意外と知らない役員報酬の仕組み~ご自身と奥様の役員報酬額の決め方
2018.01.15
医療法人における役員報酬の取り扱い
1.定額同額給料(役員給与)
定額で支払われる役員報酬のことで、簡単に言えば「役員給与」のことです。支給時期は1か月以下の一定の期間でなければなりません。
基本的には、毎月の支給額を一定額に定めることと、改定する際には期首(会計年度の始め)から3カ月以内に1回だけ変更が可能であることを、覚えておくと便利でしょう。
それ以外の時期に増額を決めてしまうと「定額」という概念から外れてしまうため、損金として認められなくなってしまいますのでご注意ください。
2.事前確定届出給料(役員賞与)
その役員(理事)の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する、給与のことです。
かみ砕いて言うと、事前に税務署に届出書を出すと認められる、特定の時期に与えられる「役員賞与」と言えます。
3. 利益連動給与
実際上は上場企業のみに認められる、利益に連動して受け取ることのできる報酬のことです。
一定の要件のもとでその役員に対して支給する、有価証券報告書に記載されている業績連動給与の損金算入が認められることになっています。
厳格な要件があるため、実際上これを利用できるのは、上場会社に限られています。
4.退職給与
役員退職金であることで、一般社員よりも功績倍率が高く設定できる場合が多くあります。基本的に法人は、その金額を全額損金として算入できますので、法人税の削減にも繋がります。
詳しくは、以前投稿している「退職金Vol.1」(https://drs-wealth.com/finance/fi130/)をご参照ください。
以上の様に役員報酬には4種類あることがお分かりいただけたかと思います。
次に、1.役員給与と2.役員賞与をどの程度、ご自身の報酬と奥様の報酬に反映すればよいのかを、考えていきます。
日本の所得税率は、5~45%幅の超過累進税率となっており、給与が上がれば上がるほど、税金を納めなければなりません。
そのため、理事長1人で高収入を得るより、奥様やご家族に所得を分散させる形の方が所得税が少なくなります。
その結果として、世帯での税引き後収入が増えるのです。
モデルケースとして、
(1)理事長1人で3,000万円の収入を得た場合
(2)理事長2,000万円+奥様1,000万円=合計3,000万円 を分散させた場合
を考えてみましょう。
※税率及び控除額は、国税庁ホームページの所得税の税率表(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2260.htm)、給与所得控除H28年分(http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1410.htm)を参照しています。
(ケース1)理事長1人で年収3,000万円
理事長 所得税{3,000万円-230万円(給与所得者控除)-38万円(配偶者控除)}×40%-279.6万円(控除額)=813.2万円
奥様 所得税0 万円
合計所得税=813.2万円
(ケース2)理事長2,000万円+奥様1,000万円=合計3,000万円 を分散
理事長 所得税(2,000万円-230万円)×33%-153.6万円(控除額)=430.5万円
奥様 所得税(1,000万円×0.9-120万円)×23%-63.6万円(控除額)=115.8万円
合計所得税=546.3万円
以上の計算から、(1)と(2)の合計所得税差は266.9万円になります。
これは、税率差額と給与所得控除を理由としており、所得を分散すると大きな税の差が生まれることを示しています。
つまり、理事長1人で収入を得るよりも、2人で収入を分散することにより、節税効果が期待できます。
更に業務に従事するご家族(お子様や親せきの方)の方がいる場合は、さらに所得を分散させることで合計所得税を下げることが出来ます。
一方、住民税は累進課税ではなく、原則一律で10%となっています。
ケース1と2を比較して基礎控除額と配偶者控除額各33万円を加味しても、2人の住民税合計はその10%の200万円ー33x2(控除額)=134万円と同額になります。
役員(理事)報酬金額決定時の留意点
毎月の役員報酬が、同業種から見て明らかに水準からかけ離れている場合や、会社の状況や業務の内容に明らかに相応しない金額に関しては、過大役員報酬となり税務調査の対象となります。
奥様がどの様な役職に就かれていて、どのような仕事内容をしているのか、その価値に見合った額であることを主張できるような肩書と職務内容・責任を設定する必要があります。
また、社会保険料は毎年上がっており、奥様の役員報酬が上がればその分社会保険料も上がります。その負担を考慮に入れて実行しましょう。
また、役員報酬金額を設定する際には、将来受け取りたい退職金の額などの出口から逆算し、法人にいくら残すのか考えておくようにしましょう。
例えば20年後に1億円の退職金原資を確保したいのであれば、単純計算では、法人に年間500万円の利益を残し、その残りを所得分散することになります。
加えて、医療法人の立ち上げ当初や新事業を開始した年など、利益の見込みが不安定な時期は、赤字になることを避けるためにも、全体的な役員報酬額を抑え目にした方が賢明でしょう。
また、他の従業員への道徳的観点からの配慮も必要です。長く働いてほしいよい従業員が多い場合は、役員だけでなく医療法人の士気が上がるように全体のお給料のベースアップが理想的です。
以上、役員(理事)に対する給与のうち損金として認められる報酬を奥様とどう分散させるか、そしてその留意点をご説明しました。ぜひご自身の医療法人の役員報酬の見直しにお役に立てれば幸いです。
*本記事は2018年1月現在、正確かつ信頼しうると判断した情報源から入手しておりますが、最新の税務・税法等に関するご判断・お手続き等に関しましては、必ず顧問税理士にご確認の上、実行してください。
参考サイト
国税庁ホームページ https://www.nta.go.jp/index.htm
DR’s Wealth Media 歯科衛生士の妻の給料はいくらにするのが適切か
https://drs-wealth.com/qa/qa002/
DR’s Wealth Media 退職金として受け取るメリットは?
https://drs-wealth.com/finance/fi130/