急速な変化を遂げている医学部教育の現状
2020.09.25
医学部教育の課題と取り組み~医学教育におけるICTの活用事例~
それらの課題を解決するための取り組みの中心の一つとなっているのがICT(Information and Communication Technology)を利用した医学教育です。医学生の教育は将来の医療を担う若手の育成に関わります。
今回は、2023年問題やCOVID-19により進化し続ける医学教育におけるICTの活用事例についてご紹介します。
2023年問題を見越したICTによる臨床教育
2023年問題では、医学部生の臨床実習期間の延長と「見学型」から「診療参加型」への臨床実習形態転換が克服すべき課題として挙げられています。
この二つの課題を解決する取り組みとして、福井大学教育支援センターは活用した診療参加型臨床実習ICT「F.CESS (Fukui Clinical Education Support System)」の開発を行っています。
「F.CESS」は、診療参加型の臨床教育を実現するための臨床教育システムです。学生カルテなどの実習記録を教員が情報共有し、評価や指導を効率化するとともに、システムの中で蓄積されるデータにより教育の改善をサポートすることを目指しています。学生の教員に対する質問や、教員からのフィードバックなどのコミュニケーションを、ICT技術を使うことで円滑にし、教育の質を上げる効果が期待されています。
実際に、2018年より「F.CESS」は福井大学にて運用が開始され、学生や教員から実習体制の改善があるというアンケート結果が得られています。
ウィズコロナ時代の医学教育
このようなICTを活用した医学教育の事例は、COVID-19の流行によりさらに変化を遂げようとしています。2020年7月11日(土)にオンラインで開催された「医学教育サイバーシンポジウム『COVID-19時代』の医学教育」第4回with Corona時代の医学教育でも、福井大学での取り組みが「G Suiteを用いた新たな遠隔授業システム『F.MOCE』とアフターコロナ」というタイトルで、オンライン公開されています。
「F.MOCE (Fukui-Medical Online Communication & Education System)」はG Suite for educationを利用して、福井大学と永和システムマネジメントが共同開発した「授業システム」です。
このシステムを使うことで、教員は簡単に教材コンテンツの管理が可能になり、学生はスマホやタブレットなどの端末環境に左右されずに利用することを可能になりました。教員側がシラバスに基づく科目・講義フォルダの中に教材やテストを用意公開すると、学生側はそれらの教材の学習を進めることができるようになるシステムです。
この発表をした福井大学の安倍博教授は「『教育のICT化』『教育のデジタルトランスフォーメーション』などにおいて、ユーザーのハードルを下げた『誰にでもすぐに使えるシンプル・ソフトウェア』として有効なツール」となる可能性を述べています。「F.MOCE」は対面での学習と遠隔でのハイブリット型授業や、診療参加型臨床実習ICT「F.CESS」との連携も今後の視野に入れて検討中とのことです。
さらに、学生の日々の体温計測の結果も「F.CESS」の中で管理することで、臨床実習の時に学生の体調の様子を可視化することや学生課が管理することも可能になり、ウィズコロナ時代ならではの対策の機能も兼ね備えたシステムと言えるでしょう。
今回ご紹介した「F.CESS」や「F.MOCE」はオープンイノベーションとして公開されることも検討されていますので、今後より多くの医学教育の現場でICTを活用した教育が広まりそうです。
まとめ
2023年問題を発端に日本の医学教育の形は、実習期間の延長と「見学型」から「診療参加型」へと実習形態の質の転換が目指されています。また、COVID-19の流行により、臨床実習への参加ができなくなっている医学生が多い中でも、ICTを活用して、従来以上の質をオンライン上で担保しようとする医学教育のあり方の試みもされています。今回ご紹介した福井大学の例のように、2023年問題やCOVID-19の流行はICTを利用した医学教育のオンラインコミュニケーションやマネジメントの進歩にも繋がっているのです。
日本の医療の未来を支える医学生たちの教育現場には、様々な課題が山積みですが、今後の医療を担う若者の育成のために日々進歩していくことが期待されます。