日本で唯一のセルロイド人形職人 父親への感謝を胸に想いを届け続ける
2019.05.12
セルロイド・ドリーム:平井 英一氏インタビュー
「若い方にもセルロイド人形を広めていきたい」
昭和30年半ばに下火になりながらも、いつか日の目を見ることを信じセルロイド人形製作をやめなかった父親の想いを胸に、日本で唯一のセルロイド人形職人として、イベントへの出店などを中心に活動を続ける平井英一氏。
これまでの生い立ちから、跡継ぎ問題、そしてこれからのことを聞いた。
●平井 英一 (ひらい えいいち)
1946年10月6日生まれ、葛飾区出身。幼少期より祖父・父親が経営する工房でセルロイド人形作りを手伝い、千葉商科大学卒業後に就職。そのころから塩化ビニールの製品を中心に製造・販売を行うが、2002年より、再びセルロイド人形「ミーコ」の製作に着手。口コミで人気を博し、ファンから愛されるキャラクターに。現在、日本で唯一のセルロイド人形職人として、イベントへの出店などを中心に活動する。6月15日(土)・16日(日)に都立産業貿易センターにて開催される「ドールワールドフェスティバル」への出店に向けて製作を進めている。
セルロイド人形製作を諦めなかった父親の英断に感謝
平井英一(以下、平井) 「はい。私が小学校三年まで、葛飾区で祖父と父で工房を切り盛りしていました。お正月用の飾りつけに使うセルロイド製の鯛や恵比寿様などを主に作っていたのです。その後、足立区にある今の工房に引っ越したのですが、昭和34年、前天皇・皇后両陛下がご成婚されましたことを機に、畏れ多いですがセルロイド製の『ミーコ人形』を製作することにしました。もう足立区は六十年ですね。私自身は、こちらでの歴史の方が長くなりました」
平井 「千葉商科大学を卒業して、工房に就職しました。その頃はもう、セルロイドは下火で、塩化ビニール製のお面などが商売のメイン商品になっていました。セルロイドは昭和30年代の半ば以降に下火になってしまったんです。というのも、アメリカへの輸出が多かったのですが、燃えやすいという理由から、輸入に制限がかかってしまいました。それに代わる材料として塩化ビニールを用いたのですが、商売自体はうまく行っていましたね。私たち家族のほかにも二~三人は従業員を雇っていましたから」
平井 「高校生くらいまでは飲食業の方に行きたい気持ちもありましたが、やはり家業でしたので、なんとなく自然な流れですよね。父親は寡黙な職人で、私は営業職を中心にやっていましたが、自由にやらせてくれました。そのころは先ほども言いましたが塩化ビニール製の商品の製造がメインで、すごく調子が良かったので、ある時、父親に『塩化ビニールが調子いいんだから、もう、セルロイドはやめたら?』と言ったんです。しかし父は断固として譲らず、採算が合わなくても、出荷数が少なくても、セルロイド製品にこだわっていました。今思うと、職人の一途な部分だったと思いますが、結果的に、現在の私の活動に繋がっていますので、その父親の頑固さは、有り難く思っています」
平井 「ある日、北原照久さん(「おもちゃ博物館」館長)から、『セルロイドでキャラクター人形を作ってくれないか?』と相談があったんです。それで父親が作ってみたところ、素朴で味わい深い、塩化ビニールやソフトビニールでは出せない味がある人形が出来上がりました。これを北原さんから評価いただいたことをきっかけに、父親が『ミーコの金型だけはまだ残してある』というので、試しに作ってみたところ、私自身がその人形に魅了されたんです。これなら人形好きな方に喜んでもらえると思い、北原さんに半年ほど預けさせていただいたのですが、結局一体も売れることはありませんでした(笑)」
採算を考えず生涯をかけた仕事としてやり遂げたい
平井 「北原さんが『せっかくいいものを作られているのだから、インターネットを使って販売してみればどうか?』とアドバイスをくださったんです。当時、私も五十代で頭も柔らかかったですから、自分でホームページを立ち上げ、ミーコを外に持ち出して、都内を巡りいろいろと写真を撮ってみたり…さまざまなアイデアを出しては試していました。そうすると、セルロイド人形で遊んでいた当時を懐かしむ女性を中心に、有り難いことに口コミでどんどんと広がっていったんです。そこから、ネットでの販売に加えて、イベントへの出店など、精力的に活動できるようになったのです。自分で作られた衣装を着させたミーコを私宛に送っていただいたりして、人形を介してファンの方々と交流が持てるのも嬉しかったですね。残念なのは、父親がその人気ぶりを見る前に他界してしまったことです。それだけは、心残りです」
平井 「実は先日、セルロイド人形のコレクターの方が『ぜひ仕事を覚えたい』とお見えになったことがありましたが、やはり、こういった人形は販売網が狭いために、商売にするのはなかなか難しいのが現状です。結局、その方も、諦められました。平成の初めくらいに、セルロイド人形職人と呼べる人はもういなくなりましたが、作り方を知らなかった私に、父親が亡くなる前にすべて教えてくれたのは、本当に感謝しています。今は寂しさというよりも、いろいろとお世話になった方々への感謝の念が強いですね」
平井 「現在は年に二回くらいのイベント出店やネットでの販売だけで、自分のペースで活動できています。できれば、若い人にももっとセルロイド人形を手に取って見ていただき、再評価してもらいたいですね。私が元気なうちは、採算を考えるのではなく、生涯をかけた仕事ですから、続けていきたいと思っています。日本全国に、ミーコが欲しいという方がいる限り、届けていきたいですね。それと、14歳のお爺ちゃんネコがいるんですが、彼と一緒に、おだやかに過ごしていければ幸せです(笑)」
父親が遺した「ミーコ」の金型
平井氏の丁寧な仕事ぶりが光る
- セルロイド・ドリーム
- http://www.celluya.com/
住所:東京都足立区辰沼2-14-2
TEL:03-3605-7724