国内だけではなく、国外の権威ある科学雑誌・医学誌には最新の研究が次々と掲載されています。皆様もご自身のご専門の治療分野について、患者様の治療に役立てるため日々最新の研究をチェックされていることと思います。
今回は一例として、完治が不可能とされてきた糖尿病に関する最新の研究を紹介します。

最新の遺伝子研究

世界の研究者の中で、これまで完治が不可能とされてきた疾病に対し、様々な遺伝子レベルでの治療の研究が進んでいます。
糖尿病治療の分野では、遺伝子組み換えを行った細胞の移植によって、糖尿病を完治できる可能性が出てきているようです。

Matthew Warren., Human cells reprogrammed to create insulin(2019)
https://www.nature.com/articles/d41586-019-00578-z

ヒトの膵臓の細胞をマウスに注入したら、糖尿病が治った！？

ジュネーブ大学のPedro L.Herrera氏他の研究によれば、ヒトの膵臓から取り出したα細胞に特定のDNAを注入して培養したものを糖尿病マウスに注入したところ、糖尿病によって働きが悪くなったβ細胞の代わりに遺伝子が組み変わったα細胞がインスリンを放出し、血糖値が下がったとのことです。
この変化は、細胞の移植後、六カ月たっても、問題なく続いたそうです。

Herrara, et al., Diabetes relief in mice by glucose-sensing insulin-secreting human α-cells(2019)
https://www.nature.com/articles/s41586-019-0942-8

α細胞は通常、グルカゴンというホルモンを分泌していますが、糖尿病によってβ細胞が破壊され、インスリンの働きが悪くなると、α細胞がβ細胞のように働くという事が、Herrara氏の先行研究で明らかになっています。

Herrara, et al., Conversion of adult pancreatic α-cells to β-cells after extreme β-cell loss(2010)
https://www.nature.com/articles/nature08894

α細胞がこのように変化する働きに関わるDNAには、Pdx1およびMaPAといったものがあります。これらを発見したHerrara氏は、これらのDNAをα細胞に注入して培養し、β細胞のようにインスリンを分泌するように変化することを確認したのです。

これからの遺伝子レベルでの治療に期待すること

Herrara氏は、最終的に投薬によって研究の中で行ったようなDNAの変異を引き起こせるようになれば、糖尿病治療はより進歩すると述べています。
しかし、分子レベルでα細胞がβ細胞にどう変化するのかが明らかになっていないことや、Ｉ型の糖尿病では免疫系が変異させたα細胞を攻撃する可能性があるなど、課題も多く存在しています。

iPS細胞をも超える！？最新の糖尿病の研究

過去には、日本で東京大学医科学研究所のチームが2017年にiPS細胞を使い、ラットの体内で膵臓を作り、マウスに移植して糖尿病を治療するという研究を行い、成功しています。

糖尿病ネットワーク「iPS細胞で膵臓を再生　マウスの膵島を「異種移植」　世界初の成功」(2017)
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2017/026461.php

こうした他の動物の中で臓器や細胞を移植する「異種移植」という臨床研究が多く行われるようになってきていますが、こうした幹細胞を移植するアプローチより、Herrara氏の手法の方が確実に働くと見ている研究者の意見もあります。

まとめ

子どもに発症するＩ型糖尿病に加え、現代社会で蔓延している生活習慣病によってもII型の糖尿病は引き起こされます。
平成２６年の厚生労働省の調査によれば、全国で3,166,000人もの糖尿病の患者数がおり、年々増加の一方だと言います。
深刻な現代病である糖尿病も、こうして最新の研究によって治療法が確立する可能性があります。インスリンを注射しなければいけない患者の負担を考えると、こうした取り組みによって完治する可能性があることは素晴らしいことです。
糖尿病以外にも、難治性てんかんである「ドラベ症候群」も、要因となる遺伝子が明らかになりつつあり、完治に向けて研究が進んできているなど、遺伝子レベルでの研究は日々進歩しています。
今回ご紹介したNatureの他、現在ではGoogle Scholar等でも世界中の文献を検索することが可能ですので、是非最新の情報をチェックしてみてください。