EUとのEPAで生じる変化~ボーダレスエコノミーのメリット・デメリット~
2019.01.24
EPA(経済連携協定)で国境が消える!?~日本が目指す未来のカタチ~
2018年7月に日本政府とEU(欧州連合)との間でEPA(経済連携協定)が締結されたことで大きな話題となりました。
EPAとは、日本と他国の二国間で関税の引き下げや、人材交流などを積極的に行うことを目的とした経済協力に関する協定です。
日本は、EUとEPAを締結する以前からも、主に2000年代から多くの国と積極的にEPA締結を推進してきました。
東南アジア諸国とのEPAの中には、その国から来日して、看護師や介護士として日本での永住権が取得できると言った人材に関する内容があるものもあります。
こうした背景から、日本が目指す未来のカタチが見えてきます。
EUとのEPAで何が変わる?
EUとのEPA締結が他のものと違って大きな話題となったのは、その経済規模の大きさにあります。日本でも人気の高いワインやチーズなどの食料品の関税の引き下げを行うことで、欧州内での日本車販売にかかる関税を撤廃するといった関税に関する交渉を行っています。
それによって、欧州内での日本車の販売や、日本の農産物の販売促進につなげようという狙いがあります。他のEPAでは、その一国での経済効果ですが、EUとのEPA締結は欧州全体となるため、とても大きなインパクトがあるのです。
日本人にとっても、欧州産のワインやチーズは人気が高いため、それらの商品が安く手に入るというメリットを享受することができます。
TPPとの違い
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)とEPAの大きな違いは基本的に二国間で締結される協定がEPAなのに対して、TPPは環太平洋と名前が付く様に、アメリカや東南アジア、オーストラリアなど多くの国が集まって、関税の引き下げや労働力の移動などを促す点です。これによって、多くの国への関税のかからない輸出を行うことができるようになります。
特にアメリカがこれに参加表明をしていた時には、巨大な経済圏となり、輸出を強みにしている自動車産業などにとって、とんでもない追い風となるはずでした。しかし、トランプ大統領がTPPからの離脱を決めたことで、経済規模も半分以下となり、一気に話題性がなくなってしまったのです。
日本のTPP参加による懸念の背景にはEUの前例があった
日本のTPP参加を受けて、有識者から心配されたのが海外からの人材の流入でした。特に発展途上国からの安い労働力が大量に日本国内に入ってきて、失業する人があふれるのではないかというものでした。
今回EPAを締結したEUに、その懸念の根拠となる前例があります。
EUでは、2011年から完全に労働者域内移動の自由化を実施しています。例えば、ドイツからフランスに就業で移動する場合には、パスポートもいらない状態での移動が可能になりました。
これによって起こったことは、EU域内の格差拡大です。優良企業はEU内から多くの人材を容易に集めることができるようになり、EU全土で仕事の奪い合いが起きるようになったのです。イギリスがEUから離脱を検討したり、フランスで過激な市民デモが起きたりといった動乱の状況もその延長線上にあったと言われています。
日本もEUのようなボーダレスエコノミーを目指すスタンスを取り続けるのか?
2000年代初頭から多くの国とEPAを締結するなど、関税保護の撤廃に向けて動いてきた日本政府ですが、TPP参加、EUとのEPA締結など、これからも自由貿易によるボーダレスエコノミーを目指す動きは続くものと思われます。
これには、日本国内の人口減少による経済規模の縮小が大きな要因となっています。今まで内需向けに好調だった国内産業も人口が減少に転じた今、需要が拡大する可能性は低くなります。そのため、外需に活路を見出す動きとして、現在のような海外と連携するような動きがあるのです。
関税だけでなく、人的交流面でも同様の動きがあります。フィリピンやインドネシアとのEPAの一環で、一定の基準を満たした看護師や介護士が日本の看護師、介護福祉士資格に合格すると永住権が与えられるというものもあります。また、入管法の改正法案も国会を通過し、外国人技能実習生の実習期間延長も正式に決定しました。
これらはすべて人口減少による人材不足に対応するために、外国人労働者を受け入れるためのものと言えます。しかし、こうした動きには当然EUで起きたような失業率の上昇や暴動が発生する可能性などのデメリットも想定しておかなければなりません。
保護主義が台頭する中で日本は?
イギリスのEU離脱決定や、アメリカのトランプ大統領を誕生させた動きは、いわば、ボーダレスエコノミーに逆行する動きで、自由経済により取り残されてしまった人たちの反撃とも言えるものです。
これはどことなく幕末の日本にも似ています。どちらが正しいとも言えない論争をして、結果それぞれが納得できる形で進んでいくのではないかと推測されます。
保護主義も行き過ぎれば鎖国政策のようになっていきますし、日本が進めているボーダレスエコノミーも、同様に貧富の差を拡大させてしまうといった懸念を併せ持ちます。
こうした紆余曲折は、世界発展にとって必要な熟成期間なのではないでしょうか。