稼ぎ方によって異なる税金の計算方法
2019.01.15
若手医師のための確定申告入門 vol.1
それに伴い、税金の申告をどうしたら良いのかと悩まれる先生方も増えてきています。医院でのアルバイトなどであればベテランの先生や、病院で契約している税理士の先生などに相談できる場合もあるかもしれませんが、特に、これまであまり医師が活躍していなかった分野であれば、誰に相談したら良いのか悩んでしまうこともあるでしょう。
この記事では2回に分けて、所得税の計算方法と、はじめての確定申告に向けた注意点について解説します。
1 年末調整と確定申告の違い
医院に勤務されている先生方は、勤務先の医院にて年末に年末調整を受けていることでしょう。年末調整が所得税に関する手続きだということはご存知であっても、確定申告との違いがよくわからないとお悩みの先生方もいらっしゃるようです。
簡単に言うと、年末調整とは確定申告の簡易版です。本来であれば、その年に所得があった方は全員が確定申告をして納税すべきなのですが、一般のサラリーマン全員が確定申告をするのは大変ですし、受け付ける税務署も申告件数が多すぎて困ってしまいます。
そのため、会社から給与を受け取っているサラリーマンの税金は、雇っている会社が代わって計算するよう義務付けられています。これが年末調整です。
その年に会社からの給与以外の収入がなかったサラリーマンは、年末調整を受けることで確定申告の必要がなくなります。したがって、会社からの給与以外の収入がある場合や、5ヶ所を超える自治体へのふるさと納税を行ったとき、医療費や住宅ローンなど、年末調整では対応できない控除があった方のみが確定申告をすることになります。
また、本業の会社で給与を受け取って、年末調整を受けている方に本業以外の所得があった場合でも、本業以外の所得が20万円以下であれば確定申告は不要とされています。ただし、その場合であっても住民税の申告が必要となりますので注意しましょう。
ただし、確定申告をした場合には、住民税の申告をする必要はありません。併せて確認しておきましょう。
医院に勤務されている医師の先生方であっても、年末調整と確定申告の関係は同様です。しかし、2000万円以上の給与を受け取った場合など一定の場合には例外的に年末調整を受けることができず、確定申告をしなければならないこともありますので注意が必要です。
2 所得区分ごとの特徴と計算方法の違い
一口に他の仕事をしていると言っても、その仕事の種類ごとに税金の計算方法が異なります。仕事の種類のことを、所得税の用語では「〇〇所得」と表現します。
例えば、他の医院でアルバイトをする場合には給与所得ですし、株式の売買益を得ているのであれば譲渡所得となります。しかし、仕事の内容で該当する所得を判断するのは必ずしも簡単ではありません。
例えば、執筆や講演をする場合には小規模であれば雑所得、本業同然に行っているのであれば事業所得に該当します。また、一般的には不動産を5棟以上、または10室以上賃貸している場合には事業と言えるほど大規模なので事業所得、それ以下であれば不動産所得に該当すると国税庁から通達が出ています。
ここでは、それぞれの所得区分ごとの特徴をご紹介します。
<給与所得>
その年に給与を受け取った場合には、1年間に受け取った給与の額により計算される「給与所得控除」を、1年間に受け取った給与から差し引いて給与所得を計算します。時間があるときに他の医院でアルバイトをした場合なども給与所得に該当します。
本業の給与を元に給与所得控除が計算されるのではないかと誤解されている方がいるようです。おそらく、本業の勤務先で年末調整を受ける際に給与所得控除が反映されることを受けての誤解だと思われます。
しかし、本業の勤務先で年末調整を受けていたとしても、複数の勤務先から給与を受け取った場合には、原則として確定申告をしなければいけません。確定申告の際に本業以外からの給与も給与所得控除の額に反映されますので、ご安心ください。
また、給与を受け取る際には使用者が法律により定められた金額を源泉徴収して、つまり差し引いて支給されます。
なお、源泉徴収されている金額の全てが所得税だと誤解されている人がおりますが、所得税・住民税、雇用保険料、社会保険料がそれぞれ源泉徴収されているのが一般的です。
源泉徴収は税金を先に預けているようなイメージですので、年末調整や確定申告によりその年の税額が確定した際に、不足していれば追加で納税しなければいけませんし、多すぎていれば還付してもらえます。
それぞれの勤務先から受け取る給与から源泉徴収されている場合には、還付が受けられる可能性が高くなりますので、忘れずに確定申告を行うようにしましょう。
<雑所得と事業所得>
雑所得とは、他の所得区分に当てはまらない所得のことを指します。1年間に受け取った金額から1年間に支払った必要経費を差し引き、雑所得を計算します。
よく事業所得との区別が話題になりますが、本業としてそれだけで生活ができるほどの規模の仕事は事業所得、お小遣い稼ぎ程度の仕事は雑所得だと言われています。しかし、明確な線引きがないため、実際には判断が難しいケースも多くあります。
事業所得と雑所得の大きな違いは、事業所得は赤字が発生した際に給与所得との損益通算が可能で、赤字を翌年以降に持ち越すこともできますが、雑所得はそれができないという点です。
また、年間の事業所得が290万円を超えた場合には事業税が課税されますが、雑所得には事業税が課税されません。
副業を始めようとする場合には、赤字となってしまった場合に備えて事業所得として申告しようとするのが一般的です。しかし、医師の先生方が営む事業の場合には、赤字が発生する心配よりも大きな利益が出た際の税金を心配された方が良いケースが多いでしょう。
事業所得とも雑所得とも判断できる事業を営む場合で、あまり赤字の心配がない場合には、事業税を考慮して雑所得として申告するのも一案です。
<申告分離課税>
これは正確には所得区分ではありませんが、他の所得とは別枠として扱われる所得があります。例えば、株式投資をしている場合やFX、CFDなどの投資により利益を得た場合には、利益の額にかかわらず所得税と住民税合わせて、その20.315%の税金を納めることになります。
正確には、株式投資による売却益は譲渡所得、FXやCFDによる利益は雑所得なのですが、確定申告をする上ではあまり気にせず、他の所得とは別枠で税金を計算すると理解されていれば大丈夫です。
3 確定申告の流れ
それぞれの所得区分ごとに計算した金額をすべて合計(申告分離課税を受ける所得を除きます)した金額を「合計所得金額」といいます。一般のサラリーマンであれば額面給与のことを年収と表現しますが、複数の所得がある方の場合には合計所得金額のことを年収と表現することが多いようです。
所得税の計算をするにあたり、合計所得金額から社会保険料や生命保険、地震保険などの各種控除を差し引いた金額(確定申告書には課税される所得金額と記載されています)に税率を乗じて、その年の所得税を計算します。
4 まとめ
今回の記事では、はじめて確定申告をする若手医師向けに、確定申告手続きの流れについてお伝えしました。次回ははじめての確定申告に向けて、最低限保存しておかなければならない書類や気をつけたい点について解説します。