ファイナンス

顧客との長期の信頼関係なくして永続できないビジネスモデル

2019.07.15

人生100年時代に備えよう!新たな資産運用のアドバイザー『IFA』って何?

 最近、「人生100年時代」という言葉をよく目にしますが、ベストセラーになった「LIFE SHIFT」で引⽤されているある海外の研究によると、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されており、老後の生活が30年以上続くことが当たり前の世の中になるかもしれません。その一方で少子高齢化が進み、年金不安もささやかれる中、自助努力による老後の備えが欠かせなくなっているのも事実です。そして資産運用の必要性もますます高まってきています。
 しかし、1800兆円を超える個人金融資産のうち、現金・預金の比率は依然として5割を超えています。長らく「貯蓄から投資へ」「貯蓄から資産形成へ」が叫ばれてきたものの、日本人の「貯蓄好き」はそれほど変わっていないようです。

「顧客本位」が求められる中、関心が高まってきているIFA

資産運用という視点から離れても、この個人金融資産を投資資金として循環させ、有効に活用することは日本経済を活性化する原動力となり得ます。人口減少が進む日本において、1800兆円の個人金融資産は残された数少ない「武器」と言っても過言ではないでしょう。それにも関わらず、日本で「貯蓄から投資へ」「貯蓄から資産形成へ」がなかなか進まない背景には様々な要素がありますが、一因として資産運用市場が抱えてきた2つの構造的な問題が考えられます。
一つ目は投資信託などの金融資産の販売の担い手、販売手法の問題です。ここ数年、金融機関に『顧客本位の営業運営』が求められてきたのは、裏を返せばこれまでのビジネスが『顧客本位』ではなかったからだともいえます。
この「顧客本位の業務運営」という言葉は金融業界では今や当たり前のように使われていますが、一般的にはまだまだ馴染みのないものかもしれません。「貯蓄から資産形成へ」を進めるためには金融商品の販売の在り方を改めるべきだという問題意識の下、金融庁が金融機関に求めたのが「顧客本位の業務運営」です。2017年3月にはその指針といえる「顧客本位の業務運営に関する原則」も公表されています。
金融機関が投資信託や保険などの金融商品を販売するに当たって、その販売目標、ノルマなどが設定されているのは周知の通りです。金融機関も営利企業である以上、そうした目標設定は当然のことかもしれませんが、収益を重視するあまり、顧客の利益が蔑ろにされていたのは否めません。販売手数料を稼ぐために、同じ顧客に何度も売買を繰り返させる、いわゆる「回転売買」が横行するなど、とても「顧客本位」とは言えない販売方法が採られていたといった話も有名です。
 もう一つの構造的な問題として「運用会社と販売会社の関係」が挙げられます。投資信託のメーカーである運用会社と、証券会社や銀行などの販売会社とでは、販売会社の優位が続いてきたのが日本の実情です。そもそも運用会社は証券や銀行の系列下にある場合が多いことも背景にはあり、販売会社が売りやすい商品を提供するというバイアスがかかり続けてきました。
 この2つの構造的な問題に対しては、販売会社も目標設定の基準を変えたり、ノルマそのものを廃止したり、あるいは持株会社を作ってその下に販売会社と運用会社が並列するような形を取ったりと、改善の動きが見られるのも確かです。その一方で、近年にわかに脚光を浴びてきているのが、新たな販売チャネルである「IFA」です。

顧客との長期の信頼関係なくして永続できないビジネスモデル

 IFAは“Independent Financial Advisor”の略称で、独立系金融アドバイザーなどと訳されます。証券会社や銀行といった特定の金融機関に属さず、文字通り独立した立場で金融商品の購入などに関するアドバイスを行います。米国や英国では同様の独立系のアドバイザーが広く普及していることもあり、近年、日本でも急速に関心が高まってきています。
 業態としては「金融商品仲介業者」と呼ばれ、業務を行うには内閣総理大臣の登録を受けなければなりません。証券会社など「金融商品取引業者」の委託を受け、投資信託や株式などの金融商品の提案、各種アドバイスを行いますが、そのためには金融商品取引業者と業務委託契約を結ぶ必要があります。顧客の口座を管理するのもあくまで金融商品取引業者であり、万が一IFA法人が倒産するようなことがあっても、その資産は守られる仕組みとなっています。
 また、多くのIFAは地域に密着し、顧客と長期にわたって付き合い続けることを基本理念としているため、顧客よりも自らの利益を優先していては生き残れません。そもそも「顧客本位」でなければ永続できないビジネスモデルだとすら言えます。「独立系」である以上、運用会社とも対等な関係であり、IFAチャネルが拡大することで、運用会社の商品設計における自由度が高まり、2つの構造問題の処方箋になっていくでしょう。

「人生100年時代」に寄り添うIFAのこれから

 既存のIFAの中にも新たな潮流が生じ始めていて、コミッションではなく、フィーを収益のベースにしようと考えるIFA法人が増えてきています。ここで言うコミッションとは販売手数料のことで、フィーは顧客の資産残高に応じて受け取る手数料のことです。海外の独立系アドバイザーの世界では、コミッションからフィーへの移行が進んでいて、英国などではIFAがコミッションを受け取ることそのものを禁止しています。
 もっともフィーベースのビジネスモデルを成り立たせるには、一定規模の残高が必要であり、現実的には富裕層を顧客の中心にしていかざるを得なくなりますが、それではこれから資産を形成していくという層にとっては、アドバイスを受けたくても受けられない状況が生じかねません。そのため、フィーベースのビジネスを志向するIFAでも、フィーを100%にするのではなく、コミッションと使い分けるという方向を目指す場合が多いです。今後は投資家側もフィーとコミッションの仕組みをきちんと理解した上で、どちらが自分に適しているのかを判断することが必要になっていくでしょう。
 IFAチャネルが存在感を増し、顧客のニーズに応じたきめ細かい提案をしていくことで多様化が進めば、資産運用市場の健全な成長につながっていくのではと期待されています。そうなれば、IFAは日本でも「人生100年時代」に欠かせないパートナーとして、社会的に信頼され尊敬される存在となっていくことでしょう。

参照
日本の資産運用を進化させるプロフェッショナル ADVANCED IFA, 株式会社想研

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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