中東と聞くと、石油や砂漠といったイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。長年の戦争や隣国同士の緊張状態で、ちょっと危険な地域という印象も受けます。
地中海に面したイスラエルの場合、パレスチナ自治区との対立やガザ地区の繰り返される空爆やシリアとのゴラン高原をめぐる対立などがニュースで取り上げられることも多く、数えきれないほどの情勢不安を抱えた紛争地域というイメージが日本では強いかもしれません。
その反面で、2000年代に入ってからイスラエルでは多くのスタートアップ企業が乱立し、世界中から投資マネーを集めているということをご存知でしょうか？
日本企業からも多くのスタートアップ企業に投資が行われ、起業が多いことから「中東のシリコンバレー」とも呼ばれています。
今回は、イスラエルがスタートアップ大国として世界の注目を集めるに至った理由をご紹介します。

イスラエルの成り立ち

イスラエルは1948年に建国された比較的新しい国で、キリスト教とイスラム教の聖地があるとても複雑な国です。そこに紀元前に世界中に散らばったユダヤ人のための国を作ろうということで建国された国であるため、国民の多くがアメリカや旧ソ連などからイスラエルに移り住んできたユダヤ系移民です。
ユダヤ人はユダヤ教の厳しい教えに基づき、勉学に励むことで有名で、多くの国で要職に就いています。アメリカやロシアなどの大国が人口も少なく、国土も狭いイスラエルを意識した国際関係を考えるのには、このような背景もあるのです。

他にはない斬新な発想でスタートアップ企業が乱立

イスラエルでは、大学を卒業すると就職をする人もいますが、起業を行う人の割合も高いことで有名です。そんなイスラエルの起業家たちは世間の常識にはとらわれない斬新な発想で世界の注目を集めています。
医療分野では、主に遠隔医療などのスタートアップ企業が多くあることが知られており、カプセル型内視鏡をイスラエルのスタートアップ企業が開発して、アイルランドの医療機器販売会社に会社ごと売却したという事例もあります。
そのカプセル型内視鏡は、今までは胃カメラなどチューブ付きカメラを飲み込まなければ体内を確認することができなかったものを、水と一緒に飲み込むだけで体内の状況が分かるという衝撃的なものでした。これはもともと、情勢不安なイスラエルでミサイルに搭載するカメラの開発を行っていた起業家が消化器系の専門医と意見を交わしたことで生まれたアイデだったそうです。
こうした他分野との協業がとてもうまいのがイスラエルのスタートアップ企業の特徴の１つで、軍事技術が発展したIT分野と日々の健康をサポートするヘルスケア分野を融合させたデジタルヘルスケアという分野も注目を集めています。
医薬品関係の開発拠点も多く、武田薬品工業などの日本企業もイスラエルの医薬品開発のベンチャー企業に投資を始めています。

医療分野にも応用できるデータ解析技術が発達

AIによるレントゲン画像の判断といったAIによる医療分野への応用について聞いたことがある方もいらっしゃるかと思いますが、イスラエルはAIの発達を支えるデータ解析技術でも世界のトップ水準にあるといわれています。
これは長年の情勢不安からサイバーセキュリティ対策やIT関連の技術を高める必要があったことによるものです。
この分野は日本でもAIによる産業応用などで注目されている分野ですので、多くのイノベーションを起こす可能性を秘めています。
インターネットの分野で日常的に使われている、閲覧者に最適な広告を表示させるプログラムもイスラエルで開発されたものです。

イスラエル発展の歴史は生き残るため

イスラエルがここまで大きく注目されるようなイノベーションを起こし、世界の常識を変えるようなスタートアップ企業が多く生まれた背景には、紛争地域であるということが大きく関係しています。
内陸四方を敵に囲まれたような立地のイスラエルですので、常に誰かが攻めて来る可能性と隣り合わせといった複雑な政治背景に加えて、中東に位置しているのに石油資源もなく、砂漠だらけの土地では外貨を獲得することは非常に困難です。
そこで、イスラエル政府は、博士号を取得しているなど学問を身につけたユダヤ系移民に注目し、各分野の研究開発を積極的に行う政策を行った結果、アメリカのインテルなどのIT企業の研究拠点は1970年代からイスラエルに置かれるようになったのです。
こうした研究開発を支援する政策の延長線上に現在のスタートアップ大国としてのイスラエルがあります。

イスラエルは0から1をつくる

今までのあったものを改良してよりよいものを生み出すことが日本の得意とするものづくりと考えられていますが、イスラエルのものづくりの特徴は0から1をつくることだと言われています。
今回ご紹介したイスラエルのように、世界には日本の常識では考えもつかないようなことを独自の発想で研究開発を行う地域が存在します。ぜひ、そうのような海外の事例をご自身の投資や医療分野の視野を広げることにお役立てください。