ファイナンス

がん治療におけるAI活用への期待と課題

2019.09.06

AIが活躍する医療現場~ゲノム分析とがん治療~

AIはさまざまな分野で活躍していますが、医療分野もその例外ではありません。AIを活用することで、より正確な診断ができるようになっています。AIというとIBM社のワトソンを使った画像診断が有名ですが、この記事ではAIを使ったゲノム分析とそれを生かしたがん治療について紹介します。

AIとはどのようなものか

AIを医療現場で使う事例について説明する前に、そもそもAIがなぜここまでさまざまな分野に活用されているのか、その理由を存知でしょうか。
AIとは人工の知能のことで、その人工知能の核を担っているのが、「機械学習」と「ディープラーニング」です。
「機械学習」は機械的に学習することであり、ある特徴を教えておき、大量に画像を見せるなどして学習させることで、より正確に特徴を見分けることができるようになります。
「ディープラーニング」は「深層学習」とも言われ、画像の違いなどの特徴点をAIが自ら学習していきます。
こうした学習を自動で人工知能は行うため、人間ではできない量のデータを解析し、判断することが可能になるのです。これが医療現場でも生かされています。

ゲノム解析とがん治療

そもそもなぜゲノム解析とがん治療が関係しているのでしょうか。がんは様々な遺伝子の異常が積み重なることで発症するということが研究から分かってきました。つまり、同じがんでもDNAの変異したパターンによって効く治療法は異なるということです。
この研究成果をがん治療に役立てる試みがなされています。まずゲノム解析をすることで、個々のがんがどのように発症したのかを突き止めます。そうすることで、がんの発症原因が分かるため、適切な治療法が選択でき、それぞれの患者さんのがん治療に役立てることができるのです。

ゲノム解析とがん治療でAIに期待されていること

ゲノム解析をがん治療に活用することで、がん治療がより適切に行えるということはすでに説明しました。ではそこにAIを活用するとどのような利点があるのでしょうか。
ゲノム解析をすると言ってもかなりのデータがありますし、がんに関する論文をすべて印刷すると富士山の高さを越えるぐらいの量になると言われています。
それだけの量の論文の解析を人間が行うことは不可能です。そのため、そのデータを解析する際にAIが活用されているのです。
IBM社のワトソンはさまざまなビジネスでも使われていて、論文を読んで推論することもできます。ワトソンを活用することで、全ゲノム解析が10分で終わったとの報告もあります。さらにその結果としての診断結果も医師と同じ診断結果になっています。
例えば、がん治療に用いられている「オプシーボ」と呼ばれる免疫チェックポイント阻害薬が、2~3割の人にしか効果が見られなかったという研究結果も出ていますが、この治療にAIを活用することで、事前に薬に適合するか否かをより正確に判断することが可能となり、患者の負担を軽減し、医療費の削減にもつながるのではと考えられています。
このようにがん治療においてAIの活躍が期待されているのです。

AIを用いたゲノム解析とがん治療の課題点

AIを使ったゲノム解析とがん治療がこれだけの効果を発揮しているのであれば、問題は無いのではないかと思われますが、実はまだ全てのがん治療に活用できないのには理由があります。
それはAIで解析するためのデータが圧倒的に足りないということです。データを集めるためには国民のデータを集める必要がありますが、日本では残念ながらそのような体制が整っていません。日本人以外のゲノムデータを使って、ゲノム解析を行ってがん治療をすることもできますが、日本人に特有のがんの原因も考えられます。そうした日本人のがん治療をするためにも日本人の遺伝子データを集めるようにしていかなければならず、現在、国として「AIホスピタル」を2022年末までに10か所運用開始することを目指しています。しかし、日本はアメリカだけでなく、韓国や中国にも後れを取っていると言われています。

医師の代わりにAIが診断する時代が来るかもしれない

今のところ、ゲノムデータが足りないこともあり、全てのがんにAIが活用されてはいませんが、ゲノムデータがそろってくることで、医師に代わりAIががんの診断をし、その治療方針をも示すようになる可能性はあります。
もちろん、それによって医師が不要になるということはないでしょうが、AIを活用していかなければ医療が成り立たなくなる時代はもうすぐそこまで来ているかもしれません。また、IBM社のワトソン以外にも、NEC社もこの分野に参入し、がん治療ワクチンの開発に力を入れています。今後、AIが医療現場にどのように生かされるのか、その最新情報には常に注目しておきたいところです。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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