人生を豊かにするジャズへの入り口
2016.11.24
ジャズ評論家 大須賀 進氏インタビュー
●ジャズ評論家
都内有名ライブハウスで活動後、元ロックバンド『キャロル』のジョニー大倉氏(1991年から1992年にかけて)をはじめ有名歌手のバックを務める。2008年よりWEB制作会社、株式会社アップウェブにてWEB制作ディレクターとして大手企業のHPに多数携わり、主にジャズに関するコピーライトやテキスト制作など文章作成作業に関わる。
ジャズの成り立ちと現状
大須賀 進氏(以下、大須賀):親戚のおじさんがサックスを持っていて、教えてもらったことがきっかけでした。学生の頃はジャズ喫茶やダンスパーティーで演奏をして、お小遣いを稼いでいましたね。
卒業してアルバイトをしながら、サックスの仕事をと思ったのですが、アルバイトが忙しくなり、サックスの仕事を断るようになったんです(笑)。それで、思いきってアルバイトを辞めたら、すぐにサックスのオーディションがありプロになれました。元キャロルのジョニー大倉さんのバックで演奏させていただいたこともありましたね。
大須賀:歴史的な側面から言うと、ジャズはニューオリンズが発祥の地と言われています。南北戦争が終わって、軍楽隊でラッパなどの楽器が不要になったことで、元々奴隷として連れて来られた黒人達の手にそれらがわたり、パレードのようなものを始めたのがきっかけだったようです。
それと、もう一つのきっかけと言われているのが酒場です。そういった場所では、お店のBGMとしてピアノ演奏がされていたのですが、そのピアノを弾いていたのがクレオールと呼ばれるフランス系の黒人でした。1900年頃から、アフリカの打楽器中心の音楽とクレオールの西洋音楽が合わさって、後にジャズと呼ばれていくようになったと言われています。
複数の文化が入り交じって、長い歴史を持っているのがジャズなので、ジャンルが多岐に分かれているのはそのためです。喫茶店で流れているような静かなものもあれば、激しいものもありますし、ダンスミュージックもあります。
大須賀:先ほど言ったようにジャズ自体ジャンルが広い音楽なのですが、現状ではもっと広く境界線のないものになり過ぎている気がします。今年のベストテンなどと書かれているジャズチャートを見ても、実際にはほとんどがジャズではないということもあります。R&Bだったり、それこそヒップホップだったり…。疑問視する声もあるのですが、それが現状ですね。だから、誤解を恐れずに言うと、ジャズというのは“死んでいるもの”だと思っています。
大須賀:骨董やクラシックなどもそうだと思うのですが、芸術には初めから衰退までの流れがあり、そこにはかならず全盛期があります。その全盛期を愛でるという楽しみ方もあると思うんです。だから、“死んでいる”というのは、『もはや全盛期ではないのでは?』ということです。
大須賀:確かにそうですよね。ジャズライブなどのお店に行かれたことのある方もいらっしゃるかと思うのですが、ハードルが高いというのは、実際に演奏していた僕でも思います。ただ、それが悪いことだとは思いません。そもそもジャズ自体が誰にでも分かる音楽ではなく、ある程度勉強した人にとっては“聖域”という感覚があるんです。だから、無理してジャズライブなどに一足飛びに行くというよりは、自分でCDを買ったりダウンロードしたりして、徐々に好きになっていってもらえたらと思います。
それに、ジャズを好きな人はマイノリティーなので、好きな人同士は逆に仲間になりやすいのです。だから、曲を聴いて好きになることで、そういう輪も広げていけるのではないでしょうか。
ジャズへの入り口と楽しみ方
大須賀:オススメする入り方には、二つあります。一つは“人(アーティスト)”からですね。つまり、『良いな』と思ったら、演奏している人の名前を調べて、聴き始めてみます。次に、その人の“サイドメン(一緒に活動しているリーダーやフィーチャーされている人以外のメンバー)”へと広げていく。一緒に活動しているメンバーというのは自然と傾向が似てくるので、広げやすいんですよ。
そして、二つ目の入り方は、やはり“曲”ですね。中でも入りやすいのは、“スタンダードジャズ”と呼ばれるジャンルです。ハリウッドやミュージカルで歌われた恋の歌をジャズ風にアレンジしたものなので、親しみやすいと思いますし、好きだったり聴き覚えがあったりする曲を別の方向から味わうことができるので、おもしろいですよ。
大須賀:ピアノ・トリオから入られるのが良いのではないでしょうか。ピアニスト、ベースプレーヤー、ドラマーからなる基本の編成のことで、ベーシックなジャズを楽しめます。聴きやすく、静かな曲調も多いので、例えばご夫婦でお酒を飲みながら聴くというシチュエーションなどに適していると思いますよ。
大須賀:楽器の演奏に憧れというものを持ち、退職をきっかけに始めるという方はたくさんいらっしゃいます。その中でも一番人気がサックスです。憧れていた方にとっては“ジャズらしい”楽器の代表なんでしょうね。
大須賀:私はジャズに関しての記事などを書かせていただいているのですが、これから年齢を重ねるごとにその年代に沿ったジャンルについて書いてみたいと考えています。書く行為は様々な人の想いや文化を自分の中に取り入れるという行為なので、その分人生が豊かになっていると思います。これから新たに趣味を見つけたり、見識を広げたりしていくことも同じことなのではないでしょうか。ジャズがこれを読んでくださっている方にとって、そういう存在になれば嬉しいですね。
まとめ:初心者にオススメの“ジョン・コルトレーン”
【ジョン・コルトレーン】
モダンジャズのサックス奏者。1950年代のハード・バップの黄金時代から1960年代のモード・ジャズの時代、さらにフリー・ジャズの時代にわたり大きな足跡を残した。それだけにクセの強い曲も多いため、まずは下記の3枚から入るのがオススメ。
“これぞモダンジャズ”という激しい楽曲を聴きたい時に。
■ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン
ジャズでムーディーなボーカルが入った曲を聴きたい時に。
■バラード
酒場でかかるような、ゆったりとしたバラードの曲が聴きたい時に。