創業200年の老舗理容室で 若き八代目として個性を発揮
2019.04.21
200年以上続く老舗理容室「麻布 I.B.KAN」
この現存する日本最古の理容室で、代々受け継がれる「蔦屋吉五郎」の八代目を名乗って邁進する西原 地昭氏に仕事へのスタンスや展望を聞いた。
●八代目 蔦屋吉五郎 (はちだいめ つたやきちごろう)
本名、西原 地昭(にしはら くにあき)。1980年5月30日生まれ、東京都出身。駒澤大学在学中に理容専門学校の通信科に入学。卒業後、複数の理容室に勤務し経験を積む。2012年には「麻布 I.B.KAN」に就職。父親である七代目の下で腕を磨き、2018年に八代目を継承した。
清潔感を大事にして内装をリニューアル
八代目 蔦屋吉五郎(以下、八代目) 「幼少期からお店に出入りしていましたので、父親がどんな仕事をしているのか、うちがどういった歴史を持っている店なのかは理解していました。なんとなく『あぁ、僕が継ぐのかなぁ…』という漠然とした気持ちだったと思います。しかし、両親から特に『継げ!』と強く言われたこともなく、好きなことをやればいいというスタンスでしたので、普通に大学に進学しました」
八代目 「僕自身、大学時代は〝夢〟というものも特になかったんですが、両親から『理容師の免許くらいは持っておいてもいいんじゃないか?』というアドバイスをもらいました。さすがに大学へ入学してすぐに、並行して専門学校へ…という考えはなかったので、大学2年の時に通信制の理容専門学校に入学したんです。というのもある日、僕の机の上に専門学校のパンフレットが置かれていて(笑)。やはり、親からすると、口には出さないものの『継いで欲しい』という思いがあったのかもしれません。それで大学卒業後は、違う理容室に就職しました。僕自身、いきなりI.B.KANに就職するというより、経験値としてほかのお店を見ておきたかったんです。その頃にはもう、後を継ぐということも意識していたかもしれませんね」
八代目 「2012年です。実は最初に就職した理容室は一年ほどで辞める形になり、そこからまた違う理容室や美容室でも働きましたが、一度、まったく別の職に就いたことがあるんです。デザイン事務所で、クライアントの要望をデザイナーに伝えて進行を管理するディレクター業務をやっていました。もともとパソコンでの作業が好きで、今でもお店のHPを自分で作ったり、店に置いているメニュー表を自分でデザインしたりしています。ですので、異業種ではありましたが、その当時の経験が現在に生かされている部分はあると思っています」
先代と同じように時代に柔軟に対応
八代目 「実は店名を『ヘアサロン西原』から『麻布 I.B.KAN』に変えたのは、父である七代目なんです。七代目は時代の変化に柔軟に対応する人ですので、そのあたりの精神は参考にしています。僕が八代目を継いだ昨年、内装を一新したんです。やはり〝床屋〟というと、若い方から見れば古臭いイメージが付きまといますので、その感覚を払しょくするべく、清潔感とシックな雰囲気が出るようにこだわりました」
八代目 「一昔前は理容室というと、髪を切って、シャンプーをして、顔剃りをして、はい、終わり!という感じだったのですが、今は違います。マッサージはもちろん、頭皮のケア、スキンケア、リラクゼーション…お客様のニーズは多岐に渡ってきていますので、そこに力を入れたいと思っています。店内のBGMも、これまではラジオをかけていたんですが、よりリラックスできるようにヒーリング音楽に変更しました。さらに、店舗の2階には個室を設けました。お客様に、もっとプライベート感、VIP感を楽しんでいただけるようにしたんです。幸い、非常に好評です」
八代目 「やはり接客時の言葉遣いの徹底ですね。技術の向上はもちろんですが、普段からのちょっとした所作にも気を配るよう、スタッフ間で共有しています。それと、長いスタッフですと、もう15~16年も働いてくれている者がいます。スタッフが働きやすい環境を作ってあげるのが僕の役目でもありますので、少しでもストレスなく長く働いてもらえるように、例えば定休日以外でもお休みの日を設けるなど、努力しているところです」
八代目 「はい、現在、4歳の息子と2歳の娘がいます。僕自身がそうだったように、特に口うるさく『後を継げ!』と言うつもりはありません。好きなことをやってほしいですね。…こっそりと机に専門学校のパンフレットを置くくらいはするかもしれませんが(笑)」
八代目 「大事なことはしっかりと引き継ぐということでしょうか。例えば、お店をリニューアルするにしても、懇意にしてくださってきた常連様たちを置いてきぼりには決してしません。近年は、照明が暗い高級志向の理容室も増えていますが、うちがそれをやると、常連様たちにとっては居心地が悪くなると思ったので、現在の明るい照明にしています。文化、歴史を大事にしながらも、自分の個性は発揮する。そういったバランス感覚は重要だと思っています。もちろん今後、250年、300年と代々続けるべく、技術、サービスの質の向上は常に考えています。…偉そうなことを言っていますが(笑)、要は継いだ後、自分にできることを精いっぱいやるだけです!」
- [麻布 I.B.KAN]
- http://www.ibkan.com
住 所:東京都港区麻布十番3-8-6
電 話:03-3451-2877
定休日:毎週月曜、第1・第3週は月曜、火曜