大きな勘違いを生み出す10種類の本能とは!?
2019.07.24
FACT FULNESS~データを基に世界を正しく見る習慣~
「FACT FULNESS」は医師でありグローバルヘルスの教授でもあり、そして教育者としても著名なハンス・ロスリング氏とその息子夫婦が、18年間におよぶ共同作業を基に、事実に基づいて(ファクトフルに)世界を捉えることの大切さを説いた書籍です。マイクロソフトの生みの親であるビル・ゲイツ氏がこの書籍を名作中の名作と大絶賛し、大卒の希望者全員にプレゼントしたという話もあります。既に世界で100万部超の大ベストセラーとなっていて、貧困や人口、保健、教育、エネルギー問題など目まぐるしく変化する世界の事象を正しく見る、あるいは考える際に欠かすことのできない一冊といえるでしょう。
科学者とチンパンジーと、あなた
本書のハイライトである大きな勘違いを生み出す10種類の本能をお伝えする前に、まずハンス氏が2017年に日本を含む14か国・1万2,000人を対象としたオンライン調査を行った際に用いた、13問のクイズの一部を抜粋して紹介します。
質問1 世界の平均寿命は現在およそ何歳でしょう。
A 50歳、B 60歳、C 70歳
質問2 国連の予測によると、2100年には今より人口が40億人増えるとされています。人口が増える最も大きな要因は何でしょう。
A 子供(15歳未満)が増えるから、B 大人(15歳から74歳)が増えるから、C 後期高齢者(75歳以上)が増えるから
質問3 世界中の1歳児の中で、何らかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいでしょう。
A 20%、B 50%、C 80%
いかがでしょうか。
正解は順にC、B、Cです。
回答者には、世界中の科学者や大学教授、投資銀行のエリート、そしてノーベル賞受賞者なども含まれていましたが、このクイズの全問正解者はゼロ、平均正解数はたったの2問、逆に全問不正解者の割合は15%にも上ったようです。
チンパンジーがA・B・Cのいずれかが書かれたバナナを選んだとしても正解率は33%に近似することから、人間の平均点より勝っているとのことです。
これほどまでに人間が事実に基づいて世界を見ることができていない要因として、ハンス氏は誰しもが持っている10の本能を挙げています。この10の本能を上手くコントロールすることで、事実に基づいて正しく世界を見る、つまりファクトフルネスにつながると説いています。
10の本能とファクトフルネスの大まかなルール
ここからは、データを基に世界を正しく見るべく、人間の誰もが持っている10の本能とそれを抑えるための方法を紹介します。
まず10種類の本能として、
①分断(世界は分断されているという思い込み)
②ネガティブ(世界がどんどん悪くなっているという思い込み)
③直線(世界の人口は増え続けるという思い込み)
④恐怖(危険でないことを恐ろしいと考えてしまう)
⑤過大視(目の前の数字が一番重要という思い込み)
⑥パターン化(一つの例が全てに当てはまるという思い込み)
⑦宿命(全ては予め決まっているという思い込み)
⑧単純化(世界は一つの切り口で理解できるという思い込み)
⑨犯人捜し(誰かを責めれば物事は解決するという思い込み)
⑩焦り本能(今すぐ手を打たないと大変なことになるという思い込み)
を挙げています。
例えば分断本能では、世界を先進国と途上国もしくは西洋諸国とその他の国々に分断することは何ら意味をなさず、既に世界の全人口の85%が出生率は低く、生存率は高い国々で暮らしていると説明しています。そこで分断本能を抑え、ファクトフルに世界を見つめる思考法として、2つのグループを連想させる際には大半の人がどこにいるかを探すことがポイントとのことです。
次にネガティブ本能では、戦争や飢餓、自然災害などのネガティブなニュースの方が圧倒的に耳に入りやすいことを認識すると共に、減り続けている悪いことの事例として一人当り二酸化硫黄排出量や世界の全人口に占める低栄養の人の割合、5歳までになくなる子供の割合などを挙げ、悪いことと良くなっていることが両立し得ることを理解する必要があると述べています。
また恐怖本能の例として、2015年に世界中が注目したネパールの大地震を挙げ、10日間に9,000人が亡くなった一方で、同じ10日間に汚染された飲み水による下痢が原因で同じく9,000人の子どもが世界中でなくなっているとのことです。このことから、人は身体的危害や拘束、毒といった恐怖と確実にリスクのある危険は全く違うものであり、リスクを正しく計算することで、限りある資源を有効活用し、より多くの命を救うことができると述べています。
そして宿命本能に関して、ハンス氏はアフリカがこれからも貧しいままで、それがアフリカの宿命という意見をよく聞くとのことです。しかしながら、例えばチュニジアやアルジェリア、モロッコ、リビア、エジプトの5か国の平均寿命は世界平均の72歳を上回っている他、サハラ以南の50か国全てが、福祉国家として知られるスウェーデンより速いペースで乳幼児の死亡率を改善させ驚くべき進歩を遂げていると述べています。そこで宿命本能を抑えるには、テクノロジーや国、社会、文化などが刻々と変わり続けることを意識し、知識をアップデートする必要性を説いています。
まとめ
今回紹介した勘違いを生む本能と、それを抑える手法は、意識次第で誰しもが日々の生活で実践できるものばかりです。共著者の3人が設立したギャップマインダー財団のウェブサイトでは、まるで世界地図のようなチャートを用いて世界各国の平均所得と平均寿命を表した世界保健チャートなど、事実に基づいて世界を見つめる際に役立つツールが無料で公開されていますので参照してみて下さい。一人一人が、社会問題を解決し、危機に対応すべく、事実に基づいた世界の見方、ファクトフルネスを実践されてみてはいかがでしょうか。
参照
ギャップマインダー財団
https://www.gapminder.org/whc/