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現代貨幣理論は一定条件下で成立する!?~MMTの本質と過去の事例~

2019.07.03

財政赤字が出続けても問題ない!? 増税反対意見の根拠と言われるMMTとは

最近、報道などでもよくMMT(現代通貨理論)という言葉が使われていて、詳しくは知らないものの言葉は聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
MMTは、日本の財政赤字は出続けても問題がないという衝撃的な内容で、従来の政府の方針にも反するエキセントリックな学説であったため、消費税増税が決定される時期に、頻繁に増税反対意見の根拠として取り上げられていました。
今回は財政赤字が出続けても問題がないというMMTの本質と過去の事例をみていきましょう。

MMT(現代貨幣理論)の源流

MMT(現代貨幣理論:Modern Monetary Theory)は突然発生した理論ではありません。
もともとは、「不景気の時には財政出動を行い、雇用対策などの景気対策を実施し、景気をコントロールする」という主張をしているケインズ経済学が源流にあります。
現在の自由競争経済はミクロ経済学と呼ばれる消費者動向や需要と供給を研究する学説から成るものです。
それに対して、社会主義国家の成立の根拠となったマルクス経済学や前述のケインズ経済学は、政府が市場をコントロールし適正な状態を保つという視点から学説が立てられています。
社会主義国家は旧ソ連に代表されるように20世紀に行き詰まりを見せていますので、現状はミクロ経済学の自由競争経済が全盛となっています。

一時のブームとなったケインズ経済学

1930年代にケインズ経済学の原点でもあるケインズの著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」が発表されるとその有効性から多くの国で導入されることになります。
ミクロ経済学の弱点でもある、景気の悪い時期(不景気)が必ず来るという状態を保障する学説としてマクロ経済学が完成されます。
日本でも景気が悪くなると日銀が公定歩合を下げたり、貨幣量を増加させたりという政策がとられますが、これらはこうしたマクロ経済学の観点から行われている金融政策です。
年度末になると、多くの自治体では道路工事などが発注されますが、景気の悪かった90年代では、このような公共事業が雇用対策の側面も持っていました。これらはケインズ経済学、マクロ経済学の理論から行われているものです。

財政赤字が出続けても構わない!? 

では、今話題となっているMMTとはどのような理論なのでしょうか?
MMTでは、ハイパーインフレが起きていない状況下であれば、財政赤字がいくら出ても問題がないという部分が注目されます。
現在の日本の状況といえば、多くの財政赤字を抱えて消費税増税を検討していますが、日常生活が成り立たなくなるような極端なインフレは発生していない状態です。これは財政赤字が拡大する際には、国債を発行するのですが、その国債の買い手が国内金融機関であることがほとんどということに起因します。
仮に、日本の国債の購入先の多くが外国人投資家や外国政府であれば、国債のリターンを求めて日本政府に様々な要求がなされ、その要求をのめなかった場合には、国債が大量に市場に放出されることになります。そうなった場合、日本の借金の価値が大きく下がり、それとともに日本国が発行する通貨の価値も下がっていきます。
通貨の価値が減るということは、例えば今1000円で買えるものが、その値段では手に入らなくなり、物価が異常に上昇することに繋がります。この状態がハイパーインフレと呼ばれる状態です。
この状態となると日本は新たな借金をすることができなくなり、国債により予算の不足分を補填している現在の日本政府の予算では債務超過(デフォルト)に陥ることになります。

日本の現状は、国債の購入先の多くが日本国内の金融機関であるため、日本国内でハイパーインフレが起きていしまっては日本国内の金融機関も営業を継続することが困難になります。こうした状況から、MMTの主張は、金融機関は国債を簡単に手放すことがないため、ハイパーインフレが起きる可能性は低く、財政赤字はもっと出して景気をよくする必要があるというものになります。
さらに、そんな状況下では消費税の増税を行うと景気を悪くする可能性もあるため、財政赤字の解消のために行うのであれば、増税をおこなうべきではないということに発展しています。

日本の財政赤字が膨大であることには変わりない

財政赤字という言い方をすると分かりにくいですが、簡単に言えば国の借金です。現在の状況は、日本の借金を金融機関に預けている預金を通じて、国民が肩代わりしている状態であると言えます。
MMTの主張にもある通り、ハイパーインフレが起きている状況でなければ、まだまだ財政赤字の許容度があり、財政赤字を出しても問題がないとも言えます。しかし、国内金融機関も国債購入を無限にできるわけではないため、その状況もいずれ限界が来ることは明らかです。そして、国内の金融機関が購入できなくなった国債は、外国人投資家が買うことになります。日本国債の買い手に占める外国人投資家の割合が多くなると、国が投資対象とみなされて、自国を安定させる経済政策ができなくなる可能性も出てくるでしょう。

IMFの管理下にまで陥った韓国の例

国債の購入先に外国が多かったために国内経済が不調となり、ハイパーインフレが起きた例が過去、韓国にあります。
1997年に韓国は不況による大手企業の倒産などが相次ぎ、韓国通貨ウォンの価値が大きく下がった際に、国債の購入先に外国が多かったため、自国の経済が崩壊寸前までになってしまったのです。
このため、韓国はIMF(国際通貨基金)に救済を申請し、IMFによる自国通貨の再建を行うことになったのですが、IMFは政府の歳出削減などを実施し、自国通貨の安定を図ったため、歳出削減による失業者が大量に発生しました。
この韓国の事例のように、国債の購入先に外国の比率が上昇してくれば、日本も財政赤字によるIMF管理下になる可能性も十分に考えられます。

MMTの主張は一定条件下で成立する理論

MMTの主張は、ケインズ経済学に基づく根拠のある学説と言えます。
その内容も、日本の現状を的確に指摘しており、デフレから脱却できなければ財政赤字を増加させて景気対策を行うという従来のケインズ経済学の主張も含まれています。
しかし、それは財政赤字を無限に増加させてもよいというものではありません。本質を理解していないと主張を過激な部分だけが頭に残り、違ったものにすり替わってしまうこともあります。
斬新な発想やアイデアを持った論文や学説は人目をひきやすいですが、実際にどのように応用ができるのか、どういった条件であればその理論が有効に働くのかといったものをきちんと検証しなければなりません。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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