開業医も他人事ではない働き方改革
2019.06.03
現実味のない医師の働き方改革!開業医が知っておくべきポイントとは!?
2019年4月より働き方改革関連法が施行されました。開業医や勤務医も例外ではありません。
今回は、開業医の皆様に焦点を当て、『現実味のない医師の働き方改革はどうなっているのか』『開業医として知っておくべき働き方改革のポイントやリスク』について解説します。
働き方改革とは多様で柔軟な働き方を選択できるようにするための改革
まず、働き方改革は「少子高齢化に伴う生産年齢事人口の減少」や「労働者のニーズの多様化」などの課題へ対応するための環境づくりです。労働者がそれぞれの事情に合わせ、働き方を選べるよう改革が進められています。
【働き方改革のポイント8つ】
・時間外労働の上限規制
月45時間、年360時間が原則
・年次有給休暇の確実な取得
年5日の有給取得の義務化
・中小企業の月60時間超の残業の割増賃金率を引き上げ
割増賃金率(50%)の猶予廃止
・フレックスタイム制の拡充
・高度プロフェッショナル制度
年収1075万円以上の高度専門職を対象とした制度(現時点で勤務医は対象外)
・産業医・産業保険機能の強化
・勤務間インターバル制度の導入促進
前日の終時刻と翌始間に一定休息時間を確保
・正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止
改革により医師が負うリスクとは
■勤務医の場合
2019年3月に厚生労働省がまとめた勤務医の残業時間の上限規制は、原則「年960時間(月平均80時間に相当)」です。ただし、地域医療に欠かせない一部の医師に関しては「年1860時間(月平均155時間に相当)」が上限とされました。
この上限は過労死ライン(月80時間以上)の2倍近くにものぼります。つまり、地域医療に欠かせない一部の医師は、過労死ライン2倍近くまでなら働かせてOKと暗に言っているようなものです。そのため、過労死ラインの2倍近くを基準として、業務が組まれるリスクが生じる可能性もあります。
このように、勤務医の方は、法律による勤務制限が一般の従業員に比べて少ないため、後述の有給消化義務など自身が持つ権利を把握し、計画的に休暇を取得できるよう申請するなど、自ら自身の労働環境改善に努める必要もあるでしょう。
■開業医の場合
従業員の「労働時間の上限」「年次有給休暇の取得日数」を意識して管理しないと、多大な金額の罰金を受けるリスクがあります。
勤務医の場合、他のスタッフと時間外労働の上限が異なります。勤務医と他のスタッフとで、それぞれ時間外労働の上限を超えないよう、管理する必要があります。
また、働き方改革により、「1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得」が企業に義務づけられました。これにより、従業員に対し年次有給休暇を取得したい時期を聴取し、年次有給休暇を希望の時期に取得しやすい環境を整えることも重要となってくるのです。
万が一、残業時間や休暇取得などの取り決めを遵守しなかった場合には、罰則として1人につき30万円以下の罰金が科されます。
リスクを回避するための方策
■健康、福祉の充実
勤務医の過労死、過重労働のリスクを抑えるためには、余裕のある人員配置が必要です。
ギリギリの人数にするのではなく、急な欠勤が出ても問題ない人数の人員を確保することで、各職員や休日を取りやすくなり、1人あたりの仕事量も減らすことが可能です。
また、育休や産休を取りやすい環境、その後に復帰しやすい環境などを構築すれば、女性も働きやすく辞めにくい環境が整い雇用状況が改善するでしょう。
■個の負担を分散させる
経営者や勤務医の負担を軽減するには、事務職員の雇用も有効です。
スケジュール管理や、製薬会社や金融機関との交渉、予約受付業務など、有資格者でなくても行える業務を任せることのできる事務職員を雇用できれば、医師や看護士、衛生士等有資格者の負担を軽減でき、更なる人材確保につながった事例も多くあります。
人材を確保して、医師でなくてもできる仕事を分業することで、個の負担を軽減させ、時間外労働の上限を超過するリスクが抑え、休暇取得がしやすくなるような環境整備進めましょう。
■ワーク・ライフ・バランスの改善を組織で取り組む
ワーク・ライフ・バランスの問題は、なかなか従業員個人でどうにかできるものではありません。組織としてワーク・ライフ・バランスが改善するよう取り組むことで、従業員の生活の充実が現実的になります。
たとえば有給休暇だけでなく、年度のはじめに、各スタッフの長期休暇の希望を確認し、それ以外のスタッフでスムーズな診療が行えるようスケジュールを組んでおくなど、前もって申請することで、スタッフ間で調整できるような環境を作ると効果的です。
また、福利厚生として食事会や社員旅行などのイベントを行い、日ごろから診療以外での交流を行っておくことで、連携が取りやすくなるなど働きやすい環境作りにつながることもおおいにあるため、従業員への慰労を兼ねて何らかのイベントを企画してみてはいかがでしょうか。
■まとめ
医療業界は常時人材不足である傾向にあり、なかなか労働環境の改善まで手が回らないとお思いの院長先生方も多くいらっしゃるでしょうが、個の負担を減らし働きやすい職場環境を確立することで、既存のスタッフからの紹介で人材確保ができたなどといった事例も多く存在します。
今の若い世代の方には、給与や業務内容など以上に、休日など福利厚生を重要視して就職先を選ぶ方も多いといわれていますので、今回の改革を機に、働きやすい環境作りを追及し、よい人材が集まりやすい医院経営を目指されてみてはいかがでしょうか。