【第5の習慣】まず理解に徹し、そして理解される
2017.08.23
7つの習慣に学ぶ、部下を理解し部下から理解されるコミュニケーションのとり方
医師 「これをかけてごらんなさい。10年以上使っていますが、すごくよく見えますよ」
あなた「全く見えません」
医師 「おかしい。私はその眼鏡でよく見えるんですから、もっと頑張ってみてください」
あなた「頑張っています。でもモノがぼんやりとしか見えないのです」
医師 「なんという人だ!私がこんなにもあなたの力になろうとしているのに」
(※ 完訳 7つの習慣 人格主義の回復(キングベアー出版) p. 338を参考に作成)
実在の医療現場でこうした医師はいないかと思いますが、コミュニケーションに目を向けてみると、意識せずにこのような会話をしている方々が多いのが現状です。本コラムを読まれている方の中にも、「部下とのコミュニケーションがうまくいかなくて…」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、スティーブン・R・コヴィーの 『7つの習慣』 の中から、【第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される 】 を参考にして、コミュニケーションの取り方や相手を深く理解する必要性をお伝えします。
自叙伝的反応をしていないかを意識する
私たちは人の話を聞くときに、どうしても自分の経験というフィルターを通してしまいがちです。そうしたコミュニケーションの取り方のことをコヴィーは自叙伝的反応と呼んでおり、具体的には以下の4つがあるといいます。
(1) 評価・・・相手の話に対して同意、もしくは反対する
(2) 探り・・・(自分の視点から) 相手に質問する
(3) 助言・・・(自分の経験から) 助言する
(4) 解釈・・・(自分の経験を基に) 相手の動機や行動などを説明する
こうした反応の根底にあるのはすべて「自分を理解してほしい」というものです。そのため話をしている相手にとっては、自分の話を聞いてくれなかったと感じてしまう要因になります。
例えば、部下の方があなたに仕事上の相談をしてきたとしましょう。あなたの答えが「~なのはなんでなの? (探り)」「●●したらどうだ (助言)」などという言葉ばかりだったらどうでしょうか。部下が具体的な回答を求めているのであれば、それで問題ないかもしれません。しかし、中には悩みがうまく言語化できておらず、何に悩んでいるかがよくわからないという部下もいるかと思います。そうしたときに、これらの反応をしてしまうと「この人には話をしても意味がない」と思われてしまい、表面的な信頼関係で終わってしまいます。
部下とのコミュニケーションの第一歩として、まずこうした4つの自叙伝的反応をしていないかどうか意識してみることをお勧めします。それを踏まえた上で、次に説明する「共感による傾聴」をするのが重要になります。
共感による傾聴のポイントと効果
コヴィーは傾聴の度合いに応じて、4つのステップにわけています。
Step1: 相手の言葉をそのまま繰り返す
Step2: 相手の言葉を自分の言葉に置き換える
Step3: 相手の気持ちを言葉にする
Step4: Step2・3を組み合わせ、相手の言葉を自分の言葉に置き換え、さらに相手の気持ちも言葉にする
Step2では、相手が発した言葉の意味を考えます。例を挙げるなら、
部下 「会社に行くのがいやなんです」
あなた「会社に行きたくないんだね」
といった具合です。ただし、この時点では表面にある言葉を拾っているにすぎず、言語に現れない感情面までは踏まえることができていません。
より感情面に寄り添った傾聴方法としてStep3があります。Step3では、Step2に加えて相手がどういう気持ちでその言葉を発したのかという所に焦点をあてます。先ほどと同じ言葉を部下が発したとすると感情面を意識するため、
あなた「そうか…辛かったね」
といったような返答になってきます。
そして、この2つを組み合わせたのがStep4になります。
あなた「会社に行きたくないのか・・・、よく辛いことを話してくれたね」
と答えられることが、7つの習慣で言う「傾聴による共感」です。これが意識できるようになると、コミュニケーションは単なる言葉のやりとりではなく、相手の心に寄り添った「会話」となります。相手の身になって話を聴くことで、結果的に相手から理解されるということにつながり、表面的ではない深い信頼関係を得ることができるでしょう。
ただし、傾聴による共感をするうえで1点だけ重要なことがあります。それは「相手を本当に理解したいという真摯な気持ちを持つこと」です。下心や偽善が見抜かれてしまうと相手は心を開こうとはしないので、まずはあなた自身に向き合い、相手を本当に理解したいという気持ちを持つことがコミュニケーションの第一歩です。
第5の習慣の末尾に、コヴィーはこう語っています。「まず理解に徹する。問題が起こる前に、評価したり処方したりする前に、自分の考えを主張する前に、まず理解するよう努力する。それは、人と人とが力を合わせる相互依存に必要不可欠な習慣である。」他人と過去は変えられませんが、自分と未来は変えることができます。これを読んだこの瞬間から、これらのことを意識することから変えてみてはいかがでしょうか。
『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』 キングベアー出版,2013.
スティーブン・R・コヴィー著