スタッフを引きつける医院をつくる
2017.03.07
スタッフの心をつかむコツ
本音を聞き出す質問とは
スタッフの定着率を上げるそのヒントは、都内にある人気の居酒屋にありました。
アルバイトスタッフが多いということもあり、スタッフの入れ替わりが激しい飲食業界ですが、そのお店のスタッフ定着率はなんと92%! これは驚異的な数字です。このお店は大学生のアルバイトスタッフも多いですが、ほぼ全員が卒業まで続けるそうです。
着目すべきは、そのお店がオープンしてから7年間続けている1つの習慣=『2ヵ月に1度の個人面談』です。
社長自ら20人以上のスタッフ1人ずつと、営業の合間をぬって30分から1時間程度かけて、社員も、週1日勤務のアルバイトも関係なく行っているそうです。そして、その面談の中で必ず3つの質問をするのだとか。
1つめは、「最近、どこか遊びに行った?」
2つめは、「最近、何か美味しいもの食べた?」
そして最後に、「最近、なんか気になっていることある?」
2つめまでは雑談ですが、これでスタッフがリラックスできる環境をつくっているんですね。美味しいものに関しては新しいメニュー案の材料にもしているようです。そして最後の質問が本題。スタッフの『ガス抜き』と同時に、お店の中で起こっている問題を発見する役割を果たしています。
困ったことや悩みを相談するのは勇気がいります。愚痴と思われるのも嫌だし、他のスタッフもからむ内容であれば、何か告げ口みたいになってしまうのも避けたい。社長にこんなこと言ってもいいのかな、と思うこともあるでしょう。
ですので、「何か困ったことある?」と聞いてしまうと何も引き出せないことが多いのです。しかし不思議なもので、雑談をした後に「何か気になっていることある?」と言われると、「そういえば…」と出てくるのです。
スタッフとのコミュニケーションに必要なのは、『質』ではなく『量』です。会話の量を意識することがスタッフとの関係性の向上につながるのです。面談というのは、忙しさを言い訳についつい後回しになってしまいがちなことですので、予めスケジュールに組み込んでおきましょう。
そうすることでスタッフはどう思うでしょうか。
「私のために、わざわざ時間を取ってくれるなんて」
「今度の面談の時に、あのこと聞いてみようかな」
「スタッフのことをいつも気にしてくれているんだな」
コミュニケーション不足は、そのまま人材不足につながります。もしあなたが、院内でのコミュニケーションが不足していると少しでも感じたことがあるなら、ぜひ試してみてください。予想以上の手応えがつかめるはずです。
1つだけ注意しなければならないのは、院長が話しすぎないことです。せっかくスタッフの口から院内の問題点を引き出せても、話しすぎることで『指導』になっては意味がありませんからね。8割ぐらいの感覚で『聞く』ことを意識すると、スタッフはどんどん話してくれます。
そして、自分の話を聞いてくれる人を、「嫌い」という人はいないものです。あとは、いつから始めるか。スタッフも、きっと喜びますよ。
人事考課制度を正しく運用するには
多くの企業が、『人事考課制度』というものを正しく運用できていません。
ですから若いスタッフは、人事考課制度を 『評価という作業を簡単にする、役職者のためのツール』 程度にしか思っていないのです。
人事考課表を渡されたら、設定された各項目に対して10段階方式で自己評価をして上司に提出。受け取った上司も、同じように評価を10段階方式で数値に置きかえ、2~3行のコメントを加えて完了。時間にしてわずか3分。「おお!あっという間に終わったぞ」といった具合に。
たとえば10段階のうち、『6』 と 『7』ではどの程度の差があるのか。『10』 とはどういうレベルなのか。すでに自己評価の時点で基準そのものが破たんしていても、数値化されるのでデータにまとめるのは簡単。あとはエクセルに判定をおまかせ。世の中便利になったものです。
冗談のような話ですが、実際にその程度の運用しかされていない企業も少なくありません。しかしそうした企業も、人事考課制度を導入した時点では違ったはずです。経営者として、スタッフを正しく公平に評価しよう、とスタートしたはずなのです。
『人事考課制度』とは本来、スタッフを認め、守るためのツールです。しかし役職者の仕事を楽にするためのツールに成り下がってしまうのは、途中で必要なものが抜け落ちてしまうからなのです。
人事考課制度に必要なもの。それは、『透明性』、『公平性』、そして『一貫性』です。
まずは『透明性』、見せることです。人事考課表に並んでいるような項目を、スタッフが普段から目にすることはできるでしょうか。何が評価され、NGとされるのか。誰もが、いつでも見ることができないようでは、興味をもつことすらできません。
次に『公平性』、診させることです。スタッフのキャリアやステージに合わせて、評価基準をレベルアップさせていくのはもちろんですが、なるべく多くのステップをつくることが大切です。今、自分がどの位置にいるのか。何をどうすれば1ステップあがることができるのか。自分のステップを自ら診断することができれば、必然的に公平な評価ができるのです。
そして最後に『一貫性』、魅せることです。もちろん、ときには変化も必要です。時代が変われば文化も変わりますからね。だからといって、方針や評価がコロコロ変わるようでは、制度そのものに対する不信感が生まれます。人付き合いと同じで、一貫性があるというのは、それだけで魅力です。
くり返しになりますが、人事考課制度とは、スタッフを認め、守るためのツールです。それはそのまま、あなたの医院の存在意義を認め、守ることになります。そうなれば、もうスタッフは医院から離れようとはしないでしょう。
評価を伝える時に大切なこと
スタッフに評価を伝えるとき、あなたは何を伝えますか?
人事評価についてスタッフとの面談を行う医院は多いですが、事前に、何をどう伝えるのかまで組みたてる方はほとんどいません。考えをまとめる前にいきなり話してしまった結果、
「あれも伝えておけばよかった」
「あれは余計な一言だったかな」
と後悔したという方も多くいらっしゃいます。
脅かすつもりはありませんが、特に人事評価のような場面では、何をどう伝えるかによって相手の人生を変えてしまうこともあるのです。
そこで今回は、評価をスタッフに伝えるために大切な2つのことについてお伝えします。
まず1つめは、事前準備をすること。
たとえば、ある女性スタッフが髪形を変えてきたとしましょう。ほめるにしても、
「あ、髪形変えたんだね、いいじゃない」というのと、
「あ、髪形変えたんだ? なんかすごく表情が明るくみえていいね。けっこう気分も軽くなったでしょ?」
とでは、かなりの差がありますよね。逆に、
「髪形変えたんだ? いいじゃない。前はもっと暗い感じだったもんね」
となってしまうと、褒めているのか、けなしているのか分かりません。いわゆる 『ほめ上手』 な人というのは、髪形一つにしても相手がよろこぶほめ方を何パターンも持っています。事前準備ができている、ということです。こういう人の周りには、自然に人が集まってくるものです。
もう1つは、伸びしろにフォーカスするということ。
人事評価となると、つい相手の苦手な部分に目がいってしまうもの。『評価』ではなく、『指摘』 になってしまっては、面談そのものに抵抗を感じさせてしまいます。それよりも、伸びしろにフォーカスすること。誰にでも苦手なことはあります。組織に迷惑をかけるようなレベルでは問題がありますが、そうでなければ最低限のレベルをクリアすれば充分です。
減点方式、100点満点の評価の仕方では、どうしてもマイナス面だけに目がいってしまう。同じ50点でも、
「あなたは50点です」ではなく、
「あなたのこの部分を伸ばせば、60点、70点程度ならすぐですよ」という表現にするのです。
相手を認めるところからスタートすると、驚くほどの成長を見せてくれます。おとなしく目立たないスタッフほど、小さなミスをくり返すスタッフほど、その傾向は強く、出来る部分を認められることでやる気を発揮しやすいのです。
スタッフに評価を伝えるときは、何をどう伝えるべきなのか、伸びしろにフォーカスしながら事前に準備すること。これを続けていれば、スタッフはどんどん成長します。