ファイナンス

気をつけなければならないスタッフの福利厚生と税務の関係

2018.08.06

かえってスタッフに迷惑をかけるかも?福利厚生と現物給与の境界線

最近の人手不足で医院スタッフの募集に苦労されている院長も多いのではないでしょうか?人材確保に有効な福利厚生ですが、内容や程度に気をつけないと福利厚生ではなく現物給与と判断されてスタッフに所得税が課税されてしまい、かえって迷惑をかけてしまうこともあります。
今回は、そんな福利厚生と現物給与の境界線についてお伝えします。

院長だけ、院長の身内だけを対象としたものは福利厚生費とはならない

大前提として、福利厚生費として処理するためには院長だけ、院長の身内や一部のスタッフだけではなく、原則としてスタッフ全員が平等に恩恵を受けられる必要があります。

そうでないものは福利厚生費ではなく給与や賞与となってしまい、所得税・住民税の課税対象となります。特に高額の福利厚生を提供して賞与とみなされてしまった場合、そのスタッフに課税されてしまい、かえって迷惑をかけてしまう可能性がありますので注意が必要です。

後から変更は難しい!?福利厚生の落とし穴

「税務調査では福利厚生費なのか、それとも現物給与・賞与なのかと争いになるケースが多いです。トラブルを避けるためにも、就業規則に福利厚生の規定を整備して証拠を整えるようにしましょう。」
このように解説している税務の記事が多く存在します。これは間違いではありませんし、労働契約法でも「当該事業場の労働者のすべてに適用される定め」については就業規則に記載しなければならないと定められていますので、就業規則を作成している場合に福利厚生について記載するのは義務でもあります。

一方、労働契約法では、労働条件を従業員の不利益に変更する場合には合理性と必要性がなければならないと定められています。福利厚生制度も労働条件のひとつですから、給与や労働時間ほど厳格な取り扱いは受けないにしても、一度採用した福利厚生の制度を廃止すると従業員の反発を招く原因となるなど、簡単に変えられるものではありません。

新たに福利厚生制度を導入する場合には慎重に検討し、必要に応じて社労士に相談することも視野に入れましょう。

宿直や残業の際の食事や宿直手当の提供

スタッフに交代で宿直をしてもらうことがあると思いますが、宿直手当を支払った場合には4,000円まで非課税となりますので、忘れずに適用するようにしましょう。

また、宿直や残業の際に食事を支給した場合、特別に高額でなければ全額が福利厚生費となります。ただし、宿直の場合には上記の非課税となる4,000円から食事代が差し引かれますので、注意が必要です。たとえば、1,500円相当の食事を提供した場合には、非課税となる宿直手当は2,500円となります。

なお、労働時間が深夜に及んだとしても、それが残業ではなく通常の勤務時間の場合には別の規定が適用されますので、注意が必要です。

無償の診察や健康診断の提供

スタッフが体調を崩した場合に、医院が窓口負担分を請求せずに診療するケースが多いと思います。その場合、常識的な金額の範囲内であれば窓口負担分を福利厚生費として処理しても問題ありませんが、会計処理には気をつけなければいけません。これには2つの理由があります。

まず、健康保険法で窓口負担分の診療報酬を受け取らなければならないと定められていますので、医院が勝手に免除するのは違法だからです。形式的なものではありますが、あくまで診療報酬は発生して、それを福利厚生の一環として医院が負担したという形の会計処理を行わなければいけません。

これは、売上をごまかしたり、スタッフから診療報酬を受け取り忘れたりしているのではなく、あくまで福利厚生として窓口負担分の診療報酬を医院が負担したということを会計帳簿で証明する必要があるためです。

医療機関の経験が浅い経理担当者や税理士の場合、このような会計処理を行う必要性を理解していないことがありますので、よく確認しておきましょう。

奨学金の返済免除

看護師になるための資金を貸し付けて、資格を取得したら数年間の病院勤務を義務付ける、いわゆる「お礼奉公」つきの奨学金制度を採用している医院も多いことでしょう。平成21年の12月までは、准看護師であればお礼奉公後の奨学金の免除が福利厚生費として認められる一方、看護師への免除は賞与として課税されていました。
しかし、平成21年に国税庁が考え方を変更しましたので、現在は准看護師であっても看護師であっても福利厚生費として処理することが可能です。
一方、この制度は労働法では問題となる可能性が高く、お礼奉公つきの奨学金制度は労働基準法に違反しており、約束の勤務期間を守らなくても奨学金の返済義務がないという判決が2017年に出ています。
お礼奉公付きの奨学金制度を採用しようとする場合には、契約書の内容などに十分な検討が必要です。必ず事前に弁護士や社労士の助言を受けましょう。

まとめ

院長が親切心で提供するつもりの福利厚生制度であっても、よく検討してから導入しないと思わぬ課税を受けたり、さらには労働法上のトラブルとなり訴訟にまで発展したりするケースが少なくありません。
福利厚生を税法の面から検討するのはもちろん、これからは労働法の観点から検討することも必要ですので、一度専門家と話し合ってみられてはいかがでしょうか?

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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