選手の持つ力を信じることができたのが、星野監督の強さです
2015.02.18
連載:星野監督に学ぶチーム運営 Vol.2
2013年、日本シリーズ第7戦。9回のマウンドに送り込まれたのは、前日160球を投げて敗れた田中投手でした。誰もが目を疑ったでしょう。肩を壊すリスクも高く、それ以上にここで打たれでもしたら…。登板は田中選手からの直訴だったそうですが、こういった批判が出ることぐらい星野監督がわからなかったはずはありません。案の定、試合後には批判にさらされました。
『投げたいと言ったから投げさせた? そんな無責任な話はない』
『田中を犠牲にしてでも優勝を手にしたかったのだろう』
ではなぜそんな状況で田中選手を送り込んだのでしょうか。それは、選手に対する【絶対的な信頼】と【責任に対する覚悟】ではなかったでしょうか。
この年、チームを日本シリーズまで導いた最大の功労者であり、翌年にはほぼ間違いなくメジャーへ移籍すると思われていた田中選手。星野監督は、日本シリーズ優勝のマウンドという最高の舞台を田中選手に与え、その姿を楽天のファンに見せたかったのだと思います。並大抵の覚悟ではできない判断です。
そして結果的には2013年の日本シリーズは球史に残るものとなりました。“楽天の、そして日本を代表するエースであれ”。これが、星野監督が田中選手に与えた役割であり、そしてその役割をこなすことができると最後まで信じました。その結果が劇的な優勝という形になったのです。
星野監督は中日時代、広くなったナゴヤドームで勝てるチームをつくるために、阪神から守備力のある関川選手と久慈選手を獲得、大豊選手を放出しました。しかしその後、阪神を自由契約となった大豊選手を、再び中日に呼び戻しました。星野監督は情が厚く、かわいい教え子をただ助けたかったのだという見方もありましたが、真相はそうではありません。
『これからはアジアがいい素材の宝庫になる。台湾はそうなっている。台湾と日本の間のことで、彼ほど頼れる男はいない』
これが大豊選手を呼び戻した理由です。そして大豊は中日で選手を引退後、アジア地区担当スカウトとして、その役割を果たしました。
同じようなことは阪神の監督時代にもありました。中日時代に阪神から獲得した久慈選手が自由契約になったことを知ると、直ちに阪神に呼び戻しました。守備力の弱かった阪神において、その要となるショートのポジションを争わせてチームとしての守備力と競争心をあおるのに、久慈選手の天才的な守備力が必要だったからです。
・明確な役割を与えること。
・与えたからには最後まで信じること。
これが中日だけでなく、低迷していた阪神や楽天などすべてのチームをリーグ優勝するまでのチームに育てあげた星野監督の “強さ” です。星野監督を院長先生に、選手たちをスタッフのみなさんに置き換えてみてください。みなさんの医院は、最強のチームになっていますか?
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