ハッピーに退社してほしいから“お別れ時の印象”が大事
2020.02.10
和光:勝川由康氏インタビュー
代表取締役就任後は、店舗のイメージカラーを“赤”に一新させる大胆なリニューアルを施して売り上げを伸ばすほか、驚くべき行動力とアイデアで経営手腕を発揮する勝川氏に、スタッフと接する際の心構えや今後の展望などを聞いた。
●勝川 由康 (かつかわ よしやす)
1979年6月21日生まれ、神奈川県川崎市出身。中央大学卒業後、某通信系企業に就職し営業職として働く。2003年、初代社長であった実父の逝去後、「株式会社 和光」へ転職。六本木ヒルズにあった店舗にて接客などをこなす。2011年、二代目社長の急逝後、三代目社長へ就任。看板のデザインやイメージカラーを一新するなどの大胆なリニューアルを行い、経営不振に陥っていた同社の売り上げを回復させた。
入社のきっかけはヒルズで働けるから
勝川由康氏(以下、勝川)「私の父は愛知県出身、八人兄妹の末っ子なんですが、高校卒業後、東京に出てきて実兄が勤めていたクリーニング店を手伝っていました。その頃はまだ、自転車で成城のお屋敷を回っていたそうです。その後独立し、一九七一年に、父と父の兄と二人の妻の四人で創業しました。いわゆる〝街のクリーニング屋さん〟ですね。ちなみに父の兄は八〇歳を超えていますが、いまだ現役で染み抜き講師を続けています」
勝川「いえ、まったくありませんでした。八つ上に兄がいるのですが、彼は父からスパルタで指導されていました。しかし、クリーニング業界の厳しさ、商売の厳しさを知って、まったく別の職種に就いたのです。父は、相当がっかりしたと聞いています(笑)。私自身は、大学に進学しても『何をやろうかな?』とふらふらしてましたね。ただ、これっぽっちもクリーニング業をやりたいとは思っていませんでした」
勝川「大学を卒業後、通信系の企業に就職したのですが、周りの先輩が凄すぎて、自分はこの会社で活躍できるのか、と将来に不安を覚えました。二〇〇二年に父が亡くなり、父の一番弟子だった方が社長に就任したのですが、その方から誘われた形ですね。ちょうど六本木ヒルズができる年で、『ヒルズに店をオープンさせるから、英語を話せるスタッフが欲しい』と。私は留学経験がありましたので、多少話せるんです。二〇〇三年に『和光』に転職しましたが、今思えば若かったですし〝六本木ヒルズで働ける〟ということが大きな魅力になっていました(笑)。結局、ヒルズで五年働きましたね」
暗雲立ち込めるなか思いがけない就任劇
勝川「二〇一一年、先代の社長が急逝したのです。血縁関係こそありませんが、父の一番弟子でしたから私も幼少の頃から可愛がってもらって、家族ぐるみで長い間お付き合いしていたので悲しかったですね。しかし落ち込んでいられる状況ではありませんでした。私自身、まったく寝耳に水でしたが、会社の経営がかなり厳しいことになっていたんです。しかも、社内の人間関係もぐちゃぐちゃで……。私がやるしかないと、悩む間もなく就任しました。まぁ、悩む時間が潤沢にあれば、ひょっとしたらやっていなかったかもしれませんね(笑)」
勝川「ご縁があったコンサルタントと話し合い、クリーニング業界ではなかなか珍しい赤を基本カラーにしたんです。また、売り上げの悪い店を閉めて、事業をスリム化させました。さらに、私が社長に就任して二年で約半分の社員が辞めたのですが、振り返って見るとそれも良かったと思っています。噂話、悪口を言う人、やる気がない人がいなくなり、こちらの熱意を理解してくれる社員だけが残りましたから。おかげ様で、売り上げも上がってきて、スタッフの賞与も年々上げることができています。まぁ大企業から見ると大した額ではありませんが、みんな〝どん底時代〟を知っているため、モチベーションアップにもつながっていますし、一体感が出てきたと感じています。先日オープンした、コインランドリーを併設した新たな試みの店舗を加えて、現在全二十九店舗。工場のキャパシティが限られていますので、これくらいの店舗数をキープしながら、よりよい立地に移転や合併、いわゆる〝スクラップ&ビルド〟を続けていければと思っています」
勝川「まず心掛けているのが〝困りごとをなくしていく〟ということ。実は、工場勤務のスタッフと、店舗勤務のスタッフとのコミュニケーションが全く取れておらず、軋轢がひどかったんです。社長就任時はやるせなかったですね。ですので、現場を元気づけようと、私が潤滑油になって率先してミーティングを行うようにしました。また、弊社従業員の九割以上が女性であり、パートスタッフなのですが、私が一番大事にしているのが〝お別れ時の印象〟なんです。彼女たちのメインの仕事はクリーニング業ではなく、たとえば主婦なら家事全般や子育てですし、学生だと学業です。そのような人に『うちの事業に打ち込め!』という方がナンセンスですよね。部下が『辞める』と言ったとたんに冷たくなる人にはなりたくないですし、そんな上司は勤めてほしくない。『和光』で働いて良かった、ハッピーだったと言って退社していただきたい。そして同じ地域のなかで別の立場で関わってもらえたら最高ですね。お客様としてはもちろん、もう一度スタッフで、あるいは取引会社のスタッフなど立場が変わっても関わり続けてお互い笑顔で挨拶して、困った時には助けあいたいです。残った仲間もそのほうが安心して働けると思いますし」
勝川「今は順調ですが、我々の事業は衰退産業です。向こう一〇年、今のまま続けていけるかと問われると、かなり厳しいと考えています。これからは、クリーニング事業を高所得者に向けてさらにバージョンアップさせるなど、時代の変化に合わせて対応していきたいですね。それに、クリーニング事業と言えば、やはり地域密着型のビジネスです。その地域に住む主婦や子供たちが喜ぶようなこと、お役に立てることを何かできないかと、常に考えています。私はインターネット上などで仕事をするのではなく、実際に店舗を作ってリアルに人と接するようなビジネスが好きなので、人が関わる商売を中心に複数の事業を立ち上げたいです」
勝川「いえ、私は今いる従業員、または新しく入ってくる従業員の中から後継者を育てていきたいと考えています。彼が、どうしても跡を継ぎたいと言ってきても『だったら、自分の力で上まで上がってきなさい』と厳しく接するつもりです。今は、八村塁選手に憧れているので、先日も将来の夢がテーマの作文で〝バスケットボール選手になりたい〟と書いてありましたが……私と同じで、あまり運動神経は良くないんですよ。でも背が高いからリバウンドはよく取っています(笑)」
- 【株式会社 和光HP】
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