インタビュー

極上の〝玉虫色〟を追い求めて 門外不出の製法を守り続ける

2019.09.21

株式会社伊勢半本店:佐々木 宗臣氏インタビュー

文政八年(一八二五年)の創業以来〝紅〟にこだわり続け、現在する女性用化粧品メーカーとしては最も長い歴史を誇る株式会社伊勢半本店。
同社において、門外不出の製法を守り続ける紅職人として働く佐々木宗臣氏に、鮮かな紅色が、乾くと美しい玉虫色に変化する昔ながらの口紅作りに対するこだわりや誇りを伺った。

 

【プロフィール】
●佐々木 宗臣(ささき むねおみ)
1971年11月29日生まれ、埼玉県出身。東京の大学を卒業後、物流会社勤務などを経て、37歳のときに株式会社伊勢半本店に紅職人として入社。190年以上もの間続く祖業を絶やさぬよう、日々紅作りに励んでいる

 

自然のものを扱う難しさ

― どのような経緯で現在の職に就かれたのでしょうか?

佐々木宗臣氏(以下、佐々木)「大学を卒業し、物流関係のサラリーマンとして働いていたのですが、一〇年ほど前に『伊勢半本店』に勤務する知人から『紅製造の職人が引退する』という話を聞いたことがきっかけでした。漠然と〝職人〟に対して、格好いいなといった憧れは持っていましたが、具体的に何をやるのかも分からず、ましてや男性とは縁遠い女性用化粧品メーカーですので、『ぜひ、やらせてください』と未経験でこの世界に飛び込みましたが、本当に自分で務まるのか、不安も大きかったです」

― どのような修業時代を過ごされたのですが?

佐々木「引継ぎ期間は先輩の職人が辞められるまで三ヶ月しかなかったんです。しかも先輩は手取り足取りといった感じではなく『よく見てろよ』と自分の作業を見せて技術を盗ませるという教え方の人でしたので、相当なプレッシャーを感じながら見よう見まねで作業していましたね。現在もそうですが、社の方針で現役の紅職人は二名のみ。もう一名の私より歴の長い職人がいたのですが、聞くのも癪でしたので、なんとか自分で考えながら紅と向き合っていました。会社の祖業を任せていただいているわけですから、憧れだけでは続けられませんし、そういった意味では体力的な部分よりもやはり精神的な部分できつかったですね」

― 先輩職人様からの言葉で何か覚えていらっしゃることはありますか?

佐々木「『そのうち分かってくるよ』という言葉をよく覚えています。〝そのうち〟がいったいいつなのか、未だに分かっていませんが(苦笑)。扱っているものが自然のものですので、当然〝同じもの〟というのは存在しません。実際に自分で筆で塗って確かめないと、判断がつかないので、今でも毎回、綺麗な玉虫色が出たときはほっとします。もし可能ならば先輩に『僕は間違っていませんよね?』と聞いてみたいです」

― 佐々木さんの職人としてのこだわりをお教えください。

佐々木「やはり、美しい玉虫色を出すことですよね。これが出ないと商品にはなりませんから。先ほども言いましたが、自然のものですので、塗ってみないと分かりません。そんな状況下でも、クオリティのバラつきは絶対になくしたいと、コツをつかむまでは苦労しました。余談ですが、街を歩いていても綺麗な色の服を着ていらっしゃる方を見かけると『お、いい色だな』と思わず目で追ってしまいます。職業病ですよね(笑)」

〝余白〟を残さないといい職人にはなれない

― まだ先のお話しですが、跡継ぎの職人の教育に関してはどのように考えますか?

佐々木「自分が三ヶ月という期間しか先輩と対峙することができませんでしたので、もう少し時間をかけて教えていきたいという思いはあります。しかし、基本的なことは教えますが、必要以上のことまで教えるつもりはありません。ある程度の〝余白〟を残しておかないと、想定外のことが起こったときに自分で考えて行動できなくなると思うからです。私も先輩からそのように教わったんだなと、今となっては思えますから」

― 近年、ファスト・ファッションなどの台頭で物への執着が希薄になってきているように感じます。そんな時代に紅を作り続ける意義をどのように考えていらっしゃいますか?

佐々木「誇りはもちろん持って作り続けていますが、おっしゃる通り、物の価値というのは、人それぞれになってきています。しかし、『江戸時代からの口紅なんですよ』という情報をきちんと伝え、丁寧に手作りしている過程を知っていただければ、必ず興味を持っていただけますし、大事にしてくださります。昔から行事の節目で使用してきたものですので、例えば、成人式や結婚式など人生の節目に使っていただきたいですね。思い出を彩るひとつのアイテムになれば嬉しいと思っています」

― 今後の夢をお聞かせください。

佐々木「私は先代、先々代…その前から祖業を絶やさず続けて来てくださったという思いが強いんです。もちろん、商品を作るためには紅花の農家の方をはじめ、たくさんの方の努力が必要です。ですので、さまざまな意味を込めて〝無事にこのまま進んでほしい〟というのが夢ですね」

 

▼ 「小町紅 季ゐろ」(税込12,960円)
撮影:外山亮一

 

株式会社伊勢半本店
http://www.isehanhonten.co.jp/

今、日本にある女性用化粧品メーカーで最も古い歴史を持つ。創業者・澤田半右衛門が作った、お猪口に塗られた玉虫色に輝く口紅「小町紅」が江戸で人気となった。ちなみに、紅とは紅花の花弁に含まれる赤色色素のこと。乾くと美しい玉虫色に変化するが、水に濡れると赤く変わり、それを口紅などの化粧品として用いる。詳しくはHP参照。
HP:http://www.isehanhonten.co.jp/
※現在改装中で11月2日(土)オープンの「紅ミュージアム」(東京都・南青山)の情報もHPまで

 

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