮をしなければいけません。特に、事務職などと比較して医院スタッフはリスクが高い業種ですから、より高度な配慮が求められています。

「労災を発生させてしまったことにより損害賠償を請求された」と一般に表現されますが、正確には使用者が安全配慮義務を果たさなかったために労災が発生し、損害賠償を請求されるという流れになります。したがって、裁判などでは安全配慮義務を果たしていたかどうかが争点となります。

■医院が負う安全配慮義務

医院が最も注意しなければならない安全への配慮は院内感染です。もちろん、院長先生方も日頃から十分な注意を払われていることと思います。

医院は医療法第六条の十二により院内感染を防止する義務を負っています。スタッフも含めた医療従事者の院内感染は労働災害に該当しますので、もしスタッフが院内感染し、医院の院内感染対策が不十分だったと認定されてしまった場合には、損害賠償請求される可能性が高まるでしょう。院内感染の防止を含めた安全への配慮といっても漠然としています。具体的には「厚生労働省 医療施設における院内感染の防止について https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0202-1.htmlなどの行政通達や、日本看護協会が発行している「看護職の健康と安全に配慮した労働安全衛生ガイドライン」などを参考にするといいでしょう。

万一労災が発生してしまった場合でも、これらの通達やガイドラインに準拠した対策を行っていたと主張することで、十分な安全への配慮を行っていたことを裏付けることができます。

その他、治療の際に特殊な器具を使う場合に十分な安全装備を装着させることなどはもちろん、スタッフがコード類に躓いて転倒することがないよう束ねておくなど、安全配慮には十分に注意しましょう。また、メンタルヘルスにも注意が必要ですが、院長先生方は既に十分な知識と対応策をお持ちのことと思いますので具体的な対応策については省略します。

■損害賠償請求への備え

労災の防止に向けて十分な配慮をしていたとしても、どうしても避けられないケースもあるでしょう。万一の労災発生に備えて以下のような対策をする必要があります。

<業務災害補償保険への加入>

労災保険ではカバーできず、損害賠償を支払わなければならなくなってしまった場合に保険金を受け取ることができる保険に加入することを検討しましょう。医師会や商工会議所などがそのような保険商品を紹介しています。

例えば、一般的な医師の職業賠責保険は、従業員の労災は保険の対象外です。この機会に下級されている保険の内容も併せて確認されることをお勧めします。

<労災上積補償協定の締結>

労災が発生しやすい業種を中心に、労働協約や就業規則の中に労災上積補償協定を設けるケースが多くなっています。労災上積補償協定とは、労災が発生してしまい、労災保険ではカバーできない事態が発生した場合に使用者が行う補償の内容を予め定めたものです。

この協定を結ぶだけで約束した補償以上の支払いを免れることができると考えている使用者が多いようですが、法律的には必ずしもそうとは言えません。その協定が損害賠償の予定であり、労働者がそれ以上の損害賠償請求権を放棄するという内容にする必要があります。

そのような内容を盛り込んで、労働基準法などの関係法令と矛盾しないような文章を作成することは一般の方には困難となりますので、弁護士等の専門家に依頼されることをお勧めします。

<スタッフ向けマニュアルの作成>

労災が発生したからといって、発生した損害の全てが使用者の責任となるわけではありません。労働者側に落ち度があった場合には、その落ち度の割合に応じて損害賠償責任が軽減されます。特に、医院のスタッフは資格が必要な専門職に当たるため、スタッフ自身も職務の遂行にあたり十分な注意を払わなければいけません。

さらにスタッフの責任を明確にするために、スタッフ向けマニュアルとチェックリストを作成するとよいでしょう。例えば「院内感染防止のために毎日○時に手を消毒し、うがいをすること」というマニュアルを作成し、実際に行った際にチェックリストに名前を書くように指導することで、マニュアルを実行していないスタッフが一目瞭然になり、指導に役立ちます。さらに、医院が十分な安全配慮をし、スタッフに周知したにもかかわらずスタッフの落ち度で労災が発生してしまったことを証明する材料となるため、マニュアルとチェックリストは一定期間保存しておきましょう。

■まとめ

これまで3回にわたり、院長先生にぜひ知っておいていただきたい労災について解説しました。最近は労働者が使用者を相手取って訴訟を起こすケースが増えているため、医院も十分な対策をしておく必要があります。院長先生が自ら対策を講じる時間を取ることは難しいかもしれませんが、弁護士や社労士に医院の労災対策を確認してもらってアドバイスを求めるなど、積極的な対策に努めましょう。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部