マネジメント

どのような給付を労災保険から受けることができるのか!?

2018.11.07

院長のための労災対応の基礎知識vol.2

前回の記事では、労災には業務災害と通勤災害があることや、労災保険の対象となる方の範囲について解説しました。労災保険は労働者が業務災害にあってしまった場合だけではなく、原則として通勤災害にあってしまった場合にも給付されます。今回は、労災保険が具体的にどのような給付をしてくれるのかについて解説します。

なお、労災保険の給付のほとんどは、業務災害による給付と通勤災害による給付では名称が異なります。例えば業務災害による給付の場合には「療養補償給付」といいますが、通勤災害の際は「療養給付」といいます。しかし、給付内容はほとんど変わらず、「療養(補償)給付」という形で記述することが一般的であるため、この記事でも同様に記述します。

■「療養(補償)給付」 ケガ・病気の治療

「療養(補償)給付」とは、労災により発生してしまったケガ・病気を治療するものです。労災により発生してしまったケガ・病気は、原則として健康保険ではなく労災保険で治療します。

健康保険と異なり、労災保険では原則として自己負担額はなく、治療費の全額が労災保険から給付されます。

■「休業(補償)給付」「傷病(補償)給付」 ケガ・病気のための所得補償

「休業(補償)給付」とは、労災により発生してしまったケガ・病気の治療のために働くことができなくなってしまい、賃金を受け取ることができなくなってしまった際に、労災保険が所得を補償するものです。

休業(補償)給付としてそれまでの給与の6割が給付されますが、他に休業特別支給金として給与の2割が給付されますので、合計でそれまでの給与の8割が給付されます。
給付の期限はないため、要件を満たす限りずっと支給されます。しかし、症状が固定してそれ以上治療の効果が望めなくなった場合には、治療のために働けないとは言えなくなるため給付は打ち切られてしまいます。

「傷病(補償)給付」も、休業(補償)給付と同じく労災によりケガ・病気をしてしまい、労災の発生から1年6ヶ月が経過してもケガ・病気が治らない(症状が固定しない)場合で、一定の症状がある場合に支給されます。

傷病(補償)給付は休業(補償)給付より多くの給付を受けることができますが、その分要件が厳しくなります。また、両方を同時に受けることはできませんが、もし傷病(補償)給付の要件を満たさなくなったとしても、休業(補償)給付の要件を満たせば再度休業(補償)給付を受けることができます。

■「障害(補償)給付」 障害が残ってしまった場合の給付

「障害(補償)給付」とは、労災の発生から一定期間が経過した時点で障害が残ってしまった場合に金銭を受けとることができる給付です。

例えば手足を失ってしまった場合には失ってしまった日など、障害の態様によって障害が認定される日が異なりますが、特別な定めがない場合には労災の発生から1年6ヶ月が経過した日と定められています。

傷病(補償)給付と同じく、障害(補償)給付も労災の発生から1年6ヶ月が経過した日の状態により給付の可否が判断されますが、両者の違いは治療により病気やケガが改善する見込みがあるかどうかです。治療により症状が改善する見込みがある場合には傷病(補償)給付の対象となりますが、治療したとしても症状が改善する見込みがない場合には障害(補償)給付の対象となります。

■「遺族(補償)給付」「葬祭料」 亡くなってしまった場合の給付

「遺族(補償)給付」とは、労災により労働者が亡くなってしまった場合に、その方の収入で生計を維持していた配偶者や18歳未満、障害をお持ちの方、または55歳以上の両親や子、兄弟姉妹が金銭を受けとることができる給付です。

また、「葬祭料」とは、労災により労働者が亡くなり、葬儀を行った場合に、葬儀を行った方に葬儀費用の一部を補填する目的で金銭を受けとることができる給付です。

■まとめ

今回の記事では、労災保険で受けることができる給付のうち、主なものをご紹介しました。この他にも労災により障害が残ってしまい、介護を受けなければならなくなった場合の介護(補償)給付や定期健康診断の結果に異常が見られる場合に二次健康診断と特定保健指導を無料で受けることができる二次健康診断等給付など、労災保険には様々な給付が準備されています。

しかし、傷病(補償)給付を除き、原則として自分から請求しない限り給付を受け取ることができません。発生しないに越したことがない労災ですが、万一発生してしまった場合には忘れずに労災保険の手続きを行いましょう。

また、労災保険でもカバーできないほど大きな損害がスタッフに発生してしまった場合には、医院がスタッフから損害賠償請求をされてしまう恐れがあります。次回は、医院が損害賠償請求をされてしまうケースについて解説します。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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