『松虫の奇跡』に学ぶ人材育成
2016.04.20
教育者に学ぶ人材教育Vol.1
ゴミで散らかった校内、砂場にまで草の生えた荒れたグラウンド、冷めた目つきの子どもたち。厳しく指導すればPTAからは『体罰』だと批判され、仲間であるはずの同僚からの協力も得られない。
そんな状況の中でも子どもたちと真正面から向き合い、道具さえまともに揃っていない弱小陸上部を、全国大会の常連校に育て上げたのです。
個人種目で13回の日本一
大阪府大会、12回連続の男子総合優勝・5回連続の男女総合優勝
全国大会・国体等、入賞総数53種目
最後の赴任校となった松虫中学での7年間では、上記のような数多くの実績を上げ、『松虫の奇跡』と称賛されました。中には、マスコミに予告した上で中学生最後の日に、日本記録を出す生徒まで現れたのです。
いったい何が、冷めた目で大人を見ていた子供たちを変えたのでしょうか。
ただ情熱をもって正面から子どもたちと向き合うだけでは、時間がかかってしまうでしょう。ただ、子供たちにとって中学生という時間は3年間と限られています。そこで原田氏は、限られた時間の中で彼らに目標を持たせ、それを達成することで自立させるための様々な仕掛けをしたのです。その軸となるのが、『書かせること』でした。
最高の目標、必ず達成できる目標、その日の練習に対する目標、目標によって自分が得られるものは何か、うまくできるのはどんな時か、うまくいかない原因は何か、予想される問題点は何か、解決策は何か、そのための具体的な行動は何か…こうしたことを毎日、毎日書かせたのです。
「書くというのはその人の思考そのものですから、頭の中が整理されて意識が高まってきたら、気づきの能力も高まり、練習の質も高まる」
そう原田氏は言います。
はじめは何も書けない生徒もいたようですが、毎日1人ずつフィードバックをして書けるようにする。そのうち、「頑張って練習をする」としか書けなかった生徒が、「腕の筋力が弱い。懸垂逆上がりを3分間で60回できる筋力をつけないと日本一は達成できない」とまで具体的に書けるようになります。書いたことと練習内容のギャップを埋めながら、毎日書いて、書いて、また書く。やがてイメージが鮮明になり、成果に結びつく。これが、『松虫の奇跡』の屋台骨です。
これはスタッフの教育にも応用できます。まずは個々の長期的な目標を決めてもらいます。
本日の目標
うまくいく時(3つ)
うまくいかない時(3つ)
例えばこの3つを毎日書いてもらう。そして院長は、毎日1人ずつフィードバックする。長期的な目標に対する、毎日の目標とその成果を共有するのです。
「そんなもの書いたぐらいでスタッフが育つなら誰も苦労しないよ」
もしかしたら、そう思われるかもしれません。
しかし育つどころか、13回の日本一、予告して日本記録を出す、予告して男女総合優勝を果たす。そんな夢みたいなことを現実にやってのけたのは、中学生です。授業には遅刻する、気に入らないというだけで教師に水をかける、ナイフを持ち歩く…そんな荒れた学校の生徒が、たった3年間で日本一になったのです。大人の私たちにできない理由はありませんよね。
「3年目で日本一を取れなければ教師を辞める」
これは、原田氏が松虫中学に赴任した当時の、生徒や同僚に対するコミットメントです。自らの立場を追い込むほどの覚悟が、輝かしい成果の根本であることも加えておきます。
院長、スタッフの成長とともに達成したい、あなたの目標は何ですか?