シリコンバレーも注目する「ヘルスケア×テクノロジー=ヘルスケアテック」とは?
2017.12.11
人生100年時代の到来〜テクノロジーが医療を向上させる〜
■メアリー・ミーカー氏の「インターネット・トレンド」にも登場
世界中のインターネット業界関係者が毎年注目している、証券アナリストであるメアリー・ミーカー氏による「インターネット・トレンド」というネットの最新トレンドレポートがあります。この2017年版で初めてヘルスケアへの言及がありました。レポートにヘルスケアが登場したことは、ヘルスケアテックがいよいよ本格的に広がることを示唆していると言えるでしょう 。
レポートには、ウェアラブル・デバイスの出荷数の急増、フィットネスをはじめとしたヘルスケア関連アプリのダウンロード状況、ヘルスケア関連のデジタルデータの大幅な増加などが取り上げられており、これらのデータから、ヘルスケアへのテクノロジーの活用が進んでいることがわかります。
すでに実用化されているものには、スマートフォンを利用した健康管理や遠隔診療があります。その他にも病気予防、薬の管理、医療記録の管理、メンタルヘルス、小児ケアなど、さまざまな分野での活用が進んでいるのです。
■ヘルスケアテック、日米スタートアップの状況は?
具体的に日本と米国のヘルスケアテックの動向を見てみましょう。
まず「遠隔診療」の分野では、Doctor On Demand(米国)やcarely(日本)などのサービスがあります。Doctor On Demand はアプリやWebでテレビ電話を利用し、医者の診察を受けることができるサービスで、carely は、医師、看護師、保健師、カウンセラーにチャットで相談できる法人向けの健康相談サービスです。
「予防」の分野では、Omada Health (米国)やiPrevent(日本) などがあります。Omada Healthは、デジタル機器のデータを活用した糖尿病予防サービスを提供しており、iPreventは、生活習慣を改善するプログラムであり、ウェアラブル・デバイスによる生活習慣のモニタリングを行い、かかりつけ医などが6ヵ月間、健康改善支援を行ってくれます。
「薬剤」に関する分野では、米国のスタートアップ企業であるプロテウス社が大塚製薬と協力して開発したデジタルメディスン(服薬測定ツール) が注目されています。デジタルメディスンとは、薬(錠剤)に微小センサーを埋め込み、患者の服薬状況を記録し、スマートフォンなどを通じて患者や医療従事者へ情報提供するものです。これにより服薬ミスによる病気の再発リスク低減などが見込まれます。
「医療記録管理」では、ChartSpan(米国)が 診断記録などの医療情報管理プラットフォームを提供しています。これにより医師はスマートフォンやパソコンなどがあれば、その種類を問わず医療情報にアクセスできるようになります。患者はアプリを使うことで、医療機関からの診断記録の入手や管理などを行えます。
「メンタルヘルス」分野で注目されているサービスの一つに、音声気分テストEmpath(エンパス、日本)があります。 声から気分を測定できるアプリで、気分の浮き沈みを定期的にチェックし、ストレス対処やスポーツのメンタルトレーニングなどに活用され始めています。ヘルスケアのみならず、ゲームやコールセンターにおけるマーケティングなど、ビジネスでの活用も期待されています。
スタートアップ企業の多くは、プロダクトやサービスのリリース、ビジネス拡大のために資金を調達しています。これらのスタートアップ企業への出資金額を日米で比較してみると、米国では、Doctor On Demandが2015年に米ベンチャーキャピタルのTenaya Capital などから5,000万ドル以上を調達 しています。また、Omada Healthは2017年に米医療保険会社Cignaなどから5,000万ドル を、プロテウス社は2014年に大塚製薬などから1.72億ドル を調達。一方の日本では、carelyがインキュベイトファンドから1億円を調達 しています。一般にスタートアップの資金調達額は、「ステージ(企業の成長段階)」によって大きく変わります。日本に比べ、米国のスタートアップは10から100倍の資金を調達していることから、米国のヘルスケアテックが日本の何歩も先を行き、シリコンバレーなどから注目されていることがわかります。
■ヘルスケアテックはこれからどうなるか
ヘルスケアテックの開発が進めば、医師がいろいろな面でサポートを受けられるようになります。診断精度の向上が期待され、患者などサービス利用者は、自身の医療・健康管理情報へアクセスしやすくなり、遠隔診療や体調監視などの活用で、より充実した医療・病気予防・健康管理を受ける機会が増えることでしょう。
これらの実例を見ると、スタートアップがすでにヘルスケア分野で活躍し始めていることがわかります。もちろん大企業も参入し、スタートアップと協業して技術・サービス開発を進めていますが、「イノベーションのジレンマ」という言葉もあるように、大企業はなかなか先進的な技術開発に力を注ぎきれません。だからこそ技術力やアイデアのある小さなスタートアップが活躍しているのです。
イノベーションを起こし、ヘルスケアテックを進化させるにはスタートアップの存在は欠かせません。しかし中には、虚偽の技術アピールで急成長したセラノス(米国)の例もあります。同社は指先から取った少量の血液から検査が安く早くできるという触れ込みで高く評価され、創業者の女性は「自力でビリオネアになった最年少の女性」ともてはやされました。しかし、その技術が虚偽であると大手メディアに報道され 、また投資を集めるために虚偽報告をしていたとして訴えられるなど 、一気に失墜しました。
先進性が高ければ高いほど、それまでの価値観では判断できません。夢のような技術やサービスにはつい高く評価してしまいがちです。生命にかかわる技術やサービスの向上には、期待を抱きつつも注意深く見守る必要がありそうです。