富裕層の国外脱出が進んでいる理由と出国税
2016.07.28
富裕層が知っておくべき出国税の話
これによってどのような影響があるのか、導入の背景から、今後の流れ、出国税とはどのようなものか?についてもご紹介します。
・海外へ移住する富裕層が増えている
・国内では課税強化が進行
・出国税導入の背景と海外の動き
・そもそも出国税とは?
・出国税の対象となる資産と課税方法
・海外移住、海外資産ともに税務当局の目が厳しくなっている
海外へ移住する富裕層が増えている
海外で暮らす日本人が増えています。外務省の海外在留邦人数調査統計によると、2014年10月1日時点で海外居住中の日本人数は約129万人。2004年には約96万人でしたから、10年間で約34%増加した計算です。
事業のグローバル化によって、海外赴任する会社員が増えているのも事実ですが、日本を脱出して海外に移住する富裕層も増えているようです。
新聞報道によると、とくにマレーシア、シンガポール、ニュージーランド、香港に移住する人が多く、ここ10年で2倍近くに増えているそうです。大きな理由は税金が安いこと。この4か国では、株式などの売買益に税金がかからず、相続税もないといいます。
国内では課税強化が進行
一方で、国内では課税強化が続いています。
株式などの売買益や配当には、13年末まで10%の軽減税率が適用されていましたが、14年1月からは20%の課税になりました。
代わりに非課税で投資ができるNISA口座がスタートしましたが、年間の非課税運用額は100万円まで。富裕層にとっては、あまり意味がありません。
加えて、2015年1月には、所得税&相続税のダブル増税が実施されました。所得税は最高税率が40%から45%へ引き上げられ、住民税を合わせた税率は最高55%になりました。相続税も最高税率が50%から55%へ引き上げられています。これは、世界的に見ても最高水準です。
このように、稼いでも、運用しても、次世代へ引き継いでも、すべての面で課税が強化されているわけですから、「日本は住みにくい」と感じる富裕層が増えていても無理のない話です。
出国税導入の背景と海外の動き
富裕層の国外脱出が進めば、消費が減って景気にも悪影響を及ぼします。それを防ぐため、海外では相続税を廃止する動きもあります。
スウェーデンは2004年に相続税と贈与税を廃止しました。理由の一つが富裕層の海外移住です。
スウェーデンでは被相続人あるいは贈与者が10年を超えて海外に居住している場合、相続や贈与で財産を取得した人に相続税や贈与税がかからない仕組みになっていました。
租税回避ができることから、海外移住を選択する人が少なくなかったのです。結果、国内景気に少なからず影響を与える形になりました。そこで、相続税と贈与税をなくし、富裕層の海外移住を抑制しようと考えたわけです。
日本でも、当時のスウェーデンと同じようなことが起こる可能性があります。課税強化によって海外移住をする富裕層が増えれば、国内景気が落ち込む可能性があります。政府はそれを食い止めるために「出国税」の導入に踏み切りました。
ここからは、出国税の中身について見ていきたいと思います。
そもそも出国税とは?
2015年7月に導入された「出国税」は、1億円超の有価証券を保有する人が海外に移住する場合に、株式などの含み益に課税を行うというものです。
株式などの売却益に対する課税は、居住地の税制が適用されるのが国際ルールです。
海外移住後に売却をすれば、課税されない可能性があるのです。「出国税」を導入したのは、富裕層がシンガポールや香港など、株式などの売却に税金のかからないタックスヘイブン(租税回避地)に移住後に売却し、課税を回避することを防ぐのが目的です。
出国税の対象となる資産と課税方法
「出国税」の対象となるのは、国内に5年以上居住していた人が海外に移住する場合。その時点で保有している株式、投資信託、未決済の信用取引などに課税されます。
課税の方法は、これらの資産が1億円を超える場合、出国時の時価で換算し、含み益がある場合には、含み益に対して15%の税率が適用されます。預貯金や生命保険は対象となりません。
1年を超える海外転勤や留学の場合も対象となりますが、出国前に届け出を行えば、最長10年間は納税が猶予されます。ただし、猶予を受ける分の税額相当の担保を提供することが条件となります。
海外移住、海外資産ともに税務当局の目が厳しくなっている
政府は、海外資産の把握にも乗り出しています。
海外に5,000万円超の資産を保有する場合には、14年から「国外財産調書」を提出しなければならないことになりました。
財産の種類や数量、価格などを記入して提出します。提出を怠った場合は、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」という罰則も設けられています。
国税庁によると、制度導入後初めての調書提出期限となった2014年3月17日の時点で全国の提出件数は5,536件、国外財産の総合計額は約2兆5,000億円となりました。
しかし、未提出の人も相当数に上ると考えられます。税務当局は、調書の提出義務があるにも関わらず、提出をしていないと思われる人に「おたずね」を送付しています。故意に提出をしなかった場合には、ペナルティが課されることがあります。
このように海外移住、海外資産ともに税務当局の目が厳しくなっていますから、租税回避行為は、ますますリスクが高くなっています。
節税をするのであれば、時間をかけてプロのアドバイスに従いながら実行する必要があると言えるでしょう。