ファイナンス

病院の負担を軽くする「医療費用保証サービス」

2019.12.30

インバウンドツーリズムにおける医療費未払いの現状

日本政府観光局の「年別 訪日外客数の推移」によると、平成30年(2018年)に日本を訪れた観光客は 過去最高の 3,119 万人(対前年比 8.7%増)で、初めて 3,000 万人を突破しました。訪日客は年々増え続け、6年連続で過去最高を更新し、2020 年(令和2年)には 4,000 万人に到達するのではないかと言われています。
訪日外国人が右肩上がりに増えるにつれて、表面化してきたのが医療費未払いの問題です。
2019年8月に厚生労働省が発表した「医療機関における外国人患者の受け入れに係る実態調査(更新版)」によると、外国人患者を受け入れた2,174病院の内、386病院(17.8%)が未収金を経験していて、医療未収金の発生件数の平均は6.7件、総額は平均43.3万円であることが明らかになりました。

<なぜ医療費未払いは起こる?>

医療費未払いの第一の原因として、訪日外国人が海外旅行保険に未加入、もしくは海外旅行保険がセットになったクレジットカードを持っていなかったことが考えられます。2019年3月に観光庁が実施した「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」によると、訪日旅行者の73%は海外旅行保険に加入していましたが、27%は未加入だったそうです。
海外旅行保険に加入していたとしても、保険会社が提携している病院以外で受診する場合はキャッシュレスにならないため、保険金が支払われるまでの間、一時的にお金を立て替える必要が出てきます。しかし、保険が償還払いの場合、帰国しないとお金が戻らないので、手持ちが少なくて未払いになるケースも考えられます。
さらに、旅行保険では適用されない医療行為(持病の治療、特定の医療技術、出産・流産、歯科治療)と知らずに受診したため、保険金がおりないケースもあります。(これらの治療に対応している旅行保険もあります)
また、海外旅行保険は、同等の医療を自国で受けた時の医療費で計算されるため、物価の安い国から来た訪日客は、全額保険金がおりずに、自分で払えないこともあるでしょう。
先程ご紹介した「医療機関における外国人患者の受け入れに係る実態調査(更新版)」では、クレジットカードやデビットカードでのキャッシュレス決済に対応していない病院は50.1%あり、救急医療機関でも導入していない病院が32.5%ありました。中国人が多く使用している、「Alipay(アリペイ)」と「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」は両方共25.0%の病院のみで導入されています。
クレジットカードを主に使う国から来た訪日客は、現金をあまり持っていません。そのために、お金が払えない可能性もあります。さらに、医療費が無料の国から来た訪日客は、そもそも医療にお金を払うという意識がないかもしれません。
また、意思疎通がうまく行かず、治療内容や治療費用に納得してもらえないまま帰国され、医療費未払いになるケースもあるようです。

<医療費未払いに関する対策>

現在のところ、病院側としては、医療費未払いがあったとしても、医師には応召義務があるため、原則的には診療拒否することはできません。
しかし、まだ現時点で詳細は不明ですが、政府はオリンピックが開催される2020年度までに医療費未払いの訪日外国人を再入国拒否することに決めたため、過去に医療費未払いがあった訪日客が再び未払いとなるケースは減ると予想されています。
医療費未払い対策として、ヨーロッパの一部の国では旅行保険の契約が義務化されていて、未契約だと入国できないそうです。また、ベトナムのように、医療費を前払いしないと入院できない国も存在します。
最近は、自分の国で旅行保険に入ってこなかった訪日客向けに、都営地下鉄と東京メトロの乗車券と海外旅行保険がセットになった「TOKYO STARTER KIT」やインバウンド旅行保険なども販売されるようになりました。観光庁では、海外旅行保険の加入を勧奨するチラシを作成し、国内外各所で配布しています。
自分の国で治療するよりも医療費が高くなってしまう訪日客に関しては、ここまでの治療は日本で治療を行い、それ以降の治療は帰国してから行うなど、治療方針を事前に話し合うことで、医療未払いなどのトラブルを未然に防ぐことができるかもしれません。

<主な医療費用保証サービス>

様々な対策が行われていても、医療費未払いが発生してしまうこともあるでしょう。
そのような場合、病院の職員が未収金の督促や回収業務を行うケースも多いかと思いますが、その業務に時間をとられ過ぎて他の業務が滞ったり、外国の保険会社や病院へ連絡する際にうまく言葉が伝わらなくて、トラブルに発展してしまったりする可能性も考えられます。
そのようなケースに備えて、医療費用保証サービスに委託すれば、職員の人件費や通信費、精神的な負担などを減らすとともに、督促や回収の際に患者から訴えられるリスクを回避し、未収金も削減することができるでしょう。
医療費用保証サービスとしては、現時点で以下のものがあります。

・J-ホスピタル
ジェイリース株式会社が病院と立替払いの契約を結び、入院患者の医療費用債務を肩代わりすることで、未払い医療費の請求はジェイリース株式会社が行います。自由診療・混合診療も対象で、健康保険の有無は問いません。訪日外国人にも対応しています。現在、契約している病院の中には、未収金がない病院や20床以下の病院もあるそうです。
https://www.j-lease.jp/cost-guarantee/

・医療費未払い発生防止プログラム
メディフォン株式会社が運営する、医療通訳サービスmediPhone(メディフォン)の1つで、事前に概算金額を提示し決済を取るシステムです。在日外国人患者でも、訪日外国人患者でも利用でき、入院患者だけでなく、外来患者も対象で、医療機関の規模に制限はなく使うことができます。
https://mediphone.jp/

下記のサービスは公的医療制度へ加入している方が対象になるため、現時点では訪日外国人には対応していませんが、今後の状況次第によっては、対応を検討する可能性もあるサービスです。

・連帯保証人代行サービス「虹」
株式会社イントラストが東京海上日動火災保険株式会社と共同で開発した商品です。病院と株式会社イントラストが契約し、入院患者にこのサービスを紹介。入院患者が契約すると、株式会社イントラストが入院患者の連帯保証人になり、未払いの場合、お金を立て替えて支払うサービスです。入院費用の回収や督促も、株式会社イントラストが行います。
株式会社エランが開発した入院セットの日額定額レンタルサービス「CSセット」に、株式会社イントラストの入院費用連帯保証人代行サービスをプラスした「CSセットR」という商品もあります。
https://www.entrust-inc.jp/service/service_03.html

まとめ

医療費用保証サービスの中には、訪日外国人だけではなく、日本在住の方にも適用可能なものもあります。特に、近年、高齢者や単身者の中には、連帯保証人が見つからない方も増えつつあるようですし、2020年の4月からは民法が改正になり、個人が保証人になる場合には上限金額を定めなければいけないなど制約が厳しくなるため、連帯保証人の確保がより難しくなる恐れがあります。
未収金回収にお困りの方は、今回ご紹介したサービスを検討されてみてはいかがでしょうか。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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