リーダーシップと組織づくり
2017.02.27
院長は嫌われるものなのか?
しかし現実問題として、それほど簡単なことではないというのも、また事実です。では、あるべきリーダーの姿とは一体どのようなものなのでしょうか?
リーダーに求められるのは『嫌われること』なのか?
少し伝え方を間違えれば、やれパワハラだ、セクハラだといって院長(=リーダー)の立場やポジションそのものが脅かされる。そうして部下の言動にふり回される院長も、少なくありません。それに、たとえそれが仕事であれ、「みんなと仲良くやっていきたい」と思うのは、1人の人間としてごく当たり前の欲求です。嫌われることもあるかもしれない。でもなるべくなら、和気あいあいと仕事をしたい。それが院長達の本音ではないでしょうか。
『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健 著/ダイヤモンド社)が発行部数130万部を超える大ベストセラーとなった背景には、そうしたリーダー(院長)達が抱える憤りや悩みの深さがあるのかもしれません。
この『嫌われる勇気』の中では、対人関係という、ともすれば抽象的になりがちなテーマが、哲人と青年の対話という形で極めてロジカルにまとめられています。
例えば『すべての悩みは対人関係の悩みである』という前提のもと、世界はシンプルで誰でも幸せになれるとした上で、『幸福とは貢献感、つまり誰かの役に立っているという思いである』と結論づけています。そしてその過程において、以下の言葉が並びます。
「他者が自分に対して下す評価も、嫌われることも、それは他者の問題である」
「他者の期待など、満たす必要はない」
「自由とは、他者から嫌われることである」
「他者をほめてはいけないし、叱ってもいけない」
「いちばん大切なのは、他者を評価しないということ」
もちろん、これだけを読むと多くの疑問が湧き上がってくるのですが、その疑問を青年が哲人に問いかけることによって1つずつ丁寧に解説され、『幸福とは貢献感』という結論につながっていきます。
読み終えたとき、この物語に対する解釈や感想は人それぞれでしょう。ただ間違いなく考えさせられるのは、組織においてリーダーが求められるものの本質です。それは好かれる・嫌われるという単純なものではなく、何のために存在するのかということ。そして組織をあるべき姿に育てるには、リーダーにどんな行動が求められるのか、ということです。
もちろん、考えたからといってすぐに答えが導きだせるとは限りません。ですが、考える時間を持つこと。それもまたリーダーに求められる行動なのではないでしょうか。
リーダーは推されてなるもの
スターバックスコーヒージャパンのCEOとして過去最高売上を達成した経緯を持つ岩田松雄氏。彼は著書『ついていきたいと思われるリーダーになる51の考え方』の中で、「リーダーになろうとするのではなく、まわりに推されてリーダーになる。私はこれが、理想のリーダーの姿だと思っています」と語っています。
リーダーに欠かせないものといえば、突出したカリスマ性や強烈なリーダーシップをイメージする方も多いでしょう。しかし岩田氏は、リーダーは弱くても構わないし、輝かしい経歴やカリスマ的な雰囲気などいらない、といいます。そんなことは上辺だけのことで、本当に見られているのは人間性なのだと。
たとえば苦しかった経験や挫折体験を語ること。分からないことは分からないと認め、立場や年齢に関わらず意見を求める姿勢など。日々の言動を周りの人は見ており、その上でまわりから押し上げられる人物こそ、リーダーにふさわしいということなのでしょう。いかに崇高なミッションを掲げようと、どれだけ仕事に対する情熱を語ろうと、それを支持してくれる人がいなければ何もできないのです。
そして人間性は、日々のコミュニケーションによって培われていくということも具体例を挙げて書かれています。たとえば部下の方から意見をすることは、やはりハードルが高いものですよね。だからこそリーダーの方から積極的に意見を聞きにいく姿勢や、自分の意見を出しにくい若手社員から先に意見を求めるという配慮、部下の意見もしっかりメモを取ることで発信される、「あなたの意見を一生懸命聞いていますよ」というメッセージなどが、より濃密なコミュニケーションにつながり、信頼関係の基盤となります。
さらに、岩田氏の失敗談が紹介され、『わかりやすい言葉で話す』ことの重要性も語られています。社長を初めて経験することになった会社での就任演説。自分の考えをしっかり見せないと、と気負ったせいか、その内容は『企業価値経営』や『キャッシュフロー経営』などといった、ビジネス用語で埋め尽くされたものでした。もちろん、目の前の社員には届きません。自分の生活や未来に結びつけることができなかったためです。
この失敗をもとに、次に社長就任演説を求められたザ・ボディショップでは、一緒に働ける縁を大切にしましょう、自分の大切な友人を自宅に招く気持ちで接客しましょう、といった身近に感じる内容でまとめました。これを聞いた女性社員の何人かは、涙を流して聞いていたそうです。自分たちの明るい未来が見えたからではないでしょうか。
他にも、オープンに出来る情報はできるだけオープンにすること、キャッチーなフレーズ(コンセプト)を作って目指すべき方向性を統一すること、大切なことは面倒でもくり返し伝えることなど、濃密なコミュニケーションを図るための努力を惜しまなかったそうです。それが結果として右肩上がりの業績という形で現れたのではないでしょうか。
・部下はリーダー(院長)の仕事ぶりだけでなく、その人間性を見ているということ
・その人間性は、日々のコミュニケーションによって育まれるということ
・コミュニケーションはリーダー(院長)の努力・工夫次第で浅くもなり、濃密にもなるということ
岩田氏の努力を知ると、『リーダーシップとは生まれながらのものでは決してない』という言葉の意味が、少しずつ分かってきます。
この本を手にして、あなたにとっての『理想のリーダーの姿』について考えてみてはいかがでしょうか。