開業医のミカタ

年金の現状とそれを踏まえた準備

2019.10.15

人生100年時代の年金のミライ

2019年6月、人生100年時代に年金資産が2000万円不足するという試算を示した金融庁の報告書が波紋を呼んだのは記憶に新しいかと思います。そして、先日8月27日、厚生労働省は5年に一度の財政検証を発表しました。今回はこれら2つの事例を基に、年金の現状とそれを踏まえて準備しておきたいことについてお伝えします。

重要キーワード『所得代替率』とは?

 そもそも、財政検証とは、2004年度の年金制度改正に伴い、マクロ経済スライドを導入したため、5年ごとに①財政見通しの作成②マクロ経済スライドの開始・終了年度の見通しの作成を行って年金財政の健全性を検証することを目的に作成されているものです。要はこれを検証することで現在の年金制度が将来的にどうなるのかを厚生労働省が正式に分析し、発表している文書なのです。ニュース番組やワイドショーなどでも取り上げられていましたので耳にされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 ここでは検証結果を簡単に解説しながら、今後の年金のミライについて考えてみたいと思います。
 今回の検証ではケースⅠ~Ⅵを例示しながら年金を試算しています。ここで重要となるキーワードは『所得代替率』という言葉です。所得代替率とは、受け取る年金額が現役世代の所得の何パーセントであるかを表す比率のことです。厚生労働省ではこの比率が50%を下回るようなことになれば、「給付水準調整の終了その他の措置を講ずるとともに、給付及び負担の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずる」と財政検証の中で述べています。つまり50%を下回るような場合には抜本的に年金制度を見直さなければならないということです。
 一方で基準となる年金は、今年65歳で年金受給が始まる標準モデル世帯(40年間平均賃金で厚生年金に加入した夫と専業主婦の妻の世帯)で年金月額22万円が基準値になって各ケースを65年先まで1年刻みで試算されています。
 この基準値を基に今回の検証ではどうだったのでしょうか?
 ケースⅠ~Ⅲでは国が試算している経済成長率や女性や高齢者などの労働参加率が達成でき、かつ実質賃金が上がり続けていることが前提になっているため、私個人としては、あまりリアルではないと感じ、ここでは最悪に近いケースⅤの支給額を記します。
 それは、支給額は2044年度には20.7万円にまで支給額が落ち、2050年後半には国民年金の積立金が枯渇してしまうシナリオになっています。最悪のケースであるⅥでも、2052年度には国民年金の積立金が枯渇するシナリオになっています。
 今回の財政検証が示す最悪なシナリオはこれでしたが、今回の検証ではどのケースでも実質賃金が上がり続けることを前提としているため、実際にはこれより更に悪くなることも想定に入れておく必要があるでしょう。
 ここまでは、一般的な会社員世帯を前提とした検証結果をご紹介しましたが、ここからは、医師・歯科医師・開業医に焦点を当て、この年金問題を深掘りしていきましょう。
 大前提として、医師や開業医の皆様の生涯平均年収と今回の財政検証や2,000万円不足問題でベースとなった平均的サラリーマン世帯のそれとは大きな乖離があることがほとんどです。つまり、その乖離が大きければ大きいほど、現役時代の所得の50%以上の年金を得るためには、個人で準備しておかなければならない割合は大きくなります。国民年金のみの個人開業医の皆様であればなおさらです。では、どのように準備をしていくべきなのでしょうか?
 例えば、40歳で開業して、65歳まで個人事業として継続する予定の方であれば、小規模企業共済と確定拠出年金(iDeCoは現在積立期間を65歳までにすることが検討されています)を導入するだけでも(84万円+81.6万円)×25年=4,140万円の退職資金を、所得控除を受けながら積み立てられる計算になります。ご夫婦で満額積み立てれば倍額の8,280万円になりますので、将来の保障に不安を感じられている方は、まずはこのような公的制度をフル活用できているか確認してみてください。
 そして、医師・歯科医師の方の場合、支出の中で大きな割合を占めることの多い、税金と保険を見直すことで生活レベルを落とすことなく安心してリタイアできるだけの資金を確保できたケースも多くあります。収入は増えているのに、あまり手元に残っていないと感じられている方は、ご自身の支出の中で、この税金と保険が占める割合に目を向けてみてください。
 最後に、目的を定めてそこから逆算した計画を立てるヒントとなる一冊の書籍をご紹介します。2016年に刊行された「ライフシフト」(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著)という日本でも話題になった書籍です。「人生100年時代」という、今ではあちこちで耳にするようになった話題のキーワードを提唱したものです。
 簡単に内容をご紹介すると、先進国を中心に医療の発達や科学技術の進歩により、間もなく人類は人生100年時代に突入するとあります。今の20代の方で50%以上の方が100歳まで生きる可能性ができたということを前提に、人類はこれまでの「教育⇒仕事⇒引退」というライフサイクルから、これらを何度も経験していく「マルチステージ」の人生へと様変わりするという内容です。そしてお金などの有形資産の問題は形を変え何度も学習しながら、80代まで働いていく人生設計で必要である。そしてその人生を有意義に過ごすためにも、家族や友人関係、知識、健康といった無形の資産は、それ自体が有意義な人生に不可欠であるだけでなく、有形の金銭的資産の形成を助けてくれると述べられています。
 また、「こうした新たなステージが出現し、その選択肢や順序が多様化するにつれ、年齢とステージの一致を前提につくられてきた企業の人事制度や、教育や労働、結婚といった社会制度も変化を強いられることになるだろう」と著者のリンダ・グラットンはインタビューの中で語っています。
 皆様はどのような人生を、家族や友人、健康や知識などの無形の資産を活力にしながら歩みたいですか?

まとめ

 将来の年金の問題は、皆様にとってしっかりと準備すれば、乗り越えられる問題です。
 しかし、やみくもに報道や社会制度などに不安や不満を持つだけでは未来は明るくなりません! まずは、積み立ての原資、リタイア希望時期、家族構成、リタイア後の夢、そしてその実現に必要な資産の規模などを明確にして、その想いを実現する綿密な計画を立ててみるだけでも、気持ちの持ちようは違ってくるものだと私はこれまでの開業医の方たちへのライフプランのコンサルティングを行ってきた中でしみじみ感じています。
 人生100年時代を生き抜くためには、明確な人生設計、キャリアやスキル、お金などの有形資産をどのように形成していくかといった準備や計画が必須です。
 お金のみならず、時間や精神の余裕など、理想の豊かさとは何か、そのために何をすべきかを考えることが肝要だと言えます。

■プロフィール
山下 晃司(やました こうじ)

シニアコンサルタント。500件以上の医師のコンサルティング実績を誇る。資産形成プランニング、ライフプランニング、財務改善、リタイア・相続プランニングなど医師の人生設計のワンストップ・プラットフォームサービスを手掛けている。

 

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