MANAGEMENT

一般常識と真逆の方針を打ち出しながら増収を続ける株式会社武蔵野の経営理論とは?

2018.06.27

小山昇に学ぶ経営論

クリニック経営において、経営学は参考になりますが、実践で役立つとは限りません。あくまでも実務におけるノウハウを集約させた経営論を参考にすることで、現状抱える課題の解決策なども見出すことが可能となります。
今回は、日本経営品質賞を2度も受賞した株式会社武蔵野を率いる、小山昇氏の経営論をご紹介します。株式会社武蔵野はダスキン事業を基盤とした一般の会社ですが、その経営理論は、クリニックを経営されている皆様にも参考になるであろう点が多く見受けられます。

常に新規顧客開拓をせよ

クリニック経営において、リピート患者を増やすことに注力せよという意見があります。新規顧客とリピート客とそれぞれの獲得にかけるコストの割合は5:1と言われるため、効率良く収益を上げようと考えると、再来院してもらえるような施策の方が、費用対効果が高いと考えられているためです。
しかし、小山昇氏は、もちろんリピート客は大事だが、常に新規顧客獲得の手を緩めるなと提唱しています。株式会社武蔵野では経営コンサルティングも行い、多くの企業の経営サポートを行っています。その中で、次のような事例を用いて、新規顧客獲得を維持する必要性を説いています。

ある大都市およびその近郊にある人気の飲食店がありました。
その店は、味の良さはもちろんのこと、良心的な値段と継続的に行う従業員の教育によるサービスの質の良さが地元で受け入れられていました。そのお店は、地域密着で常連客が多く、メニューも常に見直して改善をしていたにも関わらず、倒産してしまったのです。その倒産の理由は、新規開拓を行っていなかったことにありました。常連客を増やすための努力を怠らず、常連客から評判が広がるという目論見に反して、徐々にその常連客が少なくなっていったのです。

小山昇氏はこのような出来事が起こる原因を次のように語っています。
「街の住人というのは不変のものではなく、流動的である。実際に株式会社武蔵野の商圏で調べていたところ、5年で2割以上は既存住民がいなくなっている。これは進学や就職、出産や転勤など人生の節目において転出し、そして新たに転入する住人があるのだ」と。
この事例からも、新たに転入してくる住人に対して、常にチラシのポスティングやビラ配りなどのアピールをせずに、既存客のリピートにばかり力を入れていては、やがてその数が減っていくのは当然の結果であることがわかります。

社員教育に必要なのは質ではなく量である

優秀な人材を育てたいと思うのはどの企業でも、またクリニックでも同じです。そのために経営者はできる限り、質の高い教育をしたいと思うのではないでしょうか。それに対して小山昇氏は、教育は質より量を重視せよと説いています。

スタッフの教育には時間もお金もかかります。
同じお金をかけるなら高度な教育を数回行うよりも簡単な教育を繰り返せというのが小山氏の理論です。それは、どれだけ勉強が苦手なスタッフでも、簡単な勉強をひたすら繰り返し行っていれば、必ず成長が見られるが、そのようなスタッフに高度な教育を行っても、おそらく成果は出ないだろうという考えに基きます。

その理論を基に、株式会社武蔵野では、年間に1億円の教育研修費を使っているそうです。それも、教材として使っているのは「仕事ができる人の心得」と「経営計画書」の2つのみを使って早朝勉強会を行っています。

しかも、その勉強会に参加すれば参加費として500円が社員に支払われる仕組みで、これは社員でもパートでも同じです。ただし、さぼれば逆に給料が減る仕組みとなっているため、嫌でも参加せざるをえず、そこで同じことをひたすら繰り返すことによって、誰でも自然と覚えられるようになっているのです。

このように、繰り返し同じことを教育ことで、社員は10年も立てば社長である小山昇氏と同じことを言うようになるそうです。これは顧客から見ると、同じことを誰に聞いても同じ答えが返ってくるという安心感につながるのです。

借金してでもキャッシュを残せ

株式会社武蔵野がコンサルティングをしていた、ある製紙会社がありました。この会社ではトイレットペーパーを製造販売していたのですが、かつて借入金が40億円あり、金利だけで年間1億円は支払っていたそうです。

そこで社長はこの借金をできる限り返済して、湯水のように流れる金利負担を減らそうと考えました。それに対し借金を返すお金があるのなら、手元に残しておくように、と、小山昇氏は反対したのです。

その後2011年3月11日、東人本大震災が発生します。震災後に電気・ガス料金が値上がり、利益率の低いトイレットペーパーは製造すればするほど赤字を膨らましていたそうです。そして2014年に転機が訪れます。消費税率が5%から8%に引き上げられ、このタイミングでトイレットペーパーの価格を1ロールあたり1円値上げしました。この会社では年間5億ロールを製造販売していたので、単純に計上利益が5億円増えることになったのです。

震災から3年、毎年1億円の金利を払い続けましたが、手元に現金があったのでなんとかしのぐことができたのです。多くの会社は運転資金調達のために銀行からの借入を希望しましたが、それも叶わずに倒産しています。

銀行は普段借り入れをしている会社にはお金を貸しますが、借金とその返済の実績がない会社には貸しません。いざという時に現金が必要になっても、無借金経営をしている会社は資金調達ができずに息詰まることになります。この製紙会社はその後も借入を増やし、長期借入金は84億円になっています。そのうち47億円は手元に残し、いざという時のために備えているそうです。もちろん、借入の金利は経費計上できます。そのため、本来は税金として納めるお金の一部が、現金として手元に戻ってくるわけです。
ちなみに無借金経営で有名な任天堂は、キャッシュとして粗利益の1年分以上を保有しています。

5年で売り上げを2倍にする経営計画を立てよ

小山昇氏は、経営計画書を作ることにもこだわっています。そして5年で売り上げを2倍にする計画を立てよと言っています。これは毎年15%の売り上げ増加を必要とする数字です。

経営計画書に関しては実は賛否両論と言えるでしょう。例えば百均のダイソーでおなじみ大創産業の矢野博文氏は、未来の計画を今作るのは難しいと、経営計画書を作らなかったことでも有名です。特に変化の早い社会環境の中で長期計画を立てることに意味があるのかという声もあります。

しかし、小山昇氏は、別の視点からその必要性を説いています。
年間15%の売り上げ増加は、生半可なことでは達成できません。あれこれと考えても、良い計画など所詮立てられるものではなく、年間15%売り上げを増やすために何をしなければならないのかを必死に考えるようになることに小山氏は着目しています。つまり、その言葉通り5年先を見るのではなく、今すべきことに集中せよと言っているのです。

さらに、経営者には決断力とそのスピードが問われると言っています。何が良いのかは社長が考えることではない、お客様が考えることなのだと。そのためにはとにかく良いと思えることは何でも実行し、それが受け入れられたならば正解であるとせよ、もし受け入れられなければ修正すればいいと言います。また、あれこれ考えている間に世の中は変化し、ライバルも増えて出遅れてしまう。とにかく決断し、実行してその成果を確認せよと説いています。その中でどの方策が売り上げ15%の増加につながるのかを見ればよい、というわけです。更に、経営計画書は毎年見直し、常に1年分を更新するようにと言っています。

まとめ

このように、世間一般では正しいとされることにも、小山氏は異を唱え会社を統率しています。世間一般で言われる正解と真逆とも思われる方針を打ち出しているにもかかわらず、それぞれに明確な理由があるため、株式会社武蔵野は16年間も増収を続けています。皆様が経営方針を立てられる上でも、何かしらの役に立つのではないでしょうか。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部