賢い投資家になるための隠れた常識とは!?
2019.06.27
ハワード・マークス氏の投資哲学を実践する方法
本書はリーマンショックで最も稼いだ運用会社として知られるオークツリー・キャピタル・マネジメントの会長兼共同創業者であるハワード・マークス氏が、長年顧客向けに送り続けたレターをもとに、読者がこれまでに触れたことのない投資哲学を紹介したものです。世界一の投資家として評されるウォーレン・バフェット氏も、極めて稀にみる実益のある本として大絶賛し、自身が経営するバークシャー・ハザウェイの株主総会で本書を配布したといわれています。
本書はいわゆる投資マニュアル本ではなく、ハワード氏が40年以上かけて磨き上げた実効性ある投資哲学を詳述したものであり、どんな投資環境下でも適切な判断を下すための思考方法を身につけるために参考となる一冊といえるでしょう。
マークス氏の投資哲学の一端
高利回り債(ハイイールド債)と不良債権(ディストレス・デッド)への投資を得意とする、いわゆる逆張り投資家の代表格であるオークツリーを率いるマークス氏は、投資が複雑であり、不変の法則が作成不可能なことを前提に、とりわけ本書では、リスクの概念とリスクをいかに限定するかについて説いています。
投資は未来に対処することであり、未来のことを確実に分かる者はいないからこそ、リスクは避けられず、リスクにうまく対処することが投資における一つの必須要素であるとしています。そこでまずはリスクを正しく理解し、それが高まった時に的確に認識し、そして最も重要なステップとしてリスクをコントロールすることが大切であると考えています。また、リスクには目標とするリターンを達成できないリスクや損失を出すリスクなど様々な種類のリスクが存在し、未来に起こりうるリスクのほとんどは主観的で定量化できないものであるとのことです。
そこで投資信託などの金融商品を選択する際に、リスク調整後リターンを求める客観的且つ最良の指標として、シャープレシオに注目しています。シャープレシオはリスク1単位当たりの超過リターンを測るもので、同じリスクならどちらのリターンが高いかを考える際に役立つ指標です。なお、投資信託評価のモーニングスターのサイトで、株式型や債券型など投資信託のタイプ別や期間などを設定してシャープレシオを比較することができますので参照してみてください。
参照
モーニングスター
http://www.morningstar.co.jp/FundData/FundRankingSharpRatio.do
そして投資リスクは主に株式や投資信託などの価格が高すぎ、または安全性が高い資産の期待リターンが低い一方で、リスクの高い資産が良好な運用成績を上げている、もしくは資金が大量に流入している、融資基準が緩いといった環境下において生じるものであり、マークス氏によると、投資リスクは最もリスクがないと思われるところで最も高くなるとのことです。
そのため、投資を成功に導くカギは、帳簿上の現金や有形資産の価値、利益を生み出す能力といった本質的価値を見極めると共に、人気が高い資産に注目するのではなく、どんな価格で資産を買うか、つまり周りの投資家が投げ売りをしているようなお買い得品を見つけることが重要になってくると説いています。なお投資家の投げ売りが生じる時の具体例として、運用する投資信託の解約が増えている際や、追加証拠金請求(マージンコール)を受ける時を挙げています。
そしてマークス氏は、投資の世界におけるサイクルの存在を指摘しています。たとえば、好調な業績をあげる企業がずっとその調子を維持することや、圧倒的な運用成績をあげる投資信託が永遠に良好な成績をたたき出し続けることはなく、いずれトレンドが転換する可能性が高いと考えています。そして、これまでのトレンドが未来永劫続くと見込んで投資することは、重大な危険の一つだと警鐘を鳴らしています。
また、サイクルの存在と類似した性質として、株式等の証券の値動きや投資家心理は振り子の振動によく似ているとみています。つまり、証券市場は過大評価と過小評価の間を振り子のように揺れ動いており、行き過ぎた相場の動きはほとんどの投資家にとって抗しがたいバブルやパニックを引き起こし、いずれ反転することを理解していれば、多くの利益をあげられる可能性があると考えています。
さらに、優れた投資家は逆張り投資に徹しているとも述べています。つまり多くの投資家によって形成されるコンセンサス(市場の総意)にもとづく投資は避けるべき手法であり、振り子は揺れ動いていることを意識し、最終的にはコンセンサスとは逆方向に動くことが重要であるとみています。多くの投資家から評価されている金融商品に関しては、過去の良好な運用成績をもとに将来も素晴らしい成績をあげると考えるのではなく、その後平均以下の成績に留まる可能性があることを意識しなければならないと主張しています。
そしてマークス氏が2005年に執筆した顧客向けレターにおいて間違った投資家行動として指摘しているのが、リターンを追求するということです。つまり、予想リターンがかつてないほど低い状況でリスクの高い投資を行うのではなく、周りの投資家がリスクを避けようとしているときにリスクをとることが望ましいとしています。まさに逆張りの発想といえる投資行動といえるでしょう。
マークス氏の提示する投資哲学を実践する方法
マークス氏はサブプライム問題とその後ゆっくりと始まった景気回復及び相場の急反発を予測できた専門家ほとんどいないことを例に、自分が知りえることの限界を知り、いざ投資をする際は群衆の期待があまり高くなく、価格が低いことを確かめることで損失を極小化するディフェンシブな投資を推奨しています。
将来起こりうる極端な事象、過去の危機を例に挙げるとリーマンブラザーズ証券の破綻などを予期しそこなう可能性や、極端な事象の波及効果を理解しそこなう可能性を踏まえ、将来の市場の温度を図ることが重要だとしています。
簡単な例を挙げると、景気は堅調か低迷か、貸し手は積極的か消極的か、投資家は楽観的か悲観的か、資産価格は高いか低いかなど、周りの投資家行動や相場をつぶさに観察し、市場サイクルのどの位置にいるのかを推察することで、仮に他の投資家が積極的にリスクをとっているのなら慎重に振る舞い、パニックに陥っているときには積極果敢に行動すべきだということです。
今回ご紹介したマークス氏の投資哲学の一端であるリスクの把握の仕方やサイクルの存在、振り子の振動、逆張り投資などは、投資家は誰でも意識して実践できる考えです。投資家ほど、普段から積極的に投資をされている方でなくても、人生100年時代における資産形成手段として、NISAの個別銘柄を選別する際や、iDeCoで購入する投資信託を検討する際など、マークス氏の教えがリスクを抑えた着実な資産運用のヒントとなるのではないでしょうか。