従業員を思い通りに動かす対応とは?
2017.03.01
デール・カーネギーに学ぶ従業員のマネジメント術
今回はデール・カーネギー(以下カーネギー)が提唱した「人を動かす三原則」を元に、従業員に思ったとおりに動いてもらうために役立つ言葉を、例を交えながら紹介します。
①盗人にも五分の理を認める
人を非難するかわりに、相手を理解するように努めようではないか。どういうわけで、相手がそんなことをしでかすに至ったか、よく考えてみようではないか。そのほうがよほど得策でもあり、また、おもしろくもある。そうすれば、同情、寛容、好意も、おのずと生まれ出てくる。すべてを知れば、すべてを許すことになる。
つまり、こちらからはどうしてそんなことをするのか理解できないと思っていても、相手には必ず理由があるのだから、その理由を理解する努力をしようということです。
例えば、不注意によるミスをよくする従業員がいるとします。そんな時、「なんでそんなミスばかりするんだ!」と頭ごなしに注意してしまうことはありませんか? ここで述べられているのは、まずは非難の言葉をぐっとのみこみ、なぜその従業員がそのミスをしてしまったのか? どうすれば繰り返さないようできるのか? などを一緒に考え、その従業員を理解するように努めましょう、ということです。
しかし、単に理解しようとするだけでは何も変わりません。では、どのような働きかけを行えばよいのでしょうか。そのヒントが2つめの原則にあります。
②重要感を持たせる
「自己の重要感に対する欲求」は「食欲や睡眠の欲求同様になかなか根強く、しかも、めったに満たされることがないものなのだ。」
「自己の重要感に対する欲求」とは、文字通り重要な人物であると周囲から認められたいという欲求のことで、誰しもが持っている欲求です。
自己実現理論で有名なアメリカの心理学者マズローも、人間の基本的欲求を①生理的欲求 ②安全の欲求 ③社会的欲求 ④承認の欲求 ⑤自己実現の欲求に分類し、この④の承認の欲求を自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求であると定義付けています。
では、従業員の「自己の重要感に対する欲求」を満たすために、お世辞でもとにかく褒めればいいのでしょうか。
カーネギーはお世辞について「分別のある人には、まず通用しない」と述べています。確かに、お世辞でも言われて悪い気はしないものの、見え透いたお世辞は虚しい気持ちになることもありますよね。褒める内容は必ず実際に感じたことでなければなりませんが、難しく考える必要はありません。どんな人でも良いところはあります。なぜなら、短所も言い換えれば長所だからです。
例えば、落ち着きがないというのは言い換えれば活発である、と表現できますし、何をするにも時間がかかるが、丁寧でミスの少ない仕事をしてくれる人もいるでしょう。このように、視点を変えて従業員を観察してみるときっと良いところが見つかるはずです。そして、実際に感じたことをプラスの言葉で表現して伝えるだけで、相手は「お世辞でなく褒められた」と感じるのです。
さらに、褒める際に重要になってくるのが、③人の立場に身を置くことです。
例えば、いわゆる「天然」であることを嫌だと思っている従業員に対して、いくら院長自身がほめ言葉として「天然だね」という言葉を使ったとしても、本人からすれば褒められているとは感じませんよね。つまり、褒めるときは相手の立場にたつことが重要なのです。言葉として聞くと当たり前のように感じますが、実行できていますか? 今一度考えてみてください。
では、従業員が褒められたい、言い換えれば自信を持っていることを知るにはどうすればよいでしょうか。人間は一人一人違いますから、従業員一人一人をよく観察するしかありません。若い女性はこう言えば喜ぶだろうといった決めつけをせずに一人一人をよく観察し、従業員一人一人のことを知る努力をしましょう。
さらに言えば、指示されたことよりも自発的にやろうと思ったことの方がよりやる気になります。カーネギーは『人を動かす』の中で、アメリカの心理学者オーヴァストリートの言葉を引用して、相手にやる気を起こさせる事の大切さを説明しています。
人間の行動は、心のなかの欲求から生まれる・・・・・・だから、人を動かす最善の法は、まず、相手の心のなかに強い欲求を起させることである。商売においても、家庭、学校においても、あるいは政治においても、人を動かそうとするものは、このことをよく覚えておく必要がある。これをやれる人は、万人の支持を得ることに成功し、やれない人は、ひとりの支持者を得ることにも失敗する。
つまり、相手に何かしてほしいときに、それを直接指示するのではなく、相手が自らしたくなるように仕向けることが重要ということです。先ほど例にあげたような、不注意によるミスをする従業員に確認を徹底してほしければ、直接そう伝えるのではなく、自発的にそうしたいと思うように仕向けた方が、もっと言えば、確認を徹底した方がその従業員にとって得だと思わせた方が、効果を発揮しやすいということです。
例えば、③で伝えた観察を行った結果、いつも残業で遅くなることに不満を感じているようであれば、「先に確認しておくと、ミスしなくなるだけじゃなくて、早く仕事が片付いて、もっと早く家に帰れるよ。」というように、単に指示するだけでなく、その人が得たいであろうメリットを併せて伝えることで、その場限りではなく、確認する習慣が付き、結果的にミスが減ることに繋がるのです。
このように、従業員一人一人を尊重し、その立場にたった声かけを行うことで、思ったように動いてくれるようになります。従業員と接する際に意識してみてはいかがでしょうか。
引用文献
D・カーネギー著『人を動かす【新装版】』(創元社、1999年10月)