インタビュー

“街のコンシェルジュ”として頼られる存在であり続けたい

2020.06.05

肴屋本店:大里 明氏インタビュー

明治初期の創業以来、歴史ある商店が建ち並ぶ商店街「曲がり松」の中心として営業を続ける老舗旅館「肴屋本店」。
若き7代目として、人気アニメとのコラボなど、時代の潮流に乗ったサービスを提供するのが大里明氏だ。
そんな大里氏に、跡継ぎとしての心構えや今後の展望までを聞いた。

 

【プロフィール】
●大里 明(おおさと あきら)
1977年1月24日生まれ、茨城県大洗町出身。大学を卒業後、板前の修業のために東京の料理店に就職。4年後、地元に戻り家業である老舗旅館「肴屋本店」で働くことに。31歳の時に先代である父親が他界。後を継いだ後に、いち早くインターネット環境を取り入れたり、アニメ聖地としての情報を発信するなど、独自の方法で「肴屋本店」と大洗町を盛り上げている。

跡継ぎ直後に震災に見舞われて…激動の10年を経験

―どのような幼少期を過ごされましたか?

大里 明氏(以下、大里)「私は生まれも育ちもここ大洗町なんです。老舗旅館の跡取りとして、幼少のころから両親からも従業員からも街の方たちからも『将来はあなたがこの旅館を継ぐんだ』と言われ続けてきました。ですので、なんの疑問や違和感もなく、現在の地位に就いていると言えます。そういえば、小学校の時の文集には〝旅館を辞めてホテルに建て替える〟なんて書いていましたっけ…。その夢はまだ叶えてはいませんが(笑)」

―学校をご卒業後はすぐに「肴屋本店」で働かれたのですか?

大里「いえ、地元の大学を卒業後、板前の修業をするべく東京の料理店でお世話になりました。結局、4年ほど働き、こちらに戻ってきたのです。26歳のころですね」

―どのような経緯で大里様が継がれたのでしょうか?

大里「私が28歳の時に、先代である父親が病に倒れました。それを機に、経営などに携わるようになりましたが、正式に社長に就任したのは父が亡くなった31歳の時です」

―明治時代から続く老舗旅館を継ぐということにプレッシャーなどはありましたか?

大里「そのころは右も左も分からない状態でしたから、もう〝やるしかない〟といった心境でしたね。プレッシャーを感じる間もなかったというのが正直なところです。幸い、従業員や地元の方たち、仲間たちにも支えられて、なんとかやってこられました。不慣れな私を温かく見守っていただいたことを、今でも感謝しています」

―継がれてからのご苦労などをお聞かせください。

大里「2011年に起こった東日本大震災です。『これから、いったいどうなるのか?』という先の見えない不安に押しつぶされそうになりました」

―どのようにその危機を乗り越えられたのでしょうか?

大里「やはり、街の方々と協力し合ったことで乗り越えられたと思っています。その後、2012年に、ここ大洗町を舞台にしたアニメ『ガールズ&パンツァー』(以下『ガルパン』)が放映され、全国のアニメファンが大洗町を訪れるようになりました。当旅館のロビーに関連グッズなどを展示したり、ファンの皆様向けの宿泊プランをご用意したりして、歓迎しました。また、商店街全体も『ガルパン』のキャラクターのポップを飾りつけたり、ファンと地元商店街の交流も積極的に行ってきました。今思い返すと、本当に激動の10年でしたね」

―旬のカルチャーをビジネスに取り入れるのは、先代にはない大里様の個性なのですね。

大里「もともと新しいもの好きなんですよ(笑)。私が継いだのはちょうどスマートフォンが普及し始めた時代。ネット予約なども増加したことで、この辺りではいち早くホームページを作成しましたし、お客様のニーズも団体客から個人客へとシフトしていきました。代替わりするとどうしても先代と比べられがちですが、自分のできること、できないことというのは必ずあると思っています。実際に、父親から代替わりした時に信頼を得られず、離れていかれたお客様もいらっしゃいますが、それよりも、伝統を守りつつ、自分の個性を生かしながら、新たなお客様に満足していただく方に念頭を置いています」

大洗町の観光をどのように導くか常に模索する

―昨今、コロナウイルスの猛威が日本中を席巻しています。4月16日には「非常事態宣言」が全国に拡大されました。影響はいかがでしょうか?

大里「私共を含めて休業を余儀なくされているお店が多いので、特に夜は街自体が静かになりましたね。しかし、週末になると潮干狩りなどのお客様が大勢いらっしゃっています。観光地ですので、来ていただけるのは有り難いのですが、やはり県外のナンバーの車が多いと、こういうご時世ですので、少し不安になる地元の方もいらっしゃいます。一刻も早い収束を願うばかりです」

―「肴屋本店」の今後のビジョンをお聞かせください。

大里「『肴屋本店』は街の中心地にある商店街に位置しています。ですので、この街のさまざまな魅力を訪れた方々にお伝えできる〝街のコンシェルジュ〟としての役割を担っていきたいといつも思っています。そもそも旅館というもの自体が、昔から街のコンシェルジュ的な側面を求められる業種ですからね。県外からのお客様はもちろん、町民にとっても、頼られる存在であり続けたいです。また、私自身のビジョンで言いますと、大洗町の観光協会長もさせていただいていますので、これからのこのエリアの観光をどのように導いていくか、日々、仲間たちと議論を交わしています。大洗町は、とても過ごしやすく、穏やかな気候に恵まれている地。首都圏から、休日をのんびり過ごせる場所として来ていただけるのが理想なんです。観光地とはまた違った、保養地としての魅力もどんどん発信していきたいですね」

※インタビューは4月17日にLINE通話にて行いました

 

「肴屋本店」は「ガールズ&パンツァー」の本編にも店名や外観がそのままの姿で登場。熱心なファンから〝聖地〟とされている

 

落ち着いた佇まいの内観。一刻も早くコロナ禍が収束し、再び観光客でにぎわう日が訪れることを願いたい

 

宿で提供する旬の食材を使用した料理は大里氏自身が腕を振るう

 

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