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オーストラリア医療現場にみる今後の動き、日本で取り入れたいサービス

2018.04.09

どこが違う?オーストラリアと日本の医療システム

日本の医療システムは世界的に見て優れていると言われていますが、日本国内に住んでいると海外の医療制度に触れることはないため「本当にそうかな?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。医療システムや医療制度が進んでいる先進国では、国々の医療システムに基づいた治療が行われていますが、中でもオーストラリアは一般開業医と専門医がはっきり分かれた医療制度を実施している国で、日本とは診断の始め方が大きく異なります。

ここでは医療先進国である2つの国、日本とオーストラリアの医療システムの違いについてご紹介したいと思います。オーストラリアでの一般開業医と専門医の違い、オーストラリアの健康保険の特徴にも触れながら、解説していきましょう。

最初に訪れる場所、それが一般開業医(GP)

オーストラリアでは身体に何らかの異常がある時、まずはGP(General Practitioner)と呼ばれる一般開業医を訪ねます。GPはインフルエンザにかかった時、お腹の調子が悪い時など、一般的な風邪や体調不良の症状の他、目の充血が取れない、耳鳴りがする、湿疹が出てかゆみが止まらない、気分が落ち込みがち、妊娠したかもしれない、といった症状でも同様に診察してくれます。

日本では通常、症状によって眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、産婦人科、心療内科などの専門医に行きますが、オーストラリアでは緊急の処置が必要でない限り、まずGPに予約を入れて診察をしてもらいます。GPでは軽い症状の場合は手当をしたり、薬を処方するなどの処置を行う場所。いわば、国民にとって大切な医療玄関であり、適切な治療へのガイダンスをしてくれる場所でもあるんですね。

一方、手術や専門的な処置が必要だと判断された場合はGPからSpecialistと呼ばれる専門医への紹介状を書いてもらい診察の予約をします。例えば白内障の兆候がある、アトピー性皮膚炎の疑いがある、うつの症状が見られる、妊婦検診が必要などの場合です。

もちろん、緊急の場合は総合病院に併設された緊急病院へ!子供や緊急性の高い症状のある人から順番に診察・治療されるため、自己判断で訪れても症状が軽い場合は家に帰されることもあります。大人の場合、頭から流血していても脈と呼吸が安定していればナースが簡易手当をし、待合室で待たせる場合もあるくらいです。患者もタフになりますね。

医療費が無料、オーストラリアの国民健康保険「Medicare」

オーストラリア国民、および永住権を持つ人はMediare(メディケア)と呼ばれる健康保険に入ることができます。メディケアはGPや公立病院で行われる診察費と治療費をカバーしてくれる健康保険で無料になる範囲は広いのが特徴的。よっぽどの重症であったり、大きな手術が必要な場合を除いては費用はかかりません。

メディケアでカバーされないものは、歯の治療(矯正を含む)、美容整形、長期的な治療(慢性的な病気)、美容整形、針・灸治療、エイズ検査・治療、目の病気、救急車の利用など。これらは高額な費用がかかるため、メディケアと並行してプライベート保険に入る人が多いのが現状です。

ちなみに、オーストラリアでは救急車=高額のイメージが定着しており、救急車を呼ぶと距離によって費用がかかるため、田舎に住んでいる人や高齢者の方は念のためにプライベート保険に入っている場合が多いといいます。救急車1台、緊急救命医2名で1時間利用した場合、およそ1,200ドル(12万円)になりますので、決して安いとは言えません。

プライベート保険はカバーする内容や人数にもよりますが、例えば、ファミリータイプなら最低でも月およそ140ドル以上になります。一般的な家庭では「何とかメディケアでまかないたい」という声がある中、「重病になったらどうしよう」という不安といつも背中合わせなのです。そうはいうものの、「プライベートに入ったけど、結局今まで使ったことがない」という人もいるので、高額医療費を負担してくれると言っても、「必要性」については千差万別と言えそうです。

また、2018年4月からプライベート保険がシングルタイプで年間143ドル、ファミリータイプで73ドルの上乗せになると発表されました。2017年9月時点で国内に住む20代のプライベート保険加入者は約106万人、30代では約160万人で下降気味。「50代、60代にならないと、利用しないと思う」という声が多数でした。

日本の医療費は完全無料ではありませんが、一般的な治療においては「高額」というイメージは低いですよね。救急車の利用は治療の有無や民間であるかどうかによって異なるにせよ、基本的に無料であり、一般的なクリニックや診療所でも、また眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、歯科などの専門医でも保険が効きます。

「渡豪前に、歯科検診を必ず受けて」のなぜ?

オーストラリアでは定期的な検診が必要とされる「歯科」での検診や治療にメディケアは対応していません。これは海外から訪れる人が海外旅行保険に入っていても同じこと。歯科医の門をくぐるのは、ある意味、勇気がいることでもあるのです。

留学エージェントが出発前の必須項目として必ず留学生にお願いすること、それが「渡豪前の歯の治療」です。もうすぐ出てきそうな親知らずを抜き、虫歯は全て治療、オーストラリアでは歯科フリーを目指します。なぜでしょう?純粋に治療費が高額だからです。たとえば、詰め物1本最低400ドル(約3万8千円)、抜歯なら一本で1,000ドル(約9万円)といった具合です。

どの世代においても歯の健康を維持することは必要不可欠なこと。しかしながら、オーストラリア国民でさえプライベート保険に入っていないと費用の負担が莫大になるため、歯科医に行くのを躊躇してしまう人もいるほどです。デジタル3Dレントゲン、高圧減菌、レーザー治療と、技術的にはトップレベルを駆使している中、費用においては、18未満のデンタル・ベネフィッツ(年間1,000ドルまで負担)を除き、多くの国民の頭痛の種にもなっているようです。

オーストラリア医療現場にみる今後の動き、日本で取り入れたいサービス

日本を離れてオーストラリアの医療現場に足を踏み入れると、まず多国籍ドクターの多さに圧倒されます。単一国家である日本とは対照的に、移民を積極的に受け入れる国であるオーストラリアでは、年々インドや中国からのアジア系ドクターが増えています。これはGP、スペシャリスト、歯科医、フィジオセラピー、カイロプラクティックなどの共通して言えることで、日々、柔軟で明るい対応で患者の治療にあたっています。

そんな中、「最近オージーのドクターを探すのが大変。この前はアジア系のドクターが担当で、英語がよくわからなかった」と話すオーストラリア人もいます。実際、オーストラリアには英語がネイティブレベルではなくてもドクターになれる環境がありますが、ここで医療側と患者側とのギャップが生まれてしまっているため、双方が満足できるような取り組みが必要であると言えます。

また、日本とオーストラリアの医療現場ではドクターやナースと患者との距離、すなわち「身近さ」に違いがあるように思えます。GPを代表とする医療機関ではドクターやナースが患者と同じ目線で会話をし、ときには冗談を交えながら楽しく診察を行うという風潮があります。

「近所に新しくできたベーカリー、クロコダイルのパイが美味だよ」「そういえば、妹さんは無事大学に進学した?」と、患者の緊張をほぐすホスピタリティの原点が、オーストラリアの医療現場のそこかしこにあります。身近な医療の実践をするオーストラリアならではですね。

加えて、診察時間の徹底管理で時間の無駄を省くのも特徴的でしょう。オーストラリアでは数回にわたり無断で予約時間を守らなかったときはペナルティ的な処置を行うことがあります。オーストラリアの医療現場にいると、明るい表情ながらドクターやナースの動きにさえ無駄がありません。オーストラリアには白衣を着ているドクターもほとんどおらず、チェックのシャツにジーンズで総合病院に勤務する専門医もいます。ナースも花柄で統一されたシャツを着たり、クリスマスにはサンタやトナカイの衣装を来て診察にまわりながら、「たとえ病気でも楽しいことは平等に訪れる」ということを患者に伝えているんですね。

総じて、オーストラリアと日本の医療システムを比べると、一般開業医と専門医の区別、無料のメディケア、サービスの種類で異なる点がいくつかありますが、身近な医療の実践、待ち時間の短縮化・管理の徹底、リハビリ後のコールバック(経過の確認)、定期健診の連絡など、取り入れられそうな部分から皆様の医院経営に活かしていただければと思います。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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