法律に則りながらも医院の実情に合った働き方をしもらうために有効な2つの施策とは!?
2018.09.05
院長のための労働法解説 Vol.2
また「法律はわかったけれど、現実にはこれらの規制を守っていたら病院を経営できないよ!」という感想を持たれた院長先生も少なくないと思います。第2回では法律に則りながら、なるべく医院の実情に合わせた働き方をスタッフにお願いするために活用できる2つの施策をご提案します。
1 有給休暇の計画的付与制度
第1回では、特別な資格を持つスタッフが有給休暇をまとめて取得した場合に、医院の業務が滞ってしまう可能性を指摘しました。このようなリスクを軽減するために、有給休暇の計画的付与制度を導入するといいでしょう。
有給休暇の計画的付与制度とは、従業員が持つ有給休暇のうち5日を残した日数、たとえば11日の有給休暇の権利を持つ従業員なら6日分の有給休暇については、経営者が有給休暇を取得する日を指定できる制度です。
この制度の導入には就業規則への記載と労使協定が必要ですが、有効に活用すると医院の業務を滞らせることなく、かつスタッフが遠慮することなく有給休暇を取得できるため、ぜひ導入をご検討したいものです。
平成31年4月1日から、年に10日以上の有給休暇の権利を持つ従業員に対して、最低でも5日の有給休暇を消化させることが事業主に義務付けられます。この改正に対応するにあたり、従業員一人ひとりの有給休暇の取得状況を確認し、個別に有給休暇を付与する方法も考えられますが、従業員が多い場合には事務処理が煩雑になります。
有給休暇の計画的付与制度を利用して、全従業員が最低でも5日の有給休暇を取得できるように制度を整えることを検討しましょう。
2 変形労働時間制
月末に検査が集中したり、健康診断やインフルエンザのシーズンに診療が集中したりするなど、診療科によっては特定の週・シーズンが特に忙しいというケースもあるでしょう。このような場合には、変形労働時間制を導入するといいでしょう。
そもそも、「専門職には裁量労働制が適用できる」と誤解をされている方が少なくありませんが、裁量労働制は特定の職種にのみ認められている働き方で、医師をはじめとした医療関係者はその対象に含まれていませんので注意が必要です。
変形労働時間制は1ヵ月単位のものと1年単位のものに分けられます。1週間単位のものもありますが、一定の業種にしか適用されず、医院は適用外です。
1ヵ月単位の変形労働時間制とは、「1ヵ月以内の一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、特定の日又は週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度」とされていますが、この説明ではよくわかないと感じられる方も多いかと思います。
簡単に言うと、1ヶ月の労働時間が以下の計算式で計算された時間以内であれば、たとえ1日の勤務時間が8時間を、1週間の勤務時間が40時間(特例措置対象事業場の場合には44時間)を超えてしまったとしても、残業代を支払う必要がないという制度です。
40(時間)×変形期間の暦日数/7
※特例措置対象事業場の場合には44(時間)×変形期間の歴日数/7
たとえば、1ヶ月が31日の月の場合には、40(時間)×31日/7=177.1時間が1ヶ月の労働時間の上限となります。
ただし、当日になって「今日は忙しいから、12時間労働をお願いします」ということはできません。就業規則によって、事前に「何月何日から何月何日までは何時間労働するものとする」と、労働時間を確定させておかなければいけません。
1年単位の変形労働時間制はもっと柔軟に、シーズンごとに労働時間を変形させることができる制度です。ただし、労働者の過半数を代表する方と労使協定を結んで労働基準監督署に届け出る必要があったり、労働させすぎることがないように細かな規制があったりします。
また、変形労働時間制とシフト制を上手に組み合わせることで、より効率的に労働をお願いすることができます。特に医院に導入するのは有効なので、ぜひご検討いただきたい制度なのですが、法律的に複雑な制度ですから導入にあたっては必ず専門家の助言を受けましょう。
まとめ
最近は労働法の規制が厳しくなったという報道がなされており、たしかにそれは事実です。一方、新しい様々な制度が導入されてきたことで、より医院の実情に合わせてスタッフに働いてもらえる環境が整いつつあります。ひとたび労使紛争が発生すると、当事者の従業員や院長だけではなく、他の従業員にまで動揺が広がってしまうこともあるため、なるべくそのような事態を予防することが必要です。
一度、医院の労働環境が法令に抵触していないか、またより働きやすい制度を導入できないか、専門家に相談してみましょう。