ファイナンス

長寿社会の恩恵を受けるために必要な考え方とは!?

2019.12.05

読んだ人の“これから”が変わる人生設計の必読本『ライフ・シフト –100年時代の人生戦略–』

「人生100時代」——今や誰しも聞いたことのある言葉となったのではないでしょうか。2017年9月には有識者を集めた「人生100年時代構想会議」が首相官邸に設置され、NHKは著者のリンダ・グラットン氏を迎えて「ニッポンのジレンマ“人生100年”のジレンマ大研究」(2018年5月)という番組を放送するなど、ライフシフト・ムーブメントとも呼べる現象が起きています。
日本でもベストセラーとなり反響を呼んでいる『ライフ・シフト –100年時代の人生戦略–』(東洋経済新報社刊〔2016年〕)。この本の内容を知っているかどうかで、あなたのこれからの人生が変わるかもしれません。

「人生100年時代」をポジティブに捉える

『ライフ・シフト –100年時代の人生戦略–』は、Lynda Gratton(リンダ・グラットン)とAndrew Scott(アンドリュー・スコット)による共著です。本書は、世界的な長寿化の進行による「人生100年時代」が想像以上のスピードで到来し、人々に従来とは異なる人生設計が必要になるだろうと説いています。
先進国では1967年生まれの半数が91歳、1987年生まれの半数は97歳まで生きることが見込まれ、長寿国である日本の場合、2007年生まれの半数が107歳まで生きると書かれています。言い換えれば、いま小学生以下の子どもの2人に1人以上が100歳まで生きるということになります。
本書の重要なポイントは、著者であるグラットン氏が、この「人生100年時代」というコンセプトについて、ポジティブに捉える視点を広めたという点です。しかし、100年生きるということに「重さ」を感じる人もいます。長く生きれば、健康を損なうのではないか、生活資金が不足するのでは、介護年数が増えるのでは…といった不安要素ばかり目についてしまう人も少なくありません。
そういった人に対して、グラットン氏は「長寿化は恩恵であり、まずは長寿をポジティブにとらえること」と、説いています。現在、高齢化が進んでいる国では、高齢者の医療・介護や年金の問題ばかりが取りざたされています。しかし、本書のテーマは、いかに個人や家族、企業、コミュニティが長寿社会の恩恵にあずかれるかを考えることにあります。

勉強—仕事—引退の3ステージからマルチステージへ

ポジティブな面の1つは、人々が、より自由な生き方を選択できるようになるということです。人生100年時代の到来は、人々にさまざまな変化を引き起こします。その1つとして予測できるのは、「人々がより長く働き続けるようになること」。これまで多くの人々が「勉強—仕事—引退」という3ステージの人生を歩んできたのに対して、70代、80代まで働くという「仕事」のステージの長期化に伴い、より多くの人生の選択肢を持つようになり、ステージの移行を数多く経験する「マルチステージ」の人生に突入するだろう、と本書は唱えています。
予測可能な人生モデルは成り立たなくなり、だれもが同じ時期に同じことをするのではなく、1人ひとりが異なる働き方を見出し、ライフイベントの順序もそれぞれ違ってきます。例えば、30~50代の働き盛りと言われる時期に旅や留学などで長期にわたって仕事をしない充電期間を設ける人や、自分で起業・開業して経営者やオーナー、フリーランスなど企業に属さない働き方を選ぶ人が増えるといった変化が予想されています。しかも、それらを同時並行で行う人や副業を持つ人、短時間勤務やサテライトオフィス・ワーカーなど、さまざまな選択肢が考えられますし、各ステージを行ったり来たりする人も出てくるでしょう。そうなれば、年齢に対するおおよその職業や役職も、これまでとは一致しなくなってきます。
そして、パートナーシップのあり方も問い直されるでしょう。片方がステージを移行する際にはもう一方が働くなど、シーソーのように夫婦間の役割調整が必要になるかもしれません。なぜなら、移行期間は「資産の目減り」を伴うからです。夫婦のあり方が変われば、家族のカタチも多様化していくでしょう。
このように長寿によって生き方が多様化していくと、やがて今までの年齢とステージが一致することが前提にあった企業の人事制度や、教育、結婚といった社会制度も大きく変化すると考えられます。つまり、100年ライフが現実のものとなれば、社会全体の構造が、これまでとは異なる様相を呈するようになるのです。

有形・無形の資産のバランスをとる

社会構造が変化すれば、たとえ開業医であってもその波に巻き込まれることは必至です。例えば、何歳まで働くか、リタイアまでにどの程度準備しておくかによっては、リタイア後の生活水準を現役時代の50%またはそれ以下に設定しなければならない可能性があるのは開業医も同じです。また、人々の働く期間が長くなれば、年金や税率などの制度、教育制度もそれに合わせて変わってくるでしょう。あるいは、将来を考えて、より高い水準の教育を子どもに求める傾向が高まり、小学受験、中学受験の競争率が高まることも考えられます。
さらに、資産形成についての考え方も社会全体で変わっていくでしょう。長寿化に伴い、老後の生活資金をどうするかという問題が差し迫ってくる一方で、人間関係、知識、スキル、健康といった、お金に換算できない「見えない資産」=無形資産に対する価値が高まるというのが本書の見方です。無形の資産は、それ自体が有意義な人生を送るために欠かせないものであるだけではなく、有形の金銭的資産の形成を助けてくれるものでもあります。人生100年時代をスマートに過ごすためには、有形・無形という両方の資産のバランスをとり、相乗効果をねらっていく必要があるでしょう。つまり、いわゆる「お金」以外のものを、より大切にして生きていくことが100年ライフを生き抜くカギとなるのです。

まとめ

大事なのは、やがて来ることがわかっている波に、どれだけ早く気づき、その波に対する準備を整えておくかということです。グラットン氏は、ロボットやAIのような新しいテクノロジーが雇用の未来をどのように変化させていくのかといった、今まさに人々の関心を呼んでいるテーマについても執筆中とのことでした(冒頭に紹介したNHKの番組中)。次の著書も注目を集めることは間違いなさそうです。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
458件の開業医を成功に導いた成功事例集