子どもを医師にしたいと思ったら、押さえておきたい3つのこと
2017.12.18
少子化でどう変わる?子どもを医師にするための教育資金
■病院は多いが医師は不足している
まず、日本国内における医師数は2014年時点で約30万人と言われています。日本における医療施設は全国に約18万施設存在し、病院は8,400施設ほど、診療所が10万施設です。人口1,000人当たり臨床医数はOECD平均が3.2人であるのに対し、日本は2.3人しかいません。病院数は世界の先進国の中でもトップクラスですが、実際に診療を行う医師が少ないということが日本の医療界の特徴です。
そのため医学部定員は増加傾向にあり、医者になりたいと考える学生や我が子を医師にと考える親が増えています。しかし、少子化の影響で子ども一人当たりにかけられる教育費が増え、医学部の受験界では「一般サラリーマン家庭の流入」が見られます。枠が広がっている半面、競争も激化しており、決して医師になりやすくなったとは言えません。
過去を振り返ると、医学部入学定員は、昭和30年代には4,000人未満でしたが、1973年の無医大県解消構想が閣議決定されたころに6,000人を突破し、少子化もあって平成に入り減少に転じたあと、十数年にわたって7,600人前後で推移していました。2008年度から増員に転じ、16年度で9,262人となっています。2017年度は9,420人と2008年以降はずっと医学部定員数は増加しているのが現状です。また、現在のところ、医学部定員を削減するという話は聞かれず、現状と同水準で医学部生は増えると考えられています。
■医師の需給推計を見ると
厚生労働省の医師の需給推計によると、基準となる中位推計では2024年、需要を高めに見積もっても(上位推計)2033年ごろには需要と供給が均衡すると推測されています。
医師の給与水準が極端に低下することは考えづらいですが、都市部では給与の低下が起こる可能性があります。現時点でも都市部は医師の需要が満たされており、地方と比べても医師給与が低い傾向があり、都市部の市民病院では40歳で年収1,500万円程度なのに対し、地方の市民病院では2,000万?2,500万円であったというようなケースも存在します。今後も診療科や就業する場所によっては待遇の変化が起きる可能性がありそうです。
■医学部に通うために必要な費用は?
医学部の教育費について見ていきましょう。医学部は学費が高いというイメージがありますが、それも国立と私立で大きく違います。
国立大学は学部にかかわらず学費が一律、年間約54万円で、初年度に入学金約28万円が必要となります。日本の医学部は6年制のため、卒業までに約350万円の学費がかかる計算になります。私立大学は2,000〜5,000万円と大学によっての開きがあります(①)。
近年の傾向としては、国立大学の学費が値上げ傾向にある一方、私立大学は値下げ傾向にあります。国立大学の学費はここ30年で2倍以上となっており、私立では帝京大学が2014年度に学費を前年比約1,170万円引き下げ3,750万円としたのをはじめ、値下げを決める大学が続出しています。
ストレートで医学部を卒業できればこの学費で済みますが、そううまくいくとも限りません。少し古いデータですが2007年の医学部入学者のストレート卒業率は約87%、2008年で約85%、2009年で約84%です。およそ15%の医学部入学者が留年をするため、追加で学費が1年分かかる可能性があります。最も学費のかかる私立の医学部でおよそ600万円の上乗せとなります(②)。
子どもを医師にするまでにかかる教育費は大学で必要になる学費だけではありません。小中高の学費や難関校に合格するための学習塾、家庭教師などにかかる費用もあります。公立校に通うか、私立校に通うかで学費は大きく異なりますが、幼稚園から高校まですべて公立校で約523万円、全部私立で約1,769万円というデータがあります。
一般的な学習塾に必要になる金額は中学から高校までの6年間で200万円程度と言われています。ただし、全国に260校程度ある医療系の予備校には、学費が年間400〜500万円かかるところも珍しくありません。(③)
以上より、幼少のころより医学部を志望して卒業するまでにかかる教育資金は最大で①+②+③=8,000万程度で、その他下宿費や交通費、教科書代等も含めて1億円程度の学資の準備ができていれば、お子様がどのような進路を選んでも一安心できるラインと言えそうです。
■学費と偏差値の「逆相関」
医学部では学費と偏差値が反比例の関係にあります。学費が安いと受験者が殺到し、競争が激しくなるため難易度が上がります。逆に偏差値では最も入りやすそうな大学の学費が最高レベルだったりもします。最近では遠方でもいいから学費の安い国立大学に入りたい人が多く、地方大学の医学部の難易度が東大理Ⅰ・理Ⅱを上回るというる現象が起こっています。
国立大学に負けじと、私立もさまざまな奨学金制度を設けて優秀な学生を確保しようとしています。たとえば慶應義塾大学医学部は、平成27年に、入試上位10人に年間200万円の給付金を支払う奨学金制度を創設しています。
これは、「学力が高ければ経済的に豊かでなくても医者になれる」ということ。学力を高めるには十分な教育が必要であることも事実ですが、経済的理由だけで進学をあきらめざるを得ない人にとっては希望となるでしょう。
■教育資金は最大限を見すえて
小中高と公立校に通い、大学も国公立ならば負担はそこまで高くありませんが、すべて私立校を選び、医学部専門の塾にも通わせた場合など、子どもを医者にするまでに、教育費が1億円を超える莫大なものになる可能性があります。
もちろん国公立に合格し負担が少なくなるなら言うことはありませんが、私立のみに合格して資金不足を理由に進路をあきらめさせることはしたくないものです。
学資だけではなく、卒業後にも、開業時などには莫大な金額が必要となります。教育費があまりかからなかった場合でも、ある程度のまとまった資金を準備しておくことは開業の際に大きな助けとなるでしょう。医学部卒業だけではなく、その先も見すえた資金計画を立てておかれることをおすすめします。