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60歳までに着手しておきたい!医院の事業継承問題

2018.12.03

事業継承が頭に浮かんだら、まずは考えたい5W1H

近年問題となっている事業継承問題ですが、開業医が抱える問題は千差万別であり、課題や対応策も非常に多岐に渡るため、インターネットを見ただけで解決できるようなものは多くありません。今回の記事では、開業医の方が事業継承問題に取り組むにあたってのファーストステップとして、留意していただきたい点を、5W1Hを使って説明します。

When いつ考え、行動したらよいか

中小企業庁のデータ(2012年)によると、中小企業者の平均引退年齢は70歳程度と言われています。また、経営者が事業継承を考え始めた時期として、「ちょうど良い時期だった」と回答する最も多い年齢層が40歳~49歳となっています。これが、60歳以上の経営者となると40%以上が「もっと早い時期に事業継承をやるべきだった」と回答しています。

クリニック経営で40~49歳というのは早い印象を受けますが、平均引退年齢が70歳というデータを参照し、一般的に言われている「事業継承は10年計画で」という話を考慮すると、60歳までに着手するのがひとつの理想と言えるでしょう。

Where クリニックの立地条件、診療圏の状況

診療圏は、
開業当時と比べてどのような変化がありますか?
空き家は増えていませんか?
商店やスーパーなど変化はありませんか?
交通の便に変化はありませんか?
地域人口の流入流出はどうなっていますか?
地域人口の年齢構成はどう変化していますか?
これらはマーケットを把握する作業ですが、事業を譲り受ける側が重要視するポイントのひとつとなるため、周辺環境の変化には敏感になっておきたいものです。

Who  事業を譲り受けるのは誰か?

誰に事業を譲り渡すかは、当然大きな課題のひとつです。親族、第3者の医師、他の医療法人など複数の選択肢があります。それまでのクリニックの医療をきちんと理解し、そのまま受け継いでくれるような人がベストですが、なかなか理想どおりにはいかず、それどころか譲り渡す候補すら見つからないという悩みを抱えているドクターも多いことでしょう。

親族に継承する場合にしても、本人の意向確認が曖昧になりがちなという欠点もあります。実際、お子様と考え方が相違していることに気が付かず、当初考えていたように親族継承が実現しなかったということも最近よくあるケースのひとつですので、気をつけたいところです。

このようなことを踏まえると、継承させる相手を見つけるために、できるだけ広く情報がとれる体制をとっておくことも重要です。

What 継承させるモノを把握する

継承させるものは、建物、設備、備品以外にも、従業員やクリニックならではの医療サービスなどがあります。また、患者様(患者数、年齢構成)も継承させる対象となります。過去の業績も営業基盤という意味では、継承させるモノのひとつと言えます。

これらは、M&Aが行われる際にデューデリジェンスとして、価値を評価算定される対象となるものです。デューデリジェンスとは、経営の棚卸しと将来価値を算定するようなものと考えていただければ良いと思います。なお、のれんと言われる営業権評価もそこで行われます。

自らデューデリジェンスを行う必要はありませんが、正確な資産評価額や診療圏の将来性を税理士などの協力を得て把握しておくことは、事業を譲り受ける側の視点も理解できるため、とても有効です。

Why なぜ事業継承するのか

さて、ここまで4Wを確認することでクリニックが置かれた状況が整理できたと思います。その上で、継承させるべきかもしくはその必要がないのか、ご自身が長年地域医療に携わってきた思いも踏まえながら、判断してみてください。

-もし、継承が不要もしくは難しいと考えるなら-

従業員の雇用や患者さんへの対応などを考慮して、ドクターご自身が心身ともに健康なうちに閉院させるような計画を立てましょう。クリニック経営中に、万が一のことがあった場合、患者さんにも迷惑がかかりますし、ご遺族に思いもよらぬ相続問題が発生してしまう可能性があるためです。

How 事業継承問題の対策方法(事業継承を進める決意をしたら)

-パターン別の特徴-

個人開業医の場合、資産評価+のれん(営業権評価額)で売却価格を算定し、売買で継承を行うのが主なケースです。これにより従前のクリニックは廃業し、従業員の雇用契約やカルテは継続しません。改めてクリニックを開設する手続きが必要となります。受け継ぐ側は、前の事業を買収するために大きな資金負担が発生します。

旧医療法人(持ち分あり医療法人)は、平成19年3月以前に設立されたもので、財産権が認められています。株式の評価=出資金+内部留保ですので、積み重ねた利益の分だけ、株式の評価が上がります。そのため、継承にかかる株式譲渡は着手する時期が遅くなるほど譲り受ける側の贈与税負担も大きくなるのが課題です。

新医療法人(持ち分なし医療法人)は、平成19年4月以降に設立されたもので、出資金がゼロ評価となるため残余財産の配分はありません。旧医療法人から新医療法人へ移行する際には、それまでの出資金が贈与と見なされますが、贈与税は医療法人に対して課されるので、個人への資金負担は発生しません。法人の方が納税のための資金調達を行いやすいということもあり、継承させやすいパターンと言えます。

また、一番簡単な親子間の継承であれば、継承者としての育成と互いの意思疎通をはかることさえ気をつけていれば、ほとんど手間もかからず、特段の相談も不要で、スムーズに継承が行えます。

一方、第三者継承では、院内医師、外部からの招へい、M&Aなどの選択肢がありますが、多額の継承資金が必要となったり、借入がある場合は保証債務を負担する必要が出てきたりしますので、継承の難易度は上がります。また同時に継承を成功させるためには、譲り受ける側から見ても、事業内容が良好で、将来性も感じられる経営に整えておく必要もあります。

第三者継承の探し方

相談するパートナーについては、クリニックの財務や経営状況を正確に理解していて、日常的にコミュニケーションがとれる信頼できる相手に相談しましょう。具体的には、コンサル、税理士、銀行といったところでしょうか。

クリニックの開業支援を多く手掛けているような税理士事務所であれば、勤務医の開業ニーズ情報なども得やすいので、事業継承を成功させる可能性を高められるかもしれません。他にも、医療材料業者や医療機器メーカーなど色々なクリニックを回っている業者は、多くのドクターと接する機会もあり、事業継承につながる具体的な情報を得られやすいものです。また、身近なパートナーと相談してもなかなか継承先が見つからない場合などには、M&A会社の利用なども考慮に入れると良いでしょう。

まとめ

クリニックの事業継承は、複雑な課題が多数ありますし、時間的にも、経済的にも、手続き的にも、精神的にも、非常に負担がかかるものです。あまりに面倒だと感じられたケースでは、一時中断や廃業といった結論に至る場合もあります。

今回の記事は、ドクターが事業継承の方向性を考え、確認するための5W1Hをお伝えしました。日本は社会構造の変化から、様々な事業において事業継承は避けて通れない問題となっています。今回の記事が、クリニックの事業継承問題の解決に幾分でも貢献できれば幸いです。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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