インタビュー

人々の笑顔が自分の活力に二足のわらじを履くマジシャン

2019.08.12

プロマジシャン:タジマジック氏インタビュー

東京都中野区の住宅街にある創業70年の老舗銭湯「昭和浴場」の三代目として番台に座るプロマジシャン・タジマジックさん。
要望があれば銭湯のロビーで本格的なマジックを披露する“マジック温泉”という看板を掲げて、入浴+エンターテインメントを体現している。
そんなタジマジックさんに生い立ちから苦悩、今後の夢までを聞いた。

 

マジシャンとして頭角を現すも父親が病に…

― タジマジックさんはどのような幼少期を過ごされたのでしょうか?

タジマジック「私が子供のころは、どこの銭湯も一日に千人以上のお客様が利用していました。もちろん当時、両親と祖母が経営していたこの『昭和浴場』も同様です。ですので、生活に困るということもなく、真面目に過ごしていましたね。マジックはそのころから好きで、よく学芸会などで披露していました。その後もまったくの独学で中学、高校、大学とマジックを続けていました。今でもそうですが、とにかく、人に喜んでもらうことが大好きだったんです」

― どのようにして三代目を継がれることになったのでしょうか?

タジマジック「大学を卒業して、そのころ流行していたボーリングのインストラクターになりたかったのですが、祖母が体調を崩しまして。両親は銭湯の経営で手が離せなかったので、家を手伝いながら私が祖母の介護などをするようになったんです。並行して、マジックでも老人ホームを慰問してショーを行ったり、結婚式に呼ばれて披露したり、多くの方に楽しんでいただけるようになっていました。テレビにも出演するようになって、お陰さまでマジシャンの仕事が忙しくなってきたのですが、40代のころに父親が病気で倒れまして…。跡取りは私しかいないものですから、必然的に継ぐことになったのです」

― マジシャンとしてのさらなる成功を追う夢と、銭湯を継ぐことの狭間での苦悩はありましたか?

タジマジック「2000年ごろに跡を継いですぐ、煙突に大きく〝マジック温泉〟と記しました。現在はもっとひどい状況ですが、そのころも各家庭にお風呂があることが当たり前になって、客足が遠のいていたんです。近隣にたくさんあった銭湯もどんどん廃業している状態でした。そこで〝お風呂以外の何か〟を模索したときに、私にはマジックがあると再認識したんです。先代だった父親に遠慮することなく、自分の武器を活かして営業することに迷いはありませんでした。幸い、入浴料だけで本格的なマジックショーが見られる銭湯なんて日本全国、世界を見渡してもありませんから(笑)、各メディアに取り上げられたりと話題になりましたね。悩みといえば、銭湯の営業がありますので『ぜひ来てマジックを披露してほしい』とオファーをいただいても、遠方には行けないことでしょうか。できる限り、休日を利用して日帰りで岐阜に富山にと出向くようにはしていますが、なかなか対応できず、申し訳なく思っています」

人とのつながりで生きていることを改めて実感

― マジックショーを披露すること以外に何か企業努力をされているのでしょうか?

タジマジック「うちの銭湯も創業70年ですから、設備も古くなっています。ですので、定期的に外観の補修や壁の塗り替え、脱衣所のロッカーの入れ替えなど、お客様が快適に利用できるように気を遣っています。あとは、曜日によってサウナ料金を無料にしたり、金曜日は深夜三時まで営業したり、少しでも使い勝手が良くなればと思っています。…掃除をして売り上げの計算をして、眠るのはいつも明け方ですが、体力が続く限りがんばりますよ(笑)」

― 跡を継がれて20年近くになられますが、当時と現在とで何か心境の変化はありますか?

タジマジック「先ほども言いましたが、現在の銭湯の状況に比べると、当時はまだ売り上げは全盛期よりも落ちていたとはいえ良かった方でした。中野区にも銭湯は一〇〇件以上あったのですが、この20年で20件あるかないかにまで減りましたから。お客様の生活スタイルが変わり、家でシャワーだけで済ませる若者も増えています。それでも、年末のカウントダウンでマジックショーなどを行うと、この決して広くないロビーに一〇〇人以上集まったこともあります。跡を継いだころは『俺が継がないと』という使命感がありましたが、今は自分のマジックを披露できる〝ホームグラウンド〟として、この銭湯を上手に利用できているとでも言いましょうか。それと、私の活動や銭湯を支えてくれる方たちへのありがたみですよね。その気持ちは、当時よりも増しています」

― 近年、親御様の医院を継がれる若い医師も多くなっています。何かアドバイスはありますか?

タジマジック「私が言うのも畏れ多いのですが、自分の得意分野や個性、武器を、代替わりしたならばどんどん出していくべきだと思います。視野や活動の範囲が広がりますから。そのことで、今までの常連様が減ったとしても、努力さえ怠らなければ必ず支えてくれるお客様や仲間はたくさんできます。私自身、人とのつながりだけで生きてきたと言っても過言ではありません。お客様や仲間の笑顔のおかげで、私も生きていく活力をもらっています」

― 今後の夢や展望をお聞かせください。

タジマジック「やはり、すべてを任せられるスタッフの教育は急務だと思っています。現在は開店・閉店の作業からジュースなどの在庫のチェックや入れ替えまで、すべて私がいないと回らない状態ですから。これからもこの『昭和浴場』を末永く営業できるように、私の体が動くうちに一人前に育てることができれば嬉しいですね。そうすると、今までオファーをいただいても出向けなかった北海道や九州、海外にまで足を運んで、多くの人にマジックを披露できます。そんな日が来ることを夢見ています」

 

ロビーにはマジックの大会で勝ち取った多くのトロフィーや盾が飾られる

 

近隣の常連はもちろん、遠方や海外から来店するお客様も後を絶たない

 

昭和浴場
http://www.tajimagic.com/

住所:東京都中野区中央5-21-12
電話:03-3382-2414
時間:15時30分~翌1時30分
(金曜日は翌3時まで営業)
休み:水曜日
アクセス:東京メトロ丸ノ内線
「東高円寺」駅下車、徒歩5分

 

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